(※写真はイメージです/PIXTA)

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厚生労働省が2026年9月15日に公表した「令和8年度百歳の高齢者へのお祝い状及び記念品の贈呈について」によると、100歳以上の高齢者は全国で10万7,677人。老人福祉法が制定された1963年には153人でしたが、2026年に初めて10万人を超えました。長寿化が進む一方、長く生きれば、それだけ生活費や医療費、介護費が必要になる期間も長くなります。東京都内に暮らすアカネさん(44歳・仮名)は、100歳で亡くなった祖母の相続をめぐり、思いがけない出来事を経験しました。

100歳で亡くなった祖母、晩年の4年間は施設で生活

アカネさんの両親は80歳の父と73歳の母。アカネさんは一人娘です。少し前、母方の祖母が100歳で亡くなりました。祖母は正看護師資格を持ち、現役時代は小学校の養護教諭として長く働いていました。

「『私は荏原区(現在の東京都品川区西南部)に住んでいて、そこから学校に通っていたんだよ』というのが祖母の口癖でした。若いころに勉強して資格を取り、仕事を続けたことを誇りに思っていたんだと思います」

退職後は月20万円ほどの年金を受給。高齢になっても自宅で暮らしていましたが、晩年の約4年間は介護施設で生活しました。

「施設には月20万円くらいかかっていました。年金も月20万円ほどだったので、ほぼそのまま施設費に充てるような感じでした」

施設に入れば、それですべての支出がなくなるわけではありません。厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」でも、介護保険施設では施設サービス費の自己負担に加え、居住費や食費、日常生活費などが必要になると説明されています。

また、公益財団法人生保険文化センターの「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)」によると、過去3年間に介護経験がある人の月々の介護費用は平均9.0万円。介護場所別では、在宅が平均5.3万円、施設が平均13.8万円でした。介護期間は平均55.0カ月、約4年7カ月です。

祖母の場合、施設へ入ったあとも自宅が残っており、医療費や日用品、自宅の維持費なども必要でした。施設へ入るころ、祖母には約800万円の預貯金がありました。そのお金を管理していたのが、アカネさんの両親です。

「あとから疑われたくない」両親が残していた記録

両親は、祖母のお金を管理するようになってから、支出を細かく記録していました。

「母は『あとになって、勝手に使ったんじゃないかって疑われるのが一番嫌だから』と言っていました。何にいくら使ったのか、本当に細かく残していたんです」

しかも、祖母に関する支出をすべて祖母の預金から出していたわけでもありません。祖母の自宅で設備や家電が壊れたときには、祖母のお金と両親のお金で折半することもありました。

「祖母の家のものなんだから、祖母のお金で払ってもおかしくないと思うんです。でも両親は『自分たちも使うことがあるから』と、自分たちのお金も出していました」

祖母が亡くなったとき、約800万円あった預貯金は約300万円になっていました。4年間の施設生活に加え、医療費や日用品、自宅の維持費などを支払い続けた結果です。アカネさんは、その金額を聞いても特に驚きませんでした。

ところが、相続の話が始まったあと、思いがけない言葉を耳にします。

「ばあちゃんの貯金、なんでこれしかないの?」

祖母の夫はすでに亡くなっていました。子どもは、アカネさんの母、その妹、そして弟の3人。ただし、弟は祖母より先に亡くなっています。そのため、亡くなった弟の一人息子が、父親に代わって相続人となりました。いわゆる「代襲相続」です。そんななか、いとこにあたる男性から出たのが、こんな言葉でした。

「ばあちゃんの貯金、なんでこれしかないの?」

祖母は長く養護教諭として働き、年金も月20万円ほど受け取っていました。そのため、もっとまとまった財産が残っているのではないかと考えたようでした。母からその話を聞いたアカネさんは、耳を疑いました。

「私は相続人ではないので、口を出す立場ではありません。でも、正直ものすごく腹が立ちました」

その背景には、いとこと祖母との距離もあります。いとこの父親、つまりアカネさんの母の弟が亡くなったあと、いとこが祖母のもとを訪れることはほとんどなく、晩年の介護にもほぼ関わっていなかったといいます。一方、祖母のお金を管理し、日々のことに対応してきたのはアカネさんの両親でした。

「父と母は、自分たちのお金まで出して、疑われないように全部記録していました。介護にもほとんど関わっていなかったのに、最後に残った金額だけ見て『なんでこれしかないの?』と言われたら、そりゃ腹も立ちますよ」

アカネさんが引っかかったのは、いとこに相続する権利があることではありません。

「祖母のお金は、相続人に残すためのお金じゃないですよね。おばあちゃん自身が生きるためのお金だったはずです」

約800万円が約300万円になったことについても、「500万円も減った」とは感じていません。

「100歳まで生きて、最後の4年間は施設で暮らして、それでも300万円残った。自分のお金で最後まで生活できた。それでいいじゃないですか」

専門家を入れて対応することに

アカネさんの両親は、いとこに感情的に反論することはしませんでした。祖母のお金については通帳や支出の記録が残っています。それでも、親族同士で直接やり取りすれば話がこじれる可能性もあると考え、専門家に相談することにしました。

「父も80歳、母も73歳です。母は『300万円しかないけれど、こんなことで揉めたくない』と言っていました」

祖母の財産やこれまでのお金の流れを資料として整理し、相続手続きだけでなく、必要なやり取りについても専門家を介して進めることにしたといいます。アカネさんも母にこう伝えました。

「もう自分たちで対応しなくていいんじゃない。疑問があるなら記録を全部見てもらえばいい。父と母には何も隠すことがないんだから」

「あとで疑われたくない」と何年も記録を残してきた両親。その記録が、結果として自分たちを守る材料になりました。

「800万円が300万円に」だけでは見えないこと

2026年9月15日に厚生労働省が公表した最新データでは、100歳以上の高齢者は初めて10万人を超えました。100歳まで生きることが以前ほど珍しくなくなれば、その分、介護や生活にお金が必要になる期間も長くなります。

「800万円あった預貯金が300万円になった」という数字だけを見れば、500万円が減ったことになります。しかし、施設での生活が4年間続き、医療費や日用品、自宅の維持費なども必要だったとすれば、財産が減ること自体は不自然ではありません。

高齢の親のお金を家族が管理する場合、通帳や領収書、支出の記録を残しておくことは、本人の財産を適切に管理するだけでなく、管理する家族自身を守ることにもつながります。そして相続財産は、相続人のために手をつけず残しておかなければならないお金ではありません。まずは本人が生きているあいだの生活のためのお金です。亡くなったときに「いくら残ったか」だけでなく、その人がどれだけ長く生き、どのような暮らしのためにお金を使ってきたのか。長寿化する社会では、そうした視点も重要になっていくでしょう。