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「その場では、断れなかった」

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 車検の見積書を前に、知人がそう漏らした。基本料と法定費用のほかに、発炎筒、ワイパーゴム、エアコンフィルター、バッテリー。「今すぐ交換したほうがいい」と言われ、追加分は2万8000円ほどになったという。

 断ればよかったのか、断らなくて正解だったのか。物差しがないから、その場では頷くしかない。

 まず知っておきたいのは、車検の検査と、工場が勧める整備は同じではないということだ。日本自動車整備振興会連合会(日整連)によれば、車検は検査時点で保安基準を満たしているかを見るだけで、次回までの安全走行を保証するものではないという。そこに予防整備が乗ってくる。

 つまり、見積書の1行ごとに問うべきことは二つある。

・交換しないと車検に通らないのか
・車検には通るが、替えたほうがいいのか

 この2つを混ぜてしまうと、断っていいものに出費して、断ってはいけない整備を断ることになる。

 エアコンフィルターは、車検の合否を左右する項目ではない。臭いや風量が気になるなら替える価値はあるが、少なくとも車検に通すためではない。

 ワイパーゴムは現物次第だ。国交省も日常点検で、ウオッシャー液をきれいに拭き取れるかを見るよう案内している。拭きムラが残るなら替えどきだし、拭けているなら急ぐ話ではない。

 発炎筒は少し複雑だ。非常信号用具は、保安基準で備え付けが求められている。有効期限のある火薬式のほか、国の規格を満たしたLED式も認められている。では、期限切れは車検に通らないのか。日整連は「有効期限切れのみをもって直ちに不適合とする規定は確認できない」とする。ただ、性能低下を見極めにくいため、期限を交換の目安にしている工場もあるそうだ。

 バッテリーは、車検の合否より立ち往生のほうが問題になる。出先で上がればレッカー代と時間がかかる。日整連によれば、電池工業会が示す寿命の目安は約3年。3年以内でも、エンジンのかかりが悪い、バッテリー液の減りが早いといった兆候があれば、早めの交換が必要になる。

 そして、ブレーキである。車検が見ているのはパッドの残量ではなく、制動力が基準値を満たしているかどうかだ。だから工場側は、年間の走行距離や使用環境を踏まえ、次の点検まで安全に使えるかを判断材料に、早めの交換を勧めることがあるという。

 ブレーキフルードは湿気を吸って劣化し、ホースも経年劣化でオイル漏れを起こすことがある。効かなくなってからでは遅い。

 FPとして言えば、車検は2年に一度のまとまった支出だ。前回の費用を24カ月で割り、毎月少しずつ積み立てておけば慌てずに済む。

 ただし、安全にかかわる整備まで価格だけで判断するのは避けたい。「車検に必要か」「予防整備なのか」を確認し、必要性と緊急度で優先順位をつけることが大切だ。

 結局は、断る技術より聞く技術なのだろう。日整連も、迷ったら「今すぐ必要か」「次の点検まで乗れるか」を整備士に聞くよう勧める。必要なら劣化した部品を実際に見せてもらう。理由が分かれば、こちらにも判断のしようがある。

(金子よし子/FP・ライター)

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