「男が奢る」のはギャンブルみたいなもの、「女のタダ飯」は当然の権利?…相席ラウンジから見る「東京の恋愛の難しさ」

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一時期盛り上がりを見せていた『相席屋』だが、今では5店舗(2026年9月時点)にまで縮小し、かつての勢いはすっかり沈静化してしまった。しかし、相席飲食業界が衰退しているわけではない。クラウドエヌが運営する『オリエンタルラウンジ』と、その系列店『ag(アグ)』はいまだに突出して人気を集めている。

「女性は無料、男性側に料金が発生する」という特有のシステムであっても、男性たちは夜な夜な『オリエンタルラウンジ』へと足を運ぶ。そこには、どのような動機や目的があるのか?

前の記事『「女性無料・男性が奢る」…それでも相席ラウンジに10年通う男性が“お持ち帰り”を求めていないワケ』に引き続き、『オリエンタルラウンジ上野店』を利用する男性たちに話を聞いた。

(なお、取材は店側の配慮で、彼らの時間料金を一時的に止める形で行い、我々が「話を聞きたい」という目的で同席することについて、男性サイド(名前はすべて仮名)に了承を得ている)

仙台から上京して相席ラウンジに

取材用の個室に入るなり、男性2人組は、「俺たちなんかで取材になるんですか?」。そう謙遜しながら席に着いた。聞けば、先ほどまで飲んでいたらしく、その足で『オリエンタルラウンジ上野店』へはしごしたという。

先ほどの1組目の3人組同様、彼らも清潔感のある服装が印象的だ。これから見知らぬ女性たちと即席合コンを行うのだから、‟見た目”に手を抜かないのは当然のことかもしれない。だが、どこか朴訥としているというか、この手のお店に来るにしてはテンションが落ち着いている。先の3人組のうち、特に2人の口が達者だったことを考えると、彼らが女性たちと盛り上がれるのか少し心配になってしまった。余計なお世話だろうが。

「僕と、こっちのサトシは大学の同期で、今はお互い医療系の仕事に従事しています」

ダイキと名乗る25歳の男性が、相席店に通うようになった経緯を説明する。

「今から2年くらい前かな。当時、僕らは仙台にいたので、手軽な出会いじゃないですけど、社会見学みたいな感じで『オリエンタルラウンジ』の系列店の『ag仙台』に行ったのが最初です。その後、それぞれ上京することになって、今日は久しぶりにサトシと会って飲んでいたんです」(ダイキさん)

2人とも上京して1年経つか経たないくらいだそうだ。「ようやく東京に慣れてきた感じですね」と笑うサトシさん(25歳)を見て、先ほど感じた朴訥とした印象の理由が、少し分かった気がした。

東京と仙台で感じた圧倒的な違い

私は、東京と仙台の店舗で違いはあるのか尋ねてみた。「う~ん、月に1回くらいのペースでしか行っていないので」と前置きした上で、2人が双方の差異について語る。

「地方は出会いに対してきちんとしているというか、‟ちゃんと彼氏を見つけに来ている子”が多かったように感じます。東京みたいにラフな感じじゃない。一度だけ『オリエンタルラウンジ渋谷店』へ行ったんですけど、とりあえずタダでお酒飲んで、タダでご飯を食べれてラッキーみたいな女性が多くて驚きました(苦笑)。上野店はそういう女性が多くないから、場所によって違うんだなというのも新鮮でした」(ダイキさん)

「仙台は相席店が『ag仙台』しかないので一極集中するんですよ。だから、出会いを求めている男女がひしめき合う(笑)。一店舗しかないから、真面目というかガチなんですよね。その点、東京は新宿、渋谷、上野とかいろいろな場所にあるじゃないですか。うらやましいと思う反面、ただ遊びたいだけの人も多いんだろうなとは感じます」(サトシさん)

2人とも「できることなら、ここで素敵な女性と出会えたら」という本音を隠そうとしない。もちろん、楽しかったらそれで満足とも付け加えるが、「彼女ができたらこの手の店には来ない」と口を揃える。1組目の男性たちとは‟用途”が違うことは明らかだった。「出会いだったら、マッチングアプリもあると思うんだけど」と、私は水を向けた。

「やっていたんですけど、結局、会うまでのハードルが高いというか。言葉を選びながら関係を築いていって、その上、日程や場所の調整もしなければいけない」(ダイキさん)

やるべき工数が多いと、彼らは漏らす。その点、「ここは違う」という。

「マッチングアプリだと、会う前に『こういう人なのかな』とかいろいろと想像してしまうけど、最初から対面だから先入観もないし、とにかくどんどん前に進んでいく。合コンみたいな雰囲気だから空気感も重くなりづらいので楽ですよね。かといって、合コンのように幹事を立てないといけないみたいな雰囲気もない。各々のポテンシャルだけを見ている感じが楽しいし、フラットだなって思います」(ダイキさん)

「そもそも今日にしても、前もって『行こう』と決めていたわけじゃないんです。二人で飲んでいたら盛り上がったので、『久しぶりに行く?』みたいなノリで来ただけ。キャバクラやガールズバーは、明らかに違う毛色のお店に行くって感じですけど、相席店は飲んでいる延長線上で行きやすい」(サトシさん)

その延長線上に良い出会いがあればラッキーだと笑い、あっけらかんとこう続ける。

「言わばギャンブルみたいなものですよね。ギャンブルにお金を支払うのは当たり前なわけで、たまたまそれが男性にしか生じないというルールだと思っています」(サトシさん)

「必ず勝てるギャンブルがあるんだったら、みんなやるじゃないですか? でも、そんなことはありえない。負けるかもしれないし、勝てるかもしれない。その楽しさを体験するゲームのコストだと割り切ってます」(ダイキさん)

そのため、自分たちから‟チェンジ”することもザラだと話す。ゲームの参加費を払っているのだから、使えるルールは遠慮なく行使するというわけだ。先ほどの1組目にも共通することだが、男性たちの方が合理的。もっと言えば、あえて‟攻略性”を楽しんでいる向きさえある。

一見、無料で飲み食いできる女性たちがしたたかに見えるが、実は男性たちのほうがしたたかのように思えてきた。言い換えるなら、女性たちこそ選ばれているし、見定められている。浅はかな女性は、このゲームを生き残れないのかもしれない。

「恋愛をすることと、この空間が楽しいということは別物なんです。恋愛を前提に考えると、前もっていろいろと考えてしまうじゃないですか。だけど、相席店ってそうじゃない。ここで出会った女性と気が合って、その後、デートに行くような関係になったら、初めてそこで恋愛について考えればいい。後出しジャンケンができるっていうか」(ダイキさん)

勇気を振り絞って、「今度一緒に映画を観に行きませんか?」とひと声かけること自体、彼らにとってはストレスを生む工程と映るのだろう。どう転ぶかわからないワクワクを楽しめるほどの余裕はない。だったら、まずゲームに参加して、その中で趣味が合いそうな人を絞り込む。気軽に「今度映画を観に行かない?」と誘える段階まで進んでから動いたほうが、ハズレを引く可能性は低くなる。いわば、マッチングアプリや結婚相談所が「条件から相手を絞る演繹法」なら、相席店は「会ってから相手を絞る帰納法」なのだ。

「参考になったらいいんですけど、こんな感じで大丈夫ですか? インタビューしてもらったおかげで、僕らもすっきりしました。僕ら、いつもあんまり盛り上がらないんですけど、今日は盛り上がりそうな気がします(笑)」(サトシさん)

そう言い終わると、彼らは「失礼します」とわざわざ私たちに一礼して去っていった。あまり盛り上がらないのは、頭が良すぎるからだろうことが想像できた。ここでは、少し頭のネジが緩んでいるくらいがちょうどいいのだ。

「結婚相談所」も「運命の出会い」も信用していない

時間はそろそろ23時を回るくらいか。次の1組が最後になるだろうと感じていた私たちの前に現れたのは、ともに30歳だというガクさんとマナトさん。IT系企業に勤めているといい、年齢より若く見えるイケメン2人組だ。

終電が迫ろうという人もいるはずなのに、上野店は男女それぞれ80人近い客が殷賑を極めていた。私たちは「個室を利用するお客様がいる」という理由から、両隣が今まさに相席最中のフロアど真ん中へと移動。周囲からは男性同士で相席しているように見えるらしく、彼ら二人も「最初で最後の経験でしょうね」と苦笑いを浮かべていた。

「10年くらい相席店に通ってますけど、相席ラウンジが衝撃的だったのは、横並びってところですね。それまでって居酒屋の形態だったので、向かい合う形で相席するんですよ。そうするとなんか面接っぽくなる。だけど、横並びだと話が弾みやすいんですよね」(ガクさん)

2人の目的も、これまで話を聞いた男性たち同様、「楽しければそれでいい」というものだった。ただ、決定的に違ったのは、マナトさんがここで出会った女性と付き合ったことがあるという点だ。

「結局、別れてしまったんですけどね。結婚するかどうかみたいな話になって、折り合いがつかずに別れてしまいました」(マナトさん)

「マナトと僕で来たときに、彼女さんと相席したんです。だから、ここで出会って、付き合うまでに発展するケースを見ているから、いい人がいるってこともわかっています」(ガクさん)

それでも、「本気の恋愛をしたいとは思わない。ワンチャンあればいいくらい」とガクさんは微苦笑する。

「30歳じゃないですか。だから、結婚に対しては現実的に考えないといけないと思っています。でも、結婚相談所とかあんまり信用していないんですよ。かといって、運命の出会いも信じていません。ただ……自然に出会いたいという気持ちがあります。自然感はあってほしいというか」(ガクさん)

取材とは言え、相席ラウンジのど真ん中で、男同士が相席している。隣の島の女性たちは、相変わらずセミの鳴き声ほどの声量で笑っている。明らかに浮いているだろう島で、ぽつりとこぼした本音が、私には響いた。たとえそれが、相席ラウンジのような演出された舞台装置であっても、彼らは自然感を求めている。条件を絞り、効率よく出会いを進めていくことがわかっているからこそ、せめて出会いに自然感は残したい--。

「いい人がいれば結婚したいです。結婚したいからいい人を探すって、順序が逆じゃないですか。自然じゃない。『この人だ』って思うから結婚したい。その自然さは求めてます。そういう意味で、ここにはワンチャンあるのかなって」(ガクさん)

東京で恋愛する人たちが抱える矛盾

旅行者に「本物の文化や生活」を体験してもらうため、意図的に「本物らしく」作り出された空間や出来事(例:ホームステイやバックヤードツアーなど)を、「演出された本物性(staged authenticity)」という。今から50年以上前に、観光社会学者のディーン・マッカネルが提唱した言葉である。

ガクさんの話を聞いていて、私はこの言葉が頭に思い浮かんだ。相席ラウンジは、見方によっては出会いを作り出す「演出された本物性」とも言える。ここを訪れる男性たちの中には、難しいことを考えず、単に見知らぬ女性と遊びたいという人もいるに違いない。

だが、今回取材を了承してくれた3組は、揃って自分たちの言葉を持っている機知に富んだ男性たちだったと思う。女性と出会いに来ているのに、わざわざ取材を受けてくれるような人たちだから、好奇心も人並み以上にあるに違いない。

彼らは、ここが出会いを生み出すための「演出された装置」だとわかっているから、そこに攻略性を求め、ゲームのように楽しむ。一方で、そんな人工的な空間であることを知りながら、「自然な出会い」を求めてもいる。効率よく出会うための舞台なのに、求めているのは効率とは正反対の「自然さ」。なんとも不可思議な話である。

だが人間は、‟ないものねだり”が大好きだ。人工的に作られた出会いの場で、本物の出会いを探す--。相席ラウンジという一見矛盾した空間に、彼らが通い続ける理由の一端が、そこにあるのかもしれない。

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