ステリング構造の主流”ラック&ピニオン”

 クルマを操るうえで、ドライバーが操作するのはステアリングホイール(ハンドル)とペダル、変速用レバーの3つだ。両手、両足の役割分担は決まり、ほかのことを行う余裕はほとんどなくなる。

 この状況で猫の手も借りたくなる場面に陥るのがスポーツドライビングで、つねに正確で余裕のある操作を行うために効率的な操作方法を習得しておきたい。

 まず両手で行うのがハンドル操作だ。その具体的な方法を解説する前にメカニズムについて触れておこう。

 ハンドルはステアリングホイールとも呼ばれるように、自動車の発祥当初から丸い形状をしている。ハンドルの中心部はハンドルシャフトに固定され、ハンドルを左右にまわす操作をすることでシャフトを回転させる。シャフトの先はギヤシステムに繋がっていて、シャフトの回転動作を左右水平の横運動に転換している。かつてはボール・ナット方式が主流だったが、近年はほとんどがラック&ピニオン方式となっている。

 シャフト先端にピニオンギアがあり、ラック(板状)ギヤを左右に移動させることでその先にあるタイロッドを稼働し、ホイールを転舵するという単純な仕組みだ。このラックとピニオンギヤの比率でギヤ比が決まり、ハンドル回転で、2.5~3回転でロック・トゥ・ロックまで転舵できるのが一般的だ。

 フォーミュラカーのようにクイックなギヤ比が採用されれば転舵は1回転以下になりハンドル操作が楽になるが、大きな操舵力が求められ、パワーアシストがないと操作できないほどになってしまう。ハンドルの直径やタイロッドアームの位置関係も重要で、ハンドル操作の軽い・重いに影響を与える。

正しい握りは9時15分で原則は”送りハンドル”

 ハンドル操作力を軽くする目的でハンドルの直径を大きくすることは有効だが、転舵速度が得にくく、またスペース効率も低下する。そこで近代のクルマにはパワーアシスト装置が備わっている。その多くは電動モーター方式で小径のステアリングホイールでも比較的小さい力で操作可能となっている。

 ハンドルは両手で9時15分の位置を握り、親指をハンドルの外周面に置く。転舵時はまわす(=曲がる)方向の腕で引き下げ、反対側の手は添えながら保舵する。転舵量が足りないときは添え手で押し上げ、さらに引いた手をハンドル上部に戻して握り、再び引き下げる。

 このようにハンドル操作は握り手を引き下げるように操作するのが基本だ。ハンドルをわずかでも操作すればフロントタイヤが旋回グリップを発生し、車体にヨーと同時に旋回Gが発生。ドライバーの全身にも加わる。ハンドルを保持している両手にも当然Gがかかるので、引き手の場合は横Gを利用しながら握りだけで軽く操作できるのだ。押し上げる操作は横Gに対抗する方向になるため腕の重さのG倍の力が加わり、正確な操作が行いにくくなる。

 引き手操作を繰り返すことでロックまで転舵することができる。この操作は”送りハンドル”と呼ばれ、モータースポーツにおいての基本的な操作方法と言えるが、教習所などでの免許取得試験では御法度とされている。理由は明確ではないが、試験判定を下すために、なんらかの基準に沿っていると試験官に聞いたことがある。

ワイヤー式は過去の話でいまやアクセルも電子制御化

 両手でハンドル(/シフト)操作をしながら、両足はペダル操作を行う。ATで2ペダルの場合は右足だけでアクセルとブレーキを操作するのが一般的だ。左足はフットレストに置いて、体重や姿勢を支えるのも重要な役割と言える。

 一般車のMT車には3つのペダルが配置されている。説明するまでもなく、一番右にアクセル、中央にブレーキ、左はクラッチだ。この並び順は右ハンドル車も左ハンドル車も変わりなく、世界共通のレイアウトとなっている。ペダル類は車体のキックボードの上から吊り下げられているのが一般的で、床に支点を持たせたオルガン式ペダルを採用するメーカーも多い。

 アクセルペダルはエンジン(あるいは電動モーター)の出力をコントロールするもので、旧式のクルマはアクセルとエンジンのスロットルバルブがワイヤーで繋がれ、アクセルペダルを踏み込むとスロットルバルブが開く構造となっていた。

 しかし、近年は電子制御化が進み、アクセルペダルユニットは電気信号を送る装置にすぎなくなっている。アクセルペダル踏力は内部のリターンスプリングの強さだけで決まり、操作感が味気ない。ATのキックダウンスイッチもこのユニット内に組み込まれていて、踏み込む量と速さ、タイミングで電子制御されている。吊り下げ式もオルガンタイプも基本的に同じ仕組みであると言える。

正確なドライビングにフットレストは不可欠

 ブレーキペダルは踏み込むことで車体側のマスターシリンダーリンクを押し込み、ブレーキ液圧を高める。アクセルよりもブレーキシステム本体とのダイレクトな繋がりを感じられるため、熱フェードやベーパーロック、ブレーキディスクローターの曲がりやパッドの摩耗などがペダルインフォメーションとして得やすい。ただし、昨今ではこれも電動化によってスイッチ機能だけとなってしまっているものも増えてきている。

 MT車の場合のクラッチペダルはトランスミッションとエンジンの中間にあるクラッチをワイヤーや油圧で操作する。MTのクラッチ機構はいまやもっとも原始的なメカニズムとして残っていると言っても過言ではないだろう。クラッチを繋ぐタイミングや感覚を踏力とペダルストロークで身体に覚え込ませる必要があるため、操作感覚が伝わり、ドライビングが楽しいと思えるゆえんとなる。

 フットレストは3ペダルでも2ペダルでも必需品と言え、フットレストがなければドライビングを軽視しているクルマだと言っていい。

 ペダルの操作はカカトをフロアに置き、ズラすように行う。ゆえにフロアマットが固定されていないことも本来あり得ないことなのだ。

 ペダル操作は走行中に行うためカカトを支点として意識しないと、全方向のGに対して正確に操作できなくなってしまう。とくにサーキット走行など、強いGが加わる状況では身体をいかに動かないように固定し、正確なペダル操作を行えるかが重要な課題となる。そのためにドライバーはペダルの配置、ストローク、フットレストなどにこだわって最適化するのである。

 また一部では左足を使ったブレーキ操作も話題になるが、ボクは一般道走行においても左足はフットレストに置いて身体をホールドすることを重視すべきだと考えているので避けるべき。モータースポーツの世界であっても5点式シートベルトとバケットシートで十分な姿勢の固定が可能な場合に限って左足ブレーキングを行えるのだ。

講師 中谷明彦

 武蔵工業大学工学部機械工学科卒(塑性工学専攻)。レース/ジャーナリスト活動と併行して、新車やタイヤの開発にもかかわり、4WD車や電子制御による車両運動性能の解析を得意分野とする。1989年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員に就任。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設し、佐藤琢磨らを輩出している。

※本記事は雑誌「CARトップ2026年5月号」の記事を再構成して掲載しています