快勝の裏に潜む日本代表のエアポケット…9トライでアメリカ撃破も依然として残る「不安要素」とは

アメリカを圧倒したものの、不安要素は消えていない。フィジー戦で真価が問われそうだ(C)産経新聞社
現時点での世界ランキングを考えても、ここ数年の対戦成績を考えても、日本代表(以下ジャパン)の優位は揺るがなかった一戦、前評判通りにジャパンが9つのトライ(コンバージョン6)を奪い、63ー14で大勝した。点差だけ見れば圧勝だったが、ここ数試合の格上代表との試合で露わになった課題が、依然として存在している事例が散見された一戦でもあった。
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開始早々から、ジャパンの「速さ」と「巧さ」がアメリカ代表を上回った。開始2分でDFラインのわずかな隙を見逃さずにCTB廣瀬雄也が先制トライを奪うと、そこから連続して前半16分までに4連続トライを奪い、キッカーを務めたFBサム・グリーンが全てのコンバージョンを成功させて28-0とリードを奪った。全てのトライが、素早い集散で接点でのコンテストを制し、素早い球出しを行って攻撃を連続させた上で生まれた、理想的なトライだった。ランキングが接近しており、力強いフィジカルにアドバンテージがある相手に対して、ジャパンの持ち味を存分に発揮して大量リードを奪った試合展開は評価に値するだろう。
そして、試合全般を通じてこの素早さは継続し、最後までスタミナも継続できた。試合全体を通じてポゼッションは53:47とさほど差がなく、テリトリーに至っては49:51でアメリカ代表に負けていたものの、データ以上にジャパンが常に攻めていたという印象で、まさに「攻撃は最大の防御」を実践していたと言えよう。
アメリカ代表は海外のプロリーグで活動している選手が多数不参加だったことも影響してか、全体的にプレーが粗く、ハンドリングミスや被ターンオーバーといったミスが多く出て、そこにつけ込んだジャパンがチャンスを逃さずトライを取りきり、大量得点に結びつけた。ランキング上位国との対戦では、こうはうまくコトは運ばないだろうと予測はされるものの、少なくともミスを多発させて点を取りあぐねていたカナダ代表戦からの進歩はうかがえた。ここ数試合安定しなかったスクラムも、この試合ではしっかりとプッシュをかけて何度も反則を奪い、チームのモメンタムを作り出すことに成功していた。
一方で、相変わらず改善されていない点も目についた。
一つはコリジョンでの力負け。前半ポンポンと4トライを奪った後、気合を入れ直したアメリカ代表FWの猛ラッシュを受けて、トライライン前まで攻め込まれ、そのままピック&ゴーでトライを奪われてしまった。その直後にもCTBダビテ・ロペティの力強い突進を止めることができずにインゴールになだれ込まれた。この試合では、ジャパンの素早さとそれを継続するフィットネスで相手を圧倒できていたため、コリジョンのシーンで力負けしたのはこの2回のみだったが、格上国相手の試合では常にコリジョンの脅威にさらされる状態が続く。実際に4連敗を喫した、アイルランド、フランス、オーストラリアとの対戦では、コリジョンの弱さを徹底的に突かれた。ラグビーというスポーツの根幹をなす部分だけに、改善は一朝一夕になされるものではないと思うが、この部分の改善なくしてはジャパンの上位進出はあり得ない。
メンバー選考を含め、力で対抗するのか、それとも速さでかわすのか。古くて新しいジャパンの課題は依然として重くのしかかってきている。
ハイボールの競り合いも、相変わらずの課題だ。ここのところのジャパンは相手のキック処理はWTBが後退しながらのキャッチを試み、その近辺にFBを配してこぼれ球に対処する、という方法を用いている。この試合に関しては、アメリカ代表のキックの精度が高くなく、キックチェイスのプレーヤーそしてフォローのプレーヤーも機敏さに欠けていたため、大きな破綻は来さなかったが、まずWTBが競り負けることが多く、その後のFBの処理も円滑さに欠けた。
キック後のボールを獲得して優位に攻撃を展開するというのは近代ラグビーの「定番」となってきており、実際にランキング上位国同士の対戦では、一つのキックに関しての攻防戦の結果がそのまま勝負を分けるという事例も散見される。例えば、南アフリカのWTBチェスリン・コルビは171cm・76kgと日本人の中ですら小柄の部類に入るが、空中戦では無類の強さを発揮して、ボールの獲得率が高い。この差を個人の資質の差に帰してしまってはジャパンラグビーに進歩はない。今後チームとして重点的に改善を試みていかねばならないだろう。
FWについては、スクラムで圧倒できたものの、ラインアウトの成功率は75%と安定していない。特にこの試合はジャパンの平均身長の方が高い、有利な状況にありながらの成功率の低さだ。セットプレーの安定は、確実性の高い攻撃につながり、強豪相手に接戦を制するための重要なファクターとなる。ここ数試合、成功率の低い試合が続いているので、早急な対策が不可欠だ。
さらにこの試合では「エアポケット」とでもいうべき状態に陥った時間帯が2度あった。前半25分過ぎからの10分間と、後半最初のトライを奪った直後の5分過ぎからの10分間だ。前半の10分間では2本のトライを許したし、後半の10分間では細かいミスで何度かチャンスを逃した。ジャパンはよく「試合の入りはいいが、スタミナが最後まで持続しない」と表現されるが、強豪国との対戦では、試合開始の元気の良さをいなされて、気持ちがやや緩み始める前半20分過ぎから失点を重ね、後半の中盤までに大差をつけられるという展開がまま見られる。この試合は実力差に開きがあったため、大した失点もせずにエアポケットを乗り切ることができたが、強豪国との対戦ではこのエアポケットは致命傷になりかねない。
首脳陣にはこの時間帯の対策をしっかりと考え、ゲームマネジメントとしてしっかりと選手たちに落とし込んでいただきたい。
アメリカ代表とは、来年のW杯予選プールで対戦することが決まっている。予選突破に向けての最大の打倒目標をジャパンと定め、メンバー、戦略ともに最高の状態で臨んでくることは間違いなく、この試合のような大差がつく展開ではなく、一つの破綻が勝敗を分けるような接戦になることが予想される。この試合で見えた課題をどのように改善していくか。9月19日のパシフィックネーションズカップ決勝、フィジー代表戦でその答えを出すことが求められる。
[文:江良与一]

