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受刑中に亡くなった男性の医療過誤訴訟で、国から依頼されて意見書を書いた法務省の矯正医官が、職務上知り得た男性の個人情報をインターネット上で公開したうえ、遺族側の代理人を誹謗中傷する内容をホームページに掲載したなどとして、男性の母親らが国家賠償法に基づき、国に計880万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

遺族らが9月8日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開き、明らかにした。提訴は6月3日付。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●川越少年刑務所の受刑者が死亡、遺族が国賠提訴

亡くなった男性は、ある事件で懲役6年の実刑が確定し、2019年3月11日に川越少年刑務所さいたま拘置支所に収容された。

2020年1月、陰嚢(いんのう)のはれをうったえ、「精巣腫瘍(セミノーマ)によるものだと強く疑われる」と診断され、除去手術を受けた。

同年10月にがんの転移が判明し、2021年7月、精巣腫瘍で亡くなった(当時23歳)。

男性の母親らは、男性が死亡したのは刑事施設の医師が適切な医療を怠ったためだとして、国に損害賠償を求めて提訴。東京地裁(森健二裁判長)は2025年10月、国に150万円を支払うよう命じた。

●死因めぐり「大麻の可能性」ネットで個人情報を公開

訴状によると、法務省の矯正医官である医師は、この医療過誤訴訟で国側の依頼を受け、意見書を作成した。

その過程で医療記録から亡くなった男性に大麻の使用歴があることを知り、男性の死因について「大麻の可能性が極めて高い」という趣旨の見解を意見書に書いたという。

国側はこの記述を削除したうえで意見書を裁判所に提出した。しかし、医師は自身のホームページに、削除された記述部分を公開。そこには男性の実名や犯罪歴なども記載されていたという。

●代理人を「詐欺」「イカサマ裁判」と非難

医師はさらに、医療過誤訴訟で遺族側の代理人をつとめていた海渡雄一弁護士についても、ホームページに「海渡雄一の本当の罪深さについて」と題する記事を掲載した。

訴状によると、記事には「海渡雄一の罪は簡潔明瞭、詐欺である」「人の死を金儲けに利用しようとした」「未だに平然とイカサマ裁判を続けている」などと非難する記述があったという。

また、自らが作成した意見書の記述が国の訟務担当者によって削除されたことを念頭に、海渡弁護士が裁判官や訟務検事を「でっち上げの共犯に取り込ん」だなどとも書き込んでいたとされる。

●原告「科学的根拠を欠く」と主張

原告側は訴状で、男性には大麻などの薬物に関わる前科・前歴はなかったと指摘。男性の死因と大麻を結びつけた医師の見解が科学的根拠を欠いていると主張している。

そのうえで、合理的な理由や必要性がないにもかかわらず、男性の実名や犯罪歴などのプライバシー情報を公開した行為は、母親の「故人に対する追慕の情」を侵害する不法行為にあたるとうったえている。

また、医師がホームページに掲載した海渡弁護士に関する文章についても、海渡弁護士の名誉や信用を毀損する違法な行為だと主張している。

問題のホームページは、男性の母親がウェブ検索した際に偶然発見した。原告側が指摘した後、現在は該当箇所を閲覧できない状態になっているという。

母親らは、こうしたプライバシー情報の公開や記述によって計り知れない精神的苦痛を受けたとして、今回の提訴に至った。

●海渡弁護士「刑務所の医師が受刑者に偏見を持っている」

亡くなった受刑者の母親で、原告の女性は会見で「名前などのプライバシー情報が出ているのを見て、驚きました。刑務所にこのような医者がいたことに強い怒りがあります」と話した。

同じく原告となった海渡雄一弁護士は「これまで数多くの国賠訴訟の代理人をしてきたが、自ら原告になったのは初めて」と述べたうえで、問題の重大性を次のように説明した。

「(この矯正医官は)人間としての尊厳や、命が失われていることへの認識が全く欠けてしまっています。受刑者に偏見を持っている。国に大きな責任があると思うのは、こうした人に矯正医官をさせて、裁判の意見書を書かせていることです」

●法務省「係争中のためコメント差し控える」

法務省矯正局は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「現在係争中であることから、個別の事案に関するコメントを差し控えます」と回答した。