9回に同点弾、現役最終戦で2本塁打、引退登板で完封…「最後の試合」で奇跡を起こした男たち
引退試合は、長い現役生活を締めくくる最後の晴れ舞台だ。そして時には、まるで筋書きが用意されていたかのようなドラマが生まれることもある。【久保田龍雄/ライター】
【ありがとう栗山さん】西武・栗山巧選手の引退セレモニーの様子
“野球の神様”からの最後のご褒美
今年も8月30日に引退試合を行った西武・栗山巧をはじめ、ヤクルト・石川雅規、ソフトバンク・中村晃、ロッテ・角中勝也ら、記憶に残る名選手たちが今季限りでユニフォームを脱ぐ。過去を振り返れば、現役最後の一打、一球で華々しい結果を残し、最高の形で有終の美を飾った男たちもいた。
引退試合で9回に起死回生の同点2ランを放ったのが、ロッテ・井口資仁だ。

2017年9月24日の日本ハム戦。この日のために1ヵ月間2軍で調整してきた井口は、6番DHで先発出場した。2回の第1打席で日本ハムの先発・高梨裕稔から日米通算2253本目となる左中間安打を記録し、塁上でニッコリ微笑んだ。
だが、2打席目は二ゴロ、3打席目も三振に倒れ、試合も1対3と劣勢のまま9回裏の攻撃を迎える。
先頭の清田育宏が右前安打で出塁したあと、無死一塁で打席に立った井口は「ダブルプレーだったら、まずいな」とプレッシャーを感じながらも、カウント2-1から増井浩俊の149キロ直球を執念のひと振り。打球は日米通算2254安打目の同点2ランとなって、バックスクリーン右に吸い込まれていった。
「シーズン中、あそこの打球は失速していた。自分の思いだったり、みんなの思いが伝わって、フェンスを越えてくれた」
まさに“野球の神様”からの最後のご褒美だった。
高梨同様、増井も敬意を表してオール直球勝負。同点2ランを含むマルチ安打で最後の晴れ舞台を飾った井口は「直球で勝負してくれた日本ハムに感謝しています」と相手投手にもエールを贈った。
試合も延長12回に鈴木大地が右前にサヨナラタイムリーを放ち、ロッテが劇的勝利。試合後の引退セレモニーでは、「2000安打、メジャー挑戦、40歳まで現役。本当に最高の野球人生だった」と挨拶し、完全燃焼で21年間の現役生活に終止符を打った。
引退弾の着地点となった右翼席のシートには、その後、記念プレートも設置された。
現役最後の試合で最高のスイングを見せる
引退試合で本塁打を2本記録したのが、DeNA・小池正晃だ。
2013年10月8日の阪神戦に7番ファーストで出場すると、2対2の4回2死三塁、スタンリッジの147キロ直球を左中間に運び、シーズン1号となる決勝2ランを放った。
「風が吹いたので、“行ってくれえ!”と思いながら、打球を見ていました。最後の根性を見せましたね」
喜びをあらわにした小池だったが、ドラマはそれだけでは終わらなかった。
6回にも久保康友から中前安打を放つと、8回2死の現役最終打席では感極まり、バットを構えながらすでに泣いていた。
それでも集中力を切らすことなく、松田遼馬の2球目、外角直球をフルスイング。打球は左翼席一直線に飛んでいく2号ソロとなった。
溢れ出る涙を拭いながらダイヤモンドを1周した小池は、ベンチに戻ると、横浜高時代からのチームメイト・後藤武敏と熱い抱擁を交わした。
実は、小池は戦力外通告を受け、現役を続けるかどうか迷っていた9月下旬、後藤と横浜高の先輩・多村仁志に「まだ選手として勝負できるだろうか?」と相談していた。
すでに「引退する」と気持ちは固まりつつあったが、2人から「今の打撃では難しい」と言われ、やっと踏ん切りをつけた。
この日は2人に「現役最後の試合で最高のスイングを見せる」と約束して出場。見事3安打の猛打賞に2本塁打と、最高の結果を出した。
当時メッツに在籍していた横浜高時代のチームメイト・松坂大輔も海の向こうから「小池、お前はそういう奴だよ。ホームラン2発って……」とツイートし、15年間の現役生活を労った。
有終の美でうれしい
近年の引退試合では、投手は先発して打者1人だけの対戦がお約束だが、過去には現役最後の登板で完投勝利を挙げた投手もいる。
ロッテのエース・村田兆治は、1990年10月13日の西武戦で先発として引退登板のマウンドに上がった。
先発完投を信念としてきた“昭和生まれの明治男”は「まだ現役として勝てる自信がある。しかし、引き際というものもある。リリーフとして起用され、それに失敗した。その結果に対する責任をはっきりさせたかった」と、あえて余力を残して現役を終える道を選んだ。
当初9月30日に予定されていた登板は雨で流れ、この日もあいにくの雨模様だった。
だが、40歳の背番号29は「これが最後と思うと、足はガクガク震えたよ」と緊張しながらも、ぬかるんで足場の悪いマウンドをものともせず、トレードマークの“マサカリ投法”で最速145キロをマーク。西武の主砲・デストラーデを三振に切って取るなど、5回を83球、4安打無失点5奪三振に抑えた。
試合は5回降雨コールドゲームとなり、4対0の完封勝利。これがシーズン10勝目で、通算10度目の二桁勝利、そして215勝目となった。
「今日は23年目の完全燃焼。有終の美でうれしい」
笑顔で最後の花道を飾った。
引退セレモニーでは「私の人生の喜びも悲しみも、すべてこのマウンドの上にありました。これまで投げつづけてこられたのも皆様のお蔭です。心からお礼申し上げます」と挨拶し、最後はナインたちの胴上げで4度宙を舞った。
一方、9回を投げ切り、白星で有終の美を飾ったのが阪急・谷村智啓だ。
1985年10月14日の近鉄戦で先発し、デービスの本塁打による1失点だけに抑え、2対1で5年ぶりの完投勝利。これが通算72勝目となった。
「昔のいいときの投球を思い出したよ」
最後まで投げ抜いた右腕は、まんざらでもなさそうだった。
西武・栗山も8月30日の引退試合、楽天戦の現役最終打席となった4打席目に通算2152本目の安打を記録した。25年間の現役生活、その最後を自らのバットで飾った。
長い現役生活で積み重ねた数字はもちろん大切だが、最後の最後に放った一打、投じた一球が、通算成績以上に強くファンの記憶に刻まれることもある。今年これから最後の晴れ舞台を迎える名選手たちには、果たしてどんなドラマが待っているだろうか。
久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)
デイリー新潮編集部
