【磯部 孝】「激安服のSHEIN」米国で格安ルールが廃止され大ピンチ…?ピーク時から「価値4分の1」になった意外な裏側

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「SHEIN」が香港上場で大苦戦…なぜ

SHEINは9月1日、香港証券取引所に上場した。公開価格は48.56香港ドル、調達額は約136億香港ドル(約17億ドル)、上場時の企業価値は約265億ドルだった。しかし、初日の株価は厳しいものとなった。一時は公開価格から10%程度下落し、最終的には48.50香港ドル前後で取引を終えた。

この数字を2022年と比較すると、SHEINを取り巻く環境の変化がさらに鮮明になる。

2022年には、SHEINの企業価値は一時約1000億ドルと評価された。今回の上場時評価額は約265億ドルだから、ピーク時から約4分の1である。これは単純に「SHEINの企業価値が下がった」と見るべきではない。むしろ投資家が、「これまでのSHEINの成長速度を、これからも維持できるのか」という点について慎重になったと考えるべきだろう。

SHEINの2025年売上高は約419億ドルに達したとされる。日本円で6兆円規模に相当し、すでに世界有数のファッション企業といえる。しかし、重要なのは売上高の「大きさ」よりも「伸び方」である。売上高そのものは拡大しているものの、成長率は鈍化している。

さらに2025年の純利益は約20億ドル規模まで低下し、2026年第1四半期には約9900万ドルの赤字に転落した。前年同期には3億9500万ドルの利益を確保していたため、わずか1年で収益環境が大きく変化したことになる。

最大の要因の一つが、米国の通商政策である。これまでSHEINは、低価格商品を小口で海外に発送することによって、米国の「デミニミス」と呼ばれる少額輸入免税制度の恩恵を受けていた。しかし、この制度の変更によって、SHEINの最大市場の一つである米国で関税や物流コストの負担が増加した。

2026年第1四半期には米国売上高が前年同期比14.3%減少しており、収益環境への影響が表れている。なお、同四半期の赤字には関税・物流コストの上昇だけでなく、会計上の公正価値評価による費用も含まれている。

Z世代の約6割が「買ったことある」と回答

今までの「安い商品を中国から直接消費者に送る」というSHEINの最大の競争優位の一つが、政策変更によって弱くなっているためだ。さらに欧州でも、低価格輸入品を取り巻く規制・関税環境が変わりつつある。つまりSHEINは今、商品そのものの競争力だけでなく、商品を世界中に安く届ける仕組みの競争力まで問われている。

では、日本市場ではどうか。2025年に文化服装学院の学生1031人を対象に実施された「おしゃれZ世代」調査では、ファッション通販の利用率はZOZOTOWNが42.8%、SHEINが27.5%となり、SHEINはZOZOTOWNに次ぐ2番手となった。前年より利用率は低下しているものの、調査対象の74%が18~21歳というファッション感度の高い層であることを考えると、SHEINの存在感は依然として大きい。

さらに、2025年9月のZ世代・α世代調査では、約64%がSHEINやTemuなどのウルトラファストファッションを購入した経験があると回答している。SHEIN単独の数字ではないが、若年層に「安価な海外ファッションECで購入する」という行動が相当程度浸透していることが分かる。では、なぜSHEINはこれほどまでに日本の若者に受け入れられたのだろうか。

これは、かつて若者が「ユニクロを見る」「しまむらを見る」「ショッピングモールを見る」という購入検討行動をしていたところに、「SHEINを見る」という新しい習慣が加わったと考えられる。しかもSHEINは「買うためだけのEC」ではなく、暇な時間にアプリを見ること自体が、ファッショントレンドに触れる行為になる。この点が非常に強い。

日本でさらに成長するための「3つの課題」

そしてSHEINの最大の魅力は、やはり価格である。ただし、単純に「安い」ことが強みなのではない。安いからこそ、若者が気軽にファッションを試しやすくなる点に意味がある。例えば3000~5000円の商品を1着買う場合、「本当に着るのだろうか」「自分に似合うだろうか」と考える。一方、数百円から数千円の商品であれば、「少し試してみよう」という購買行動が起こりやすい。

これは若者のファッション消費行動と非常に相性が良い。現在の若者は、一つのブランドに全身を統一するよりも、ガーリー、韓国、Y2K、ストリート、モード、古着などを気分によって組み合わせる。2025年の「おしゃれZ世代」調査でも、購入のベースはファストファッション、古着・リサイクル店、プチプラECであり、ガーリーとストリート、モードなど、異なるファッションテイストを買い分ける傾向が確認されている。

つまりSHEINは、一生ものを買う場所というより、その時の気分やトレンドを試す場所として非常に優れている。それは、若者が自分らしいスタイルを作るためのプラットフォームになっているということではないだろうか。

SHEINが日本でさらに成長するためには、三つの課題を指摘しておきたい。

第一は品質。若年層には価格が重要だが、年齢が上がるほど品質、サイズ、素材、着心地への要求は高くなる。第二はブランド信頼。模倣問題、労働環境、環境負荷など、SHEINには以前からさまざまな批判がある。「安いから買う」だけなら競合企業はこれからも増える。「SHEINだから買う」という理由を作れるかが重要になる。

そして第三はリアルとの接点の増加だ。2025年のZ世代調査では、ECだけでなく実店舗への回帰も確認されている。SHEINが今後、日本でポップアップやリアル店舗、イベントなどを増やしていくとすれば、これは単なる販売チャネルの拡大ではなく、ブランドへの信頼や接点を補完する戦略として重要になる。

「ただの安い服屋さん」では終わらない理由

SHEINは現在、原宿にショールーミング型店舗を常設し、若者との接点を設けている。また、古着交換・寄付キャンペーン「#SHEIN Again」では、SHEINで購入して不要となった衣料品を持ち込むことで、専用コーナーに用意された新しい洋服と交換できる取り組みを実施している。さらにSNSへ投稿した場合には、追加でもう1点アイテムがもらえるキャンペーンも行っている。2024年7月から継続して実施され、回を重ねている取り組みだ。

2026年1月から3月にかけて毎月開催されたこの半定期イベントでは、総参加者数が1147名、回収した古着の総数量は3313点、総重量は1600kg以上に達したとされる。回収した衣料品は地域の提携先を通じてリサイクル業者に買い取られ、その収益がミャンマーおよびベトナムにおける支援活動に活用されるという。こうした取り組みも、SHEINが日本市場でブランドとの接点を広げる一つの動きとして注目しておきたい。

そしてSHEINは、すでにアパレル以外にも商品カテゴリーを広げ、さらに自社商品だけでなくプラットフォーム型の事業も拡大している。ホーム・リビングなどへのカテゴリー拡大や、第三者が商品を販売できるマーケットプレイス型事業へのシフトは、成長鈍化への対応策の一つと考えられる。今回、IPOで調達した資金についても、技術力の強化やグローバルでのブランド構築に重点を置くとされている。

これもSHEINが、安い服を売る会社から、生活者の欲しいものを発見し、それを世界中のサプライヤーとつないで販売するプラットフォームへ進もうとしていることを示しているのではないか。

【後編記事】『「SHEINはオワコン」説を専門家が検証…日本のアパレル業界がその「裏側の仕組み」に絶対に勝てない納得の理由』へつづく。

【つづきを読む】「SHEINはオワコン」説を専門家が検証…日本のアパレル業界がその「裏側の仕組み」に絶対に勝てない納得の理由