こどもNISAで増えるのは孫へ生前贈与?「貯蓄から投資」加速の新制度は相続税対策としても注目

2027年1月に始まる、0~17歳の未成年者を対象とした「こどもNISA(未成年者特定累積投資勘定)」。SBI証券、楽天証券など主要ネット証券は、26年10月1日から、その口座開設の受け付けをスタートする。24年1月から大幅刷新された成人用NISA(少額投資非課税制度)が若年層を中心とした投資ブームを牽引したこともあり、こどもNISAへの期待も高まっている。本格稼働を前に、その仕組みや活用法を探った。
こどもNISAの非課税期間は実質無期限
こどもNISAは23年末に廃止された「ジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)」に代わる、未成年者を対象とした新しいNISA制度。積み立てによる資産形成を前提とし、年間投資枠は60万円(月額5万円)、トータルの非課税保有限度額は簿価ベースで600万円となっている。
ジュニアNISAは非課税期間が5年に限定されていたが、こどもNISAは実質無期限。厳密に言えば、こどもNISA自体は17歳までの制度だが、18歳になると、それまで積み立てた資産はシームレスに現行NISAのつみたて投資枠へと移行される。
したがって、こどもNISAでは非課税保有限度額の600万円枠を最短10年で使い切ることもできれば、18歳まで少しずつ積み立てていくこともできる(18年間で限度額まで積み立てる場合、月額は2万8000円弱)。現行NISA同様、長期の複利効果を最大限に生かすことが可能な制度設計になっている。
積み立て購入ができるのは、現行NISAのつみたて投資枠と共通のノーロード(販売手数料無料)など一定の要件を満たした長期の積み立て・分散投資に適した投資信託。NISA人気で10兆円ファンドとなった「eMAXIS Slim 全世界株式(オールカントリー、愛称オルカン)」や「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」なども対象となる。
運用会社が金融庁に届け出を行い、受理された投信は金融庁のウェブサイトの「つみたて投資枠対象商品届出一覧」に掲載されることになっており、26年9月18日時点で371本に上っている。
『子どもの数×600万円』増えるNISAの非課税保有限度額
ジュニアNISAは原則として18歳になるまで払い出しができなかったが、こどもNISAは12歳以降、資金の使途が子どもの生活費や教育費などで、本人の同意もあるといった要件を満たせば、引き出しが可能となる。引き出しに際しては口座のある金融機関に書類(特定課税未成年者口座払出依頼書)を提出する必要がある。
ジュニアNISAに比べてかなり使い勝手が良くなった感があり、投資に詳しいファイナンシャルプランナー(FP)は「未成年の子を持つファミリーにとっては、世帯単位のNISAの非課税保有限度額が『子どもの数×600万円』増える形。共働き夫婦で投資額がNISAの枠に収まり切らないのであれば、こどもNISAを活用しながら教育資金作りをしていくのも1つの方法」と助言する。
ただし、昨今の投資ブームのきっかけとなった「新NISA」のスタート時に比べると市場環境は大きく変化している。当時とは違った投資戦略も念頭に置いておく必要がありそうだ。
まず、金利上昇によって国債投資への関心が高まっている。足下では26年9月募集の新窓販国債10年物の利回りが2.7%に達している。このFPは「今後の市場動向によっては、10年後には『国債で運用した方がお金を増やせていた』と後悔する可能性もある」と注意を促す。
一方、別のFPは次のように指摘した。
「引き出しの自由度という点では、18歳以上を対象とした現行NISAの方がずっと使い勝手がいい。幼児教育や習い事、受験などに想定外の費用がかかる場合もあり、教育資金を貯めるにしても親のNISAの枠に余裕があるなら、そちらを優先させた方がいい」
このFPは、「こどもNISAは有力な教育資金作りの選択肢となり得るが、これ一本でOKというわけではなく、家庭の状況に応じた使い分けが必要」と話す。
例えば、近年は予定利率の上昇でこども保険の返礼率(支払った保険料総額に対する学資金総額の比率)も改善しており、親に万一の時の死亡保障が足りない場合はこども保険を使う手もある。
計600万円の資産を孫に移して、非課税で運用できる
さらに相続税対策としても考えておきたい。あるベテラン税理士が注目するのは未成年の孫への贈与手段としての活用だ。
「子どもなどの相続人に暦年贈与をする場合、毎年、贈与税の基礎控除110万円の範囲内に贈与額を収めていたとしても、贈与者が亡くなった際には一定期間の贈与分を相続財産に持ち戻す(相続税算定の対象とする)ため、相続税が発生する可能性がある。持ち戻しの対象期間は段階的に拡大されており、31年1月以降は相続発生前7年となる予定で、人によっては相続税が増えることになる。
一方、こどもNISAの年間拠出枠は60万円。毎年枠を使い切る形で贈与したとしても、贈与税の基礎控除の範囲内に収まるので課税されることはない。しかも、相続人でない孫への贈与なら原則として相続税はかからない」
例えば、祖父が孫のこどもNISAに毎年60万円ずつ10年間贈与し、合計600万円を渡したとする。毎年の贈与額は基礎控除の110万円以内なので、贈与税はかからない。その後、祖父が亡くなったとしても、孫が祖父の遺産を相続したり、遺言による遺贈を受けたりしていなければ、原則として、それまでに贈与された資金を相続財産に加える必要がない。つまり、この例では10年間で計600万円を孫に移して、非課税で運用することができる。
孫への贈与は生前贈与による相続財産の圧縮だけでなく、祖父母→親、親→孫という資産承継の段階ごとに発生する相続税を抑える効果もある。税理士は「こどもNISAの稼働で孫への贈与が増えるのではないか」と予測する。
ただし、気を付けたいのは、主要ネット証券でこどもNISAの口座を開設する場合、親権者も同じ会社の証券口座の保有を求められるケースが多いことだ。
親の「投資への関心」「投資余力」が子どもを左右
投資経験のない親は自分名義の口座開設を躊躇するかもしれない。逆に、既にNISAを活用している親なら、使い慣れた口座のあるネット証券を選ぶのではないだろうか。
要は、仕組み上、実質的に親権者が手続きや運用を行わざるを得ず、活用自体も、口座や運用商品選びも“親次第”ということになる。
こどもNISAは、NISAの口座開設率が低い若年層対策として25年12月に発表された『令和8年度税制改正大綱』に盛り込まれ、官民双方による金融教育と連携しながら幼少期から資産形成への関心を高めていくことを目指している。しかし、現状では投資への関心が薄かったり、投資する余裕がなかったりする親の下で制度が積極的に活用されることは考えづらい。
金融市場の好調を受けてNISAの運用資産が膨らみ、利用者と非利用者に格差が生まれているという調査結果も散見される。こどもNISAが“格差の世代間連鎖”につながらないよう、制度の裾野を広げるプラスアルファの施策にも期待したいところだ。
筆者:森田 聡子
