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自宅から逃げ出した飼い犬のウルフドッグが92歳の女性に重傷を負わせたとして、北海道奈井江町に住む飼い主の女性(67)が重過失傷害の疑いで逮捕されたと報じられました。

UHB北海道文化放送の報道などによると、この犬は7月8日の午前0時から1時ごろ女性の自宅から逃げ出したとされており、当時ケージのカギはかかっておらず、玄関の扉も開いた状態だったといいます。犬は同日午前4時40分ごろ、自宅付近の歩道を散歩していた女性にかみつき、両足に全治2カ月以上の大ケガをさせたとされています。

この犬は去年も同じ家から逃げ出し、歩行者にかみついてケガをさせていたとのことです。飼い主の女性は「間違いありません」と容疑を認めているそうです。

SNSでは「躾できないなら飼うな」という声も上がっています。飼い主はどんな法的責任を負うのでしょうか。また、この犬はどうなるのでしょうか。簡単に解説します。

●飼い主はどんな罪に問われるのか

まず考えられるのは「過失傷害罪」(刑法209条1項、30万円以下の罰金または科料)です。

過失傷害罪は、告訴がなければ起訴することができません(同条2項。「親告罪」といいます)。

しかし、「重大な過失」がある場合、より重い罪である重過失傷害罪(刑法211条後段。5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)となります。

重過失傷害罪は親告罪ではなく、告訴がなくても検察官は起訴することができます。

●「重大な過失」とは?

報道によると、警察は同様の事案を繰り返していることから、「重大な過失」があると判断したそうです(まだ起訴前ですから、裁判所が判断したわけではありません)。

「重大な過失」とは、簡単にいえば、不注意の程度が著しい場合をいいます。

たとえば、1)わずかな注意さえしていれば結果を予見でき、2)ケガという結果を避けることも簡単にできたのに、それを怠った場合です。

今回の事件にあてはめると、1)去年も同じ犬が逃げて人をかんでいた以上、鍵をかけなければ犬が逃げて人をかむかもしれないと分かるはずです。

また、2)ケージの鍵をかけ、玄関の扉を閉めておけば、犬が逃げることは簡単に防げたはずです。

ところが今回は、ケージのカギも玄関の扉も開いていたようです。一度人をかんだ犬が逃げるリスクが二重に残ってしまっていることになります。

不注意の程度が著しいとして、重大な過失が認められる可能性はあるでしょう。

もっとも、カギや扉が開いていた詳しい経緯は、まだ明らかになっていません。

●過去の似たような事例

細かい事情は異なりますが、参考になる裁判例を以下に2つ挙げます。

1つは、裏庭に鎖でつながれていた秋田犬が、訪問客を2度かんでいて、3度目に訪問客が大ケガをした事案です(福岡高裁昭和60年(1985年)2月28日判決)。

飼い主は鎖を短くし、一時は裏庭への通路をふさぐなどしましたが、それもやめてしまい、柵も「猛犬注意」の掲示もしていませんでした。

福岡高裁は、簡単にできる措置を怠ったとして重過失傷害を認めました。

もう1つは、土佐犬の事案です(東京高裁平成12年(2000年)6月13日判決)。

この犬舎では以前にも別の土佐犬が金網フェンスを壊したことがあり、飼い主は補強を始めていましたが、この犬のいる区画は手つかずのままでした。

この犬はフェンスを破って犬舎を出ると、施錠されていなかった出入り口から外へ逃げ、3歳の子どもの頭にかみついて、頭の骨がへこむ重傷を負わせました。

東京高裁は、これを重過失と認めています。

ただ、飼い犬が逃げて人をかめば、いつも重大な過失になるわけではありません。

犬の種類や危険性、前の事故のあとの対応なども総合的に検討することになります。

●治療費や慰謝料はどうなるのか

民法718条1項には「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う」という規定があります。

動物の種類や性質に応じた相当の注意をもって管理していたと飼い主の側が証明できれば責任を負いませんが、認められた例は多くありません。

報道によると、今回の犬はオオカミの血を引くとされるウルフドッグで、去年も人をかんでいたとのことです。求められる注意の水準は高く、原則通り損害賠償責任を負う可能性が高いと思われます。

●この犬は今後どうなるのか

事件のあった奈井江町には、「奈井江町畜犬取締り及び野犬掃とう条例」という条例があります。

このなかには、人に害を加えた犬について、町長が飼育者に命令を出せるという規定があります(同条例7条)。

命じられるのは、その犬の殺処分か、性癖の矯正と危害防止のために必要な処置です。

命令に従わなければ、10万円以下の罰金または科料です。

ただし、これは飼い主に処置を命じるものであって、町が犬を取り上げて自ら処分するわけではありません。

去年の事故のあとに町がこの命令を出していたのかは、報じられていません。

小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)