〈「不登校だった自分、ありがとう!」〉宗教2世で失踪、うつ、ひきこもり…“道を外れまくった”48歳男性が最先端AIエンジニアになるまで

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宗教2世として育った40代男性。教義に背くとお尻をムチで打たれ、小学生の頃から不登校になり、高校も半年で退学。つらい現実を忘れるように、ひとりパソコンに熱中した。

【画像】信者ではない女性と結婚したことで家族と絶縁状態になった石崎智展さん(48)

やがて、大手IT企業に入社したものの、うつ状態になり、何度もひきこもった。それでも現在は最先端のAI分野でエンジニアとして働いている。ひきこもりを経験した男性がどん底から人生を逆転することができたワケとは――。(前後編の後編)

失踪から戻り会社は辞められたがうつになり…

会社で責められ、この世から消えたくなったというエンジニアの石崎智展さん(48)。ある日、SNSに「皆さん、さようなら」と書き込み、スマホの電源を切って失踪した。

向かったのは熱海だった。子どもの頃、祖父と旅行した楽しい思い出があったからだ。

現地で場所を調べるため、一度だけスマホの電源を入れた。すると、「今から迎えに行く」「待ってろ」という友人たちからのメッセージや着信がたくさん入っていた。

「ちゃんと私を心配して待ってくれてる人がいる。それを見て救われたんです」

失踪から3日後、石崎さんは自宅へ戻った。そして、会社に「もう無理です」と退職の意思を伝えた。

ところが、石崎さんによると会社側から強い引き止めを受けたという。最終的には友人の力を借りて、どうにか辞めることができたが、その後は何をする気力もわかない。うつ状態で家にひきこもった。

「自分は相手の要望に添うように頑張って仕事しているのに、それを認めてもらえない。責められたり怒られたりしても、誰にも守ってもらえなくて自分の存在価値を感じなくなっちゃう。それで人に会うのが怖くなって、ひきこもっちゃったんですね。

子どものころから、『あれもダメ、これもダメ』と厳しく抑制されたり、頑張っているつもりでも評価されず、理不尽に怒られたりして、常に親や人の顔色をうかがっていました。

それが、後々うつになったことにも、つながっているんだと思います。頭痛、めまい、お腹にくるとか、体に症状が出るのも不登校になったときと似ていましたから」

ひきこもりから脱した考え方「マイナス×マイナス=プラス」

うつ状態になると、何年もひきこもってしまう人も少なくない。

石崎さんも、一時は寝たきりになるほど症状が重くなる。それでも、半年~1年ほどすると再び働き始めてきたという。

当時は医療機関にもかかっていなかったというが、本人は、そうした時期をどのようにやり過ごしていたのだろうか。

「最初はただただ寝続けるんです。

うつのときは何を考えてもマイナスになって、『消えたい』とか『死にたい』とか思ってしまうんですけど、『なんでこうなったんだ』って考えても、ずっとマイナスのループになって、結論なんか出ない。そうなったら、強制シャットダウンするしかないんですね。

だから、私の場合はとにかく寝る。酒を飲んで寝る。あとはめちゃくちゃ難しいゲームをやって、ほかの思考を一旦遮断する。

そうやってリセットすると、全部は無理でも一部は忘れられたりするじゃないですか。マイナスを1個ずつ減らしていくと、気持ちもちょっと上がってきて、『おいしいラーメンでも食いに行ってみるか』とか少し動く気になるんですね」

そんな石崎さんには、自分を追い込まないために使っている、もうひとつ独特な考え方がある。

「マイナスとマイナスを足すとマイナスだけど、マイナスかけるマイナスはプラスになる」というものだ。

「それも詭弁っちゃ詭弁だけど、計算上ではそうなるんだもん(笑)。例えば、『やる気が出ない』し、『将来も見えない』。どっちもマイナスですよね。

でも、そんなときに無理やり頑張ろうとすると、もっと苦しくなる。だったら、そのふたつを掛け合わせて、『今は動かないのがベストなんだ』と考える。つまり、動けない自分を責めるんじゃなくて、“今は休む”というプラスの判断に変えるんです。

だから、やる気がないときは、『もういいや』っつって寝る(笑)。今は動かなくていいと決めると、けっこうスッキリしますよ」

何度もひきこもりを経験しながら、そのたびに少しずつ社会へ戻ってきた。そうした過去を語る現在の石崎さんは、よく笑い、冗談も交えながら話す。特殊な環境で育ったとは信じられないくらい、前向きで明るい。

信者以外の女性と結婚して、家族と断絶

そんな石崎さんの人生を大きく変える出来事が起きたのは38歳のときだった。行きつけのバーで知り合った女性と意気投合し、結婚したのだ。

「妻は大陸系の中国人で2歳上です。物事をはっきりとズバズバ言う人なんですよ。ずっと両親や同僚の顔色ばかり見て動いていたから、本音と建て前を使い分ける人が苦手だったんです。

だけど、妻は最初から本音でぶつかってきてくれたので、安心感がありましたね。

結婚して守る存在ができたのが大きかったし、逆に妻も私を守ってくれる。家に帰ると『ニャア♡』つって、こっちはもう甘えるだけ。ハハハハハ」

一方で、この結婚によって失ったものもあった。石崎さんの両親や弟、祖父母は皆、同じ宗教を信仰している。石崎さんは、家庭内で「信者ではない人とは結婚できない」と教えられてきたという。

「結婚するなら宗教は外れなきゃね。もう連絡できないよ」

家族からそう告げられ、石崎さんは実家と断絶することになった。

その時点で石崎さんの宗教に対する気持ちは既に揺らいでいた。熱海に失踪する前、神様に必死に祈ったのに状況は変わらず、同じ宗教の信者から助けてもらうこともなかったから、信仰への気持ちは半分ほど離れていたという。

そのため、家族との断絶はつらかったものの、宗教を離れること自体には迷いはなかった。

宗教から離れたことで、仕事やお金に対する考え方も変わった。それまでは「好きなことができればいい」と、収入にはあまり頓着せず、フリーランスと会社員を行き来していた。

高いITスキルを持ちながら、新卒社員並みの給与で働いていた時期もあったという。そこには、子どものころから教え込まれてきた宗教の価値観が影響していた。

「神様のために頑張っていれば死んだ後に救済されるから、仕事で成功するとか、お金をたくさん稼ぐ必要はない」と教えられていたのだ。

しかし結婚して、妻との生活を守らなければならなくなると、初めて現実的な将来設計を考えるようになった。

そこで、自分の技術に見合った収入を得られる会社へ就職。プログラミングを教える講師として、新人研修や技術研修などを担当し、8年間働いた。

「パワハラを受けたりして、ちょこちょこうつになることはありました。でも、以前ほど深刻にはならずに済みました。

自分の努力を認めて、守ってくれる妻がいることが大きいですね。『ここで倒れちゃダメだ』と思って、ちゃんと病院にも行くようになりました」

「親を憎めたら、一番楽なんでしょうけどね」

そして今年1月、石崎さんは新たな挑戦を始めた。AIコンサルティングを手がけるベンチャー企業へ転職したのだ。

きっかけは、妻の連れ子が中国から日本へやってきたことだった。家族3人で暮らすことになったため、収入を増やそうと思い、「AI 仕事 年収900万円」と検索して探したのだという。

社長がまだ20代という新しい会社で、石崎さんはチームリーダーを務めながら、開発や調査など幅広い仕事を担当している。

「今の会社では“よろず屋・石ちゃん”って呼ばれています(笑)。なんでも屋ですね。今までの経験の総復習みたいな感じで、いろんなことをやらせてもらえています。

実は、IT業界でも、今までエリートの道を歩いて来た人が、AI時代の急激な変化に対応できず落ちこぼれていく人が増えています。

だから、これからは『なんでAIはこういうことができるんだろう』とか、面白がって調べられる人が伸びていくと思いますよ」

その点、小学4年でひきこもり、ひとりでパソコンを触りながら「どうすればこのプログラムは動くのか」「なんでこうなるのか」と試行錯誤をくり返してきた石崎さんは無敵だ。

「まず手を動かしてみる」という癖が、30年以上たった今、最先端のAI技術を扱う仕事で大きな武器になっている。

「学校でも会社でも、道を外れまくったことで今は最先端のところに食い込めているので、外れたのはたまたまじゃなく、必然だったのかなって考えています。『不登校だった自分、ありがとう!』って感じです(笑)。

だから、親に半分恨みもありながら、感謝もしているんです。思いっきり憎めたら、一番楽なんでしょうけどね」

息子と呼べる存在がいるのはうれしい

石崎さんが父親になって2年が過ぎた。「今もまだパパ感はない」と話すが、自分が子どものころに経験したことを反面教師にしながら、息子と向き合っているという。

「息子は私の仕事に憧れているみたいで、IT系の専門学校に通い始めたんですよ。血のつながりがないとはいえ、息子と呼べる存在がいるのはうれしいですね。向こうの家族と断絶したから、こっちの家族がさらに大事になったというのもあるかもしれない」

最後に「今は毎日が楽しいですか?」と聞いてみたら、やわらかな表情でこう答えた。

「転職して社内で評価されるようになってきたのもあって、気持ちの波が少しずつ小さくなってきました。前は冬の日本海みたいに荒れていたから(笑)」

「今は穏やかな瀬戸内海ぐらい?」と聞くと、「そこまでではないですね。昨日も、ゲームを買い過ぎちゃったことで嫁さんと大喧嘩。落ち込み気味だったから今日ちゃんと話せるか不安だったんですよ」と打ち明ける。

「完全な、かかあ天下だから」と言って照れ笑いする石崎さんは、とても幸せそうだった。

<前編を読む『〈「皆さん、さようなら」SNSに残して失踪〉小4から不登校も“大手IT企業”に就職…「不登校の星」と呼ばれた宗教2世に何があった?』>

取材・文/萩原絹代