連続強盗の指示役とみられる今村磨人(右)、藤田聖也(左)両被告。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)

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 2022年10月から2023年1月にかけ、8件もの特殊詐欺や強盗を繰り返した、通称「ルフィ広域強盗事件」。逮捕人数は40人超、被害総額はおよそ60億円にも及ぶ。組織幹部がフィリピンの収容所から指示を出し、闇バイトに応募してきた"末端"を駒として使い捨てる犯罪のあり方は、日本中を震撼させた。いわゆる「ピラミッド型」の構造で、"伝説のかけ子"となったのが山田李沙だった──。

【写真を見る】伝説の女スパイ・20代半ばの山田李沙。金髪、白キャミソールの自撮り姿

 事件の裏側について、ノンフィクションライター・栗田シメイ氏の著書『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)から、一部抜粋して再構成(※文中の被告表記は略)。【全4回の第1回】

命がけのミッション

 ルフィグループの黒幕と報道された「JPドラゴン」は本部(注:詐欺グループのチームの一つ)を吸収しようとしていた。

 2019年10月、現地警察「PNP」が本部の摘発に入る。組織のトップである渡邉(優樹)のグループが捜査から逃れるため「NBI」(フィリピン国家捜査局)と密約を交わしていたように、JPドラゴン(注:フィリピンを拠点にする日本人犯罪組織)は「PNP」をバックに付けていた。だからこそ渡邉は、JPドラゴンに仲介を頼んだのである。

 両者は以前から面識があったという。吉岡(竜司)は自身の生業でシノギでもあった「闘鶏」の会場で、渡邉と出くわしている。紹介したのは、STのトップである「M」だった。

「何か一緒にできたらいいですね」

 そんな挨拶を交わす程度の接触だったが、渡邉には何か感じるものがあったのだろう。このときの吉岡の印象を、小島(智信)たち幹部にこう明かしていた。

「吉岡は(手を組むことを)あまり期待できる相手ではない」

 渡邉が吉岡に約5500万円を支払って本部がPNPから解放された際、JPドラゴン側は本部のメンバー全員を匿えるホテルを用意した。彼らを捜査から守るというのが名目だ。その見返りとして、渡邉は吉岡と「特殊詐欺のスキームを無料で教え、渡邉のグループのR(受け子)も貸し出す」という約束を交わす。

 ただ、騙し討ちがまかり通る世界で「本部を守る」という口約束はなんの効力もない。本部は、たちまちJPドラゴンの食い物とされることになる。かつてのメンバーはやがてJPドラゴンの手足となり、特殊詐欺を始めることになった。そこには、渡邉のグループから抜けた今村(磨人)も関わっていた。

 一連の流れに違和感を感じ取った渡邉は、NBIにパイプを持つミカを使って本部摘発の背景を探らせた。捜査関係者に金銭をばらまきながら調査した結果、摘発には「ミッションオーダー」、日本でいうところの逮捕状はなかったという確証にいたった。

「俺たちのシノギを奪うために、JPが警察を使って仕掛けてきやがった」

 怒りを押さえきれない渡邉は、本部ごとJPドラゴンを潰すべく、顔の割れていない山田をスパイに送った。もう後戻りはできない━━山田は身体一つで、本部に潜り込むことになった。もともと本部にいたメンバーは、渡邉たちの身内に近い人物である。だが、好条件を提示され、全員がJPドラゴンの配下となっていた。危険極まりない行為であることは議論の余地もない。

 潜入直前、段取りを手配した小島から山田にこんな電話があった。

「五十嵐(組織での山田の呼び名)、マジで危ないから気をつけろよ。お前は女スパイだよ。絶対にバレるんじゃないぞ」

 本部についた初日、山田は早々にJPドラゴンのボス・吉岡と顔を合わせた。部屋には女性が一人。ほかに10人ほど屈強な男がいた。

(第2回に続く)

【プロフィール】
栗田シメイ/1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経てフリーランスに。南米・欧州・アジア・中東など世界40カ国以上でスポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。 著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』。新著『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』が発売中。