朝起きたらいなかった認知症の妻を捜し続ける男性、同じ境遇の家族を支える全国組織を設立へ
行方不明になった認知症の妻(62)を3年間捜している鳥取県米子市の男性(67)が今冬、同じ境遇の人を支援する全国組織を設立する。
男性は設立に合わせて、不明者の家族向けのアンケートを行っており、回答結果を団体の活動に生かすことにしている。(高田理那)
男性は荒川勉さん。2023年8月8日、荒川さんが起床すると、妻の泰子さんは自宅にいなかった。泰子さんは21年7月、認知症と診断されていた。その後一人で外出しても必ず帰宅していたが、この時は違った。
荒川さんは、泰子さんが普段行くスーパーなどを捜したが、見つからず、県警に行方不明者届を提出。翌日、自宅周辺などの防犯カメラ映像を警察で見せられた。同市西側の島根県安来市方面へ歩く泰子さんが映っていたが、その後の足取りは不明のままだ。
荒川さんは近くのコンビニエンスストアや駅に自作のポスターを貼り、SNSに投稿して情報提供を求めた。似た人の目撃情報が寄せられると、現地に向かった。同じ場所に約20日間張り込んだこともあるが、有力な手がかりは得られなかった。
荒川さんは、個人情報を書いた紙を泰子さんに持たせようとしたが、拒まれたといい、「行方不明になる前に、もっと対策をしておけばよかった」と振り返る。
「つらさや苦しみを聞いてほしい」と思い、24年2月から認知症患者や家族を支える公益社団法人「認知症の人と家族の会」(京都市、会員約9000人)の活動に加わった。24年12月に、認知症の行方不明者の早期発見に向けた対策強化を求める要望書を厚生労働省や警察庁に提出した。
活動を通し、荒川さんは認知症行方不明者がいる家族を支える存在が必要だと思うようになった。今年12月に開催される認知症に関する全国フォーラムに合わせ、任意団体「認知症行方不明者と家族・支援者連絡会」を設立する。
「家族の会」は40年以上にわたって、認知症患者らを支援してきた。和田誠代表理事は「行方不明者の家族は自分で抱え込みやすく、悩みや要望を十分把握できていなかった。荒川さんの団体と連携していきたい」と話している。
発足に先立ち、荒川さんは家族の会などと連携してアンケートを実施している。認知症で行方不明になっている人や徘徊(はいかい)する人の家族らが対象で、精神的・経済的に困窮している点、行政や警察に求める対応などを尋ねている。アンケート結果は国にも提供する予定だ。
荒川さんは「家族が抱える課題を明確にすることで団体の活動に反映したい。行政にも対策を考えてもらうきっかけになる」と話している。アンケートは今月30日まで。
届け出、10年で1・4倍
警察庁によると、全国の警察に昨年届け出があった認知症の行方不明者は1万7345人で、10年前の約1・4倍に増えている。多くは3日以内で発見されるが、長期間不明のままの人もいる。
警察では一般的に、認知症の人が行方不明になると、捜索を行う。いなくなった現場近くの防犯カメラを調べるほか、親族らへの聞き込みを行い、警察犬やヘリコプターも活用する。
行政も対策を行っている。全国の市区町村のうち約9割は「SOSネットワーク」を整備している。家族が事前に認知症の人の名前や特徴、写真を登録すると、地元の介護事業所などに情報が提供される。行方不明になった時、捜索に協力してもらう仕組みだ。政府は「認知症施策推進基本計画」で認知症の人が安心して外出し、安全に帰宅できる社会の実現を掲げ、「認知症サポーター」の養成を進めている。サポーターは養成講座で認知症の人に対する適切な接し方を学んだ人で、可能な範囲での支援が求められている。
市区町村やNPO法人が住民向けに開催。養成団体「全国キャラバン・メイト連絡協議会」(東京)によると、サポーターは6月末時点で、約1721万7300人に上っている。
