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農村をドライブしていると、モクモクと上がる煙を見かけることがある。「あれ、火事?」と一瞬驚くかもしれないが、その正体は、田畑や庭先でゴミを燃やす「野焼き」だ。

田舎では珍しくない光景だが、野焼きは原則として法律で禁止されている。そればかりか、「田舎の脅威」としてしばしば語られがちな「クマ」よりも、多くの死者を出しているという。

一歩間違えれば、深刻な火災や事故につながりかねない。身近な風景に潜む「野焼き」の実態とは。(ライター・タカイワマサ)

●農村では「週に一回は見かけます」

北関東の中山間地で農業を営む30代の男性は言う。

野焼きはここら辺りだと日常的におこなわれていますよ。土地も広くて家同士の間隔も空いてますし、やる人は多いですね。週に一回は見かけます」

野焼きとは、野外でごみを焼却する行為だ。こうした焼却は法律で原則禁止されている一方で、「どんど焼き」のような風俗慣習上の行事など、いくつかの例外が認められている。

その一つが、「農業を営むためにやむを得ないものとして行われている焼却」だ。

農林水産省農産局技術普及課に取材すると、次のように説明した。

「たしかに野焼きは廃棄物処理法により禁止されていますが、農業者における野焼きは一部例外として認められています。たとえば稲わらを農地で焼くなどの行為があげられます」

●家庭ごみまで「野焼き」するケースも

農家の多い中山間地で野焼きを見かけたからといって、必ずしも違法行為がおこなわれているというわけではない。

ただ、野焼きが慣習化していることもあってか、看過できない実態もあるという。

「実際は農業で出たゴミだけではなく、家庭ごみを燃やしてしまっている家もあります。また、黒煙が勢いよく上がっているなど、明らかにプラスチックのような不燃物を燃やしているケースも見かけます」(30代農家)

プラスチックなどを不適切に焼却すれば、有害物質が発生するおそれがあり、環境や健康への影響も懸念される。

「こうした野焼きを取り締まるために行政がパトロールをしてるようですが、『土日はパトロールが休みだから焼いても大丈夫』といった話も耳にします」(同上)

昔から続いてきた行為だからこそ、法律のルールや危険性について、さらなる周知が必要なのかもしれない。

野焼きによる死者、5年間で69人

そして、問題は違法な野焼きだけではない。仮に農業上必要な範囲で、法律に則っておこなったとしても、野焼きには命に関わる危険がある。

「把握している統計によると、野焼きが原因で多数の死亡事故が発生しています」(農水省農産局技術普及課)

農水省の『令和6年に発生した農作業死亡事故の概要』によると、稲ワラ焼却中等の火傷(野焼き)による死亡者数は次の通りだ。

2024年(令和6年):12人
2023年(令和5年):17人
2022年(令和4年):15人
2021年(令和3年):9人
2020年(令和2年):16人

5年間で計69人、年間平均では13.8人と、決して侮れない規模で死者が発生しているのだ。

近年、「田舎の脅威」として恐れられているクマの被害についても数字を見てみると、過去5年間(2021~2025年)の死亡者数は29人、年間平均死亡者数は5.8人だった(環境省『クマの人身被害件数』より)。

もちろん対象となる期間や性質が異なるため単純に比較できない。それでも、野焼きが決して軽視できない危険を伴っていることがわかる。

●まずは「野焼きをしない」選択肢を

ではどのような原因で、死亡事故につながるのか。

想定よりも火が燃え広がり、衣服に燃え移ったり、消火しようとして火に巻き込まれるケースがあるという。とくに風の多い日や空気が乾燥しているときは、火が急速に広がるおそれがあり、注意が必要だ。

農水省に対策を尋ねると、こう答えた。

「まずは、『野焼きをしない』という選択肢がないか、そこから考えてみていただければと思っています。仮に野焼きをするにしても、『消火用の水を用意する』『緩衝帯を作る』『化繊のような燃えやすい衣服を着ない』などの安全対策が大切です。省としてもホームページ上で呼びかけるなど、注意喚起をおこなっています」

野焼きは、農村ではあまりにも身近な光景だ。だからこそ、「昔からやっている」「周囲もやっている」という感覚が、危険への警戒を鈍らせている面もあるのかもしれない。

法律上認められる範囲の焼却であっても、ひとたび火が燃え広がれば、命に関わる事故につながる。何気ない農村の風景の裏側で、直近5年間に69人が命を落としている。