「マンションの転売ヤーを懲らしめろ!」大増税プランになぜか普通のファミリーが悲鳴…その恐怖のメカニズム「住み替えができなくなる」「逆に価格が上がる」

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自民党の税制調査会で、購入から5年以内に不動産を売却した際の「短期譲渡所得」の税率を、現在の約40%から「70~80%近くまで引き上げる」という税制改正構想が浮上している。投機的なマンション転売(転売ヤー)を排除し、高騰する価格を抑え込むことが狙いとされるが、元フジテレビアナウンサーで宅建士でもある西岡孝洋氏は「実効性が薄いばかりか、真面目に家を買った一般層の住み替えができなくなる」と指摘する。

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バブルの惨状に学ばない「税率80%」のナンセンス

「最低でも税率は70%、80%近くまで引き上げたい」

一部報道によると、ある官邸幹部はそう話しているという。大増税が検討されているのは不動産の短期譲渡所得に対する税だ。現行の税制では、不動産を売却した年の1月1日時点で所有期間が「5年以下」の場合、「短期譲渡所得」として所得税・住民税あわせて約39%が課税される。これを一気に70%、あるいは80%近くまで跳ね上げることが議論されているというのだ。

この背景には、近年のマンション価格高騰がある。

不動産経済研究所によると、2026年8月の東京23区の新築の1戸当たり平均価格は1億3821万円。また、中古の方も東京カンテイによると、同年7月の売り希望価格は70平方メートル換算で1億2724万円となった。マンションは普通の人には手が届かない存在になりつつある。

政府は、この原因のひとつに不動産の短期売買をする投資家、ひらたく言えば転売ヤーが投資目的で買っていることがあると見ている。

SNSにも「マンションの転売ヤーを懲らしめろ」「マンション価格は転売のせいで上がっている」という声が上がっている。

しかし、本当に税金を上げることで、転売が抑制され、マンション価格は下がるのだろうか。

これに異を唱えるのが、元フジテレビアナウンサーで宅地建物取引士でもある西岡孝洋氏だ。

「急騰するマンション価格を抑えるために、5年以内の転売にかかる税金を70~80%にする――。一見すると『転売ヤーを成敗する正義の政策』のように聞こえますが、その効果は疑問です。実は過去にも同じような政策がありました。

バブル真っ盛りの1987年、短期間の土地転売を抑えるために『超短期重課制度』が導入されました。しかし、それからも不動産バブルは膨らんでいきました」

この「超短期重課制度」は、譲渡した年の1月1日時点で保有期間が2年以下の土地等を対象にしていた制度だ。個人事業者等には所得税50%・住民税15%の計65%による課税などが設けられ、法人には通常の法人税に30%が上乗せされた。しかし、その後も土地価格は上がり続け、政策が功を奏したとはとても言えないだろう。

「最近の韓国の政策も、実効性はあったのでしょうか?」

西岡氏が言うように、韓国では、文在寅(ムン・ジェイン)政権が2021年6月、保有期間1年未満の住宅売却にかかる税率を70%に引き上げた。さらに指定地域で住宅を3戸以上保有する人には、最高75%の税率を適用(いずれも地方税を除く数字)。

しかし、こうした課税強化をしてもマンション価格の高騰は止まらなかった。ソウルのマンション平均売買価格は、2017年5月の6億708万ウォンから2021年12月には12億4978万ウォンへ、約2倍になったのである。さらに、政権交代を経た2026年8月には16億739万ウォンに達した。

「一般の人は二度と次の家を買えなくなってしまいます」

さらに西岡氏が最も懸念するのは、この税制が「悪質な転売業者」ではなく、「ごく普通の一般生活者」の首を絞める点にある。

短期譲渡(=短期売買)の定義は「所有期間が5年以下」となっている。しかし、「丸5年」ではないことに注意が必要だ。税法上、購入してから「1月1日を何度迎えたか」で計算されるのだ。例えば2021年1月初旬に買い、2026年12月終わりに売る場合は、ほぼ6年経っているにもかかわらず、短期譲渡の扱いになる。

「少なくとも5年以上、場合によっては6年近く保有していないと『長期譲渡(税率約20%)』にはなりません。家を買った後に、子どもが生まれたり二人目のお子さんができたりして手狭になる、あるいは急な転勤や両親の介護、転職、離婚、収入の変化、病気など……5年や6年の間に家を売らざるを得ない事情なんて山ほど出てきます。

私も、マンションを購入して3年ほどで『子どもができて家族が増えたから広い家へ買い替えたい』という相談を受けることもあります。そうした人たちまで一括りに『5年以上経っていないから利益の8割を国に納めろ』となってしまうわけです」

マイホームの売却には3000万円の特別控除があるという指摘もあるだろう。これは、大まかに言うと3000万までの売却益については課税されないという制度だ。これについても西岡氏はこう指摘する。

「昨今のマンション価格の高騰によって、仮に現居の売却で利益が出たとしても、そこから次の家を買おうとしたら、次の新築や中古も当然値上がりしているわけです。利益が出たからといってそれが別のことに使えるわけではなく、次のマイホームの購入資金になる。その大切な住み替え資金から国が多額の税金を徴収する。そうなれば、買い替えしようという一般の方は減るのではないでしょうか」

価格はかえって高止まり・再高騰する可能性

さらに、西岡氏によれば、政策の実効性に疑問を感じる、さらに大きな点があるという。

「市場で本当に短期転売を行っているプロの『買取業者(不動産会社)』や投資家の多くは、個人ではなく法人で売買をしていると聞きます。法人の場合、いくら短期で物件を転売しても、かかってくるのは個人の譲渡所得税ではなく『法人税』です」

確かに国土交通省が9月15日に公表した「不動産登記情報を活用した新築マンションの取引実態の調査・分析について」では、東京23区の2024年分の集計で、1年以内の短期売買に占める法人の割合は新築で81.1%、中古で97.3%だった。

「つまり、個人の短期譲渡税率を80%に上げたところで、法人化しているプロの転売者にはダメージがありません。つらいのは、リスクを取って自分で家を買い、住み替えようとした一般の実需層です」

そして、この短期譲渡税率70~80%という制度が実際に導入されてしまった場合、日本の住宅市場にはどのような未来が待っているのか。

「まず、中古マンションの売り出し物件はかなり減るでしょう。『今売ったら利益の8割を税金で持っていかれる』と分かっていたら、急な事情がない限り、誰も5~6年以内には家を売りに出さなくなりますよね。みんな必死で期限までじっと耐えるようになります」

売り出し物件が減るということは、市場における「中古マンションの供給が減少する」ことを意味する。

「需要があるのに供給が減れば、価格は上がります。新築マンションの供給量が減っている中で、中古の供給まで減ったら、市場に残ったわずかな物件を取り合うことになり、価格はかえって高止まり・再高騰する可能性さえあります。デベロッパーだって、周辺の中古供給が減れば強気の価格設定を崩しません。結局、家を買いたい人が一番困る環境が作られるだけです」

短期譲渡の増税は価格を下げるどころか上げる可能性があり、肝心の転売抑制への効果は限定的になる可能性がある。政府は、過去や他国の失敗例を踏まえて、「本当に」国民のためになる税制を検討すべきだろう。

取材・文/集英社オンライン編集部