総合ディスカウントストアのドン・キホーテが今夏、ウナギの蒲焼のレトルトパックを発売した。時事通信社水産部の川本大吾部長は「ドンキは魚の販売に力を入れており、従来の水産業界は手を出さなかった領域に挑戦している。豊洲市場のプロたちからも信頼を寄せられ、業界内で注目が高まっている」という--。
撮影=プレジデントオンライン編集部
今夏から販売を開始した、長期間常温保存可能なウナギとアナゴの蒲焼き - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■常温で180日保存できる598円のウナギ

国内で774店を展開する総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」では、ピープルブランド(PB)「情熱価格」シリーズを展開している。人気商品も多いこのラインナップに今夏、水産業界が驚く新商品がお目見えした。常温で長期保存が可能なウナギの蒲焼きだ。その賞味期限はなんと最大180日という。

棚に吊るされたウナギの蒲焼き。下はアナゴ(筆者提供)

価格はタレを含め1パック100グラム前後で税抜き598円。鮮魚を扱う「MEGAドン・キホーテ」を中心に、全国100店舗以上で販売されている。同様に常温保存が可能なアナゴ(税抜き498円)も販売中。パックの上部に小さな穴が開けられており、鮮魚売り場がない通常のドンキでも、フックに数多くのウナギ、アナゴのパックを吊るして販売している店がある。

ドン・キホーテといえば、賑やかなポップや特徴的な店内ディスプレイで知られ、外国人観光客や若者から人気を博しているイメージが強い。そこでウナギの蒲焼きとは少々意外に感じるが、実は同店を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は豊洲の仲卸からも信頼を得るほど、魚の販売に注力しているのだ。

■ウナギ消費のピークは土用の丑の日

ウナギといえば「土用の丑の日」。今年の丑の日だった7月26日には、うな重やうな丼を食べた人も多いであろう。今年は中国産をはじめ流通価格が久々に幾分安くなり、飲食店を含む小売り各社、積極的な販売状況で売れ行きも順調だったようだ。

ただ、丑の日を過ぎると売れ行きが落ち込むのが常。東京・豊洲市場の卸会社の担当者は「昨年は7月に2度、丑の日があったが、今年は一度だけ。まだまだ売り込みたいのだが……」と頭を悩ませていた。

8月上旬にはやや過ごしやすい日もあったが、その後は残暑も一層厳しく、夏バテ防止へ例年より安いウナギ消費もそれなりに進んだ。とはいえ、丑の日直前に比べたら、品揃えする蒲焼きの種類や数は少なくなる。

ウナギを店頭に並べれば、少なくとも数日で売り切らなくてはロスにつながってしまう。パック売りする蒲焼きの賞味期限は、冷凍物なら1カ月だが、冷蔵品なら3~4日。鮮魚よりは長いとはいえ、できるだけ早くさばかなければいけない。

しかし消費者の側からすれば、夏場に冷蔵商品を買うのはちょっとした覚悟が必要だ。加工品を含めた魚介は、しっかり鮮度を維持したまま持ち帰らなければならない。場合によっては保冷剤や保冷バッグが要る。

冷蔵庫に入れても、今度は早めに食べなければいけないという“縛り”がかかる。翌日に食べようと思って買ってきたが急な予定変更で食べられず、その後もタイミングを逃して泣く泣く廃棄処分に……と、悔しい思いをした人は少なくないはずだ。

■ウナ丼として十分満足な味わい

その点、ドンキが今回発売した蒲焼きは取り扱いが容易だ。筆者のような少々ズボラな人間からすれば、買ったまま放置していても問題ないのはありがたい。パッケージが密封されているのでタレが染み出る心配もなく、そのままカバンに立てて入れて持ち帰れる。

問題はおいしいかどうかだろう。炭火でたれにくぐらせながら、じっくり焼き上げる専門店のウナギ蒲焼きとは違うにせよ、それ以上にがっかりするようなウナギなら長期常温保存のメリットも画期的・ありがたい、とは思えない。

実際に食べてみたところ、「あくまで個人の感想です」と前置きさせてもらうが、余計な気を使わないで済むことに加えて、手軽な値段もあって「ウナ丼として十分満足」というのが筆者の正直な感想だ。

筆者提供
ドン・キホーテの長期常温保存のウナギ蒲焼きを丼にした調理例 - 筆者提供

■たれをつけながら4度焼きで風味を活かす

この商品はどのような経緯で生まれたのか。PPIHで魚の仕入れや加工品開発などを担当する島宗勇司・7MDフレッシュフードマーチャンダイザーによると、きっかけは1年ほど前のこと。

豊洲市場の仲卸業者「堺周商店」豊洲本店担当・関口武彦部長とともに宮城県塩釜市を訪れた際、「アナゴ加工を得意とする三波食品の佐藤淳常務取締役と会い、ウナギのレトルト製品を作れないか相談を持ち掛けた」という。

そこから三波食品が製造に取り掛かり、堺周商店の助言ももらいつつ、蒲焼きの焼き時間などを何パターンも試した。最大の難点は「ウナギをレトルトにすると甘露煮のようになり、ウナギなのかなんなのか分からなくなってしまう」(島宗さん)ことだったが、これを乗り越えて完成に至る。

三波食品は「試行錯誤の期間は半年ほど。たれをつけながらムラなく4度焼きすることで、蒲焼き風味が感じられて冷蔵品に引けをとらない商品に仕上がった」と胸を張る。同時に「焼き上げた後、ウナギをパック詰めする前後の処理を工夫した」ことで長期保存が可能な商品が実現した。

PPIHコーポレートコミュニケーション本部広報室の水越美緒さんは、「いつでもどこでも、手軽に本格的なウナギを食べてもらいたい」とPR。訪日客や長期滞在者なども含め、年間を通じて売り込んでいくという。

販売開始後、売れ行きは次第に上向きに。今後も長期常温保存という最大の強みを活かし、販路を拡大していきそうな気配だ。

■豊洲の仲卸からも「信頼できる存在」

ウナギのレトルト商品自体はむろん昔から存在する。だが、大手スーパーの水産部門で40年にわたって仕入れなどを担当し、現在は水産アドバイザーとして活躍する小谷一彦氏によると、「ウナギのレトルト=おいしくないという固定観念から、生産に二の足を踏む業者が多いだろう」という。そんな中でPPIHが新商品開発に挑んだ背景には、魚業界の常識にとらわれない姿勢がある。

「情熱価格」商品をはじめ、加工品開発が主たる任務だというPPIHの島宗さんは、東京、千葉、埼玉、神奈川、計21店舗への水産物供給を担っており、豊洲市場に足しげく通い、鮮魚の仕入れも行っている。

豊洲市場で商談する、PPIHの島宗勇司・7MDフレッシュフードマーチャンダイザー(右)と仲卸「山治」の山﨑康弘社長(写真提供=PPIH)

すでに豊洲の有力仲卸からも信頼される存在となっており、「山治」の山﨑康弘社長は、島宗さんとの魚取引について「既成概念にとらわれない魚の品揃えが目立つ。その点で安定した魚種を仕入れる傾向が強いスーパーとは大きな違いがある」とみる。

魚の仕入れに対する島宗さんの基本的な考えは、「仲卸の目利きを信じながら、いい魚を店頭に並べ、おいしさを味わってもらうこと」ときっぱり。その点で山﨑社長も「我々がいい魚を見つけても、買ってもらえなければ仕入れられない。ドンキさんは選んだ魚をたくさん買ってくれる、信頼できる存在」という。

同じく豊洲の仲卸である亀谷も、「魚の質と単価が折り合えば、仕入れる量が半端じゃなく多い。旬の魚をそのときの状況に応じて買ってくれる、良きビジネスパートナー」と評価する。

■鮮魚売り場もスーパーと一味違う

PPIHは、長崎屋を買収した2007年ごろから、MEGAドンキなどで鮮魚事業に乗り出した。まだ20年に満たない魚販売の後発組だけに、業界の常識など「どこ吹く風」で新たな挑戦にも取り組みやすい環境にあるのかもしれない。

筆者が驚いたのは、都内のMEGAドンキの店舗で6月中旬、丸のマイワシが10尾399円(税抜き)で販売されているのを見たときだ。パックには「仕入れ業者さんの協力で 緊急特売‼」と書かれたシールが貼られていた。

筆者提供
東京・大田区のMEGAドン・キホーテ大森山王店で販売された、マイワシのパック - 筆者提供

大手をはじめスーパーの鮮魚売り場は、養殖・冷凍魚を中心にどこも似たような品揃えとなる傾向が強い。6~7月に水揚げされるマイワシは入梅イワシと呼ばれ、1年の中で特に脂がのっておいしいが、調理の手間や寄生虫・アニサキスへの心配などを考慮し、扱いを避けることが多いのだ。

ドンキではエリアごとの配送に加え、「各店舗の担当者が地元の魚市場で仕入れることもできるため、地域の特色を活かせる環境にある」と、広報室の水越さん。大手スーパーでは仕入れと配送の都合上、地元の魚を地元のスーパーで買えない傾向が近年顕著だが、その点でも別の持ち味があるようだ。

■魚離れの歯止めに期待がかかる

一方で、王道の実演販売も行っている。大阪府交野市の「MEGAドン・キホーテ交野店」では8月22日、マグロ解体ショーが盛大に行われた。大勢のギャラリーの前で55キロの本マグロを店の関係者がさばき、「サク」や寿司などを大特価で大盤振る舞い。短時間で完売となるなど大好評だったという。

写真提供=PPIH
「MEGAドン・キホーテ交野店」の鮮魚コーナーで行われた「マグロ解体ショー」 - 写真提供=PPIH

若者をはじめ魚離れが指摘される今、魚業界の当たり前にならわず、独自路線で仕入れ・加工・販売を行う「ドンキの本気」が、今後の魚消費を活発化させることになるのかもしれない。

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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006~07年には『水産週報』編集長。2010~11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)、『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)などがある。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)