月額10万円以上の差に諦め…要介護3の父の「施設捜し」で思い知らされたこと
高齢になって介護が必要になったら、一体どこに住めばいいのか。
SNSにはこんな声が見られる。
「要介護2だから特養に入れない」
「特養数百人待ちだって」
では「特養」とは何か。厚生労働省がまとめた「地域包括ケアシステムにおける高齢者向け住まいについて」によると、高齢者向けの住宅には大きく分けてこのような施設がある。
1) 特別養護老人ホーム(特養)~常時介護が必要で、在宅生活が難しい人
2) 介護老人保健施設(老健)~病院退院後など、リハビリをして在宅復帰を目指す人
3) 介護医療院 長期的な医療・介護が必要な人
4) 認知症グループホーム 認知症の高齢者が少人数で暮らす
5) 有料老人ホーム 高齢者一般。介護が必要な人も含む
6) サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) 高齢者の単身・夫婦世帯など 安否確認・生活相談+必要に応じ介護
7) 養護老人ホーム 経済的・環境的理由から在宅生活が難しい人
8) 軽費老人ホーム(ケアハウス等) 低所得などで自宅生活が難しい高齢者
介護を必要とし、予算にも限りがある場合に必要とされるのが、「特養」なのだ。
ジャーナリストの浜田敬子さん連載「働き盛りの介護と罪悪感」第4回は、自力でトイレに行けなくなってしまい、要介護3の認定を受けた父親の施設探しについて伝えている。
前編では友人の会社でオンライン相談を受けることになるまでをお届けした。相談をしてどのように決定していったのか。
病院とのやりとりはアナログのみだった
出張が多い私と弟にとって、仕事と介護の両立プログラムを支えるチェンジウェーブという会社とのオンラインでの面談は非常に助かった。父が入院している病院からの連絡は全て電話で、毎日のように細かい問い合わせや許可を求める(例えばテレビを視聴するカードを買っても良いかとか)電話がかかってきた。取材中や打ち合わせ中は電話に出られないので折り返すのだが、病院からの連絡には父に何かあったのかとその都度ドキッとした。
緊急かと思って折り返すと、その都度正直「そんなこと?」と脱力することも多かった。家族の許可が必要なのはわかるが、折り返すと担当看護師が席を外していることも多く、電話の応酬が続く。留守電に具体的に内容を残すとか、メールは無理でもショートメッセージでやり取りするとか、もう少しお互いの負担を減らすことはできないものだろうか、と何度も思った。
医師との面会も「この時間に来てください」と指定されることが多く、出張先から急いで帰ってタクシーを飛ばして病院に駆けつけるということも何度かあった。こういう仕事をしていれば、医師や看護師の労働環境の問題は当然理解しているつもりだし、患者やその家族が少しでも医師らの負担を軽減するために協力をしなければならないこともわかっていた。だが、年末の仕事が立て込んでいる時期には堪えた。タクシーを飛ばしながら涙が出てきた。
だから、このオンラインで相談できることは本当に助かった。早速面談で父の現状を伝え、私と弟の住んでいるところから1時間以内で行ける範囲内で、このぐらいの費用で施設を探したいと言ったら、数日内に十数件のリストが送られてきた。その中には既にいくつか電話もしてもらっていて、どの施設には空きがあるなどの情報も書かれていた。
父の施設を決めた理由
ちなみに私たちが受けたサービスは、緊急のオンライン相談、施設一覧のリストアップ、フォローアップのメールなど。テスト運用なので有料サービスの金額はここには書けないが、関心のある人は直接ホームページなどから問い合わせてほしいとのことだ。高いと感じるか否かは人によると思うが、私たちには大変ありがたいサービスだった。
リストアップの手間や時間が省けただけではない。介護初心者にとって話を聞いてもらえ、やることの優先順位をつけてもらえることの安心感があった。施設と言っても千差万別だ。その値段の差はどこからくるのか、見学するときにはどこを見ればいいのか、教えてもらった。
ケアマネさんには特養申し込みの書類を準備してもらったが、個別の特養施設の情報まで持っているわけでもなく、ましてや民間の老人ホームの情報などはなかなか持ち得ていない。なので、リストアップは自力でやるか、こうしたプロの力を借りる選択しかなかった。私の友人の中にはこうした施設選びをChatGPTと相談しながらやったという人もいて、「そんなやり方もあるのね」と感心した……。いずれにせよ、介護初心者にはケアマネさんに何をどこまでお願いできるのか一つとってもわからないことだらけだ。
私と弟はその中からいくつかの施設に見学の申し込みを入れた。お互い多忙のため、日程が合ったのが、クリスマスイヴの12月24日と1月3日。クリスマスとお正月は施設見学の梯子だった。正月三が日でも見学を受け入れている施設が多いことにも驚いたが、それだけ働いている子ども世代は時間がないということなのかもしれない。正月に帰省したときに両親の様子を見て、急いで施設を探す人もいるからという話も聞いた。
全部で4軒ほど見学して、私たちはある施設に決めた。決め手はお互いの家からの行きやすさとスタッフの人たちのアットホームな雰囲気、そして食事だった。施設に入るとなると母の手料理を食べることはもうできないかもしれないが、せめて毎日手作りの美味しそうな食事をすることができたならと考えた。
第1希望の施設は予算月額10万円オーバー
本当は同じ大手介護サービスの系列の別の施設を第1希望にしていた。それは値段の面からだ。月額の料金が10万円も違ったのだ。違いは1人の入居者にかかるスタッフの数だ。いずれは母も施設に入ることを考えて1つグレードと落とした施設で、と考えたのだが、空きがなかった。施設に入るには入居費のほか月額料金もかかる。それだけでなく、車椅子のレンタル料やおむつ代金、と基本料金に少しずつ加算されていく。当然訪問医療、薬を処方してもらえばその代金もかかる。全て合わせると父の年金の月額をかなり超えてしまうので、そこは貯金を取り崩していくしかない。
父はメーカーの会社員を定年まで務めた後、60代から再就職した会社では海外の工場で単身赴任もしていた。そこまで働いてそれなりの蓄えもあったはずだろうに、10年ほど前に詐欺に遭って貯金の半分ぐらいを失っていた。私は被害に遭ったことがわかった時、被害弁護団の説明会にも両親と一緒に出向いたが、私に当時伝えていた額のは実際の被害額の半分ほど。それが今回両親の口座を全てチェックしてわかった。おそらく本当の金額は言えなかったのだろうと思う。
この金額で老後をどうするつもりだったんだろう、という言葉は何度も出かかったが飲み込んだ。いや、一度だけ母親に言ったことがある。昨年末、病院からの呼び出しと施設探しと仕事にヘトヘトになっていた時のことだ。
「お母さんたちは自分たちの老後をどうするつもりだったの?何の準備もしてなくて、私たちに全部任せるつもりだったの?」
と。もはや様々な判断すらできなくなってきつつあった母にそんなことを言っても無駄なのはわかっていても、感情の持って行き場がなかった。
自分の老後のことも考えなくては…
地方に暮らしながら、私たち2人の子どもを東京の私立大学に行かせてくれたという感謝の気持ちはある。ある友人から「今の立場があるのも、稼げているのも、ご両親の助けがあったからだよね」と言われた時には正論のあまり何も言えなかった。そのことは私自身が一番わかっている。もちろん老後の資金が足りなくなれば、私と弟で支払うつもりだ。だが、同時に私も弟も自分の家族と老後のことを考えなくてはいけない年齢なのだ。施設探し私をするようになって、ますます自分の老後のためにそれなりの貯蓄が必要なこともわかった。何より自分自身の認知機能が衰えるまでに、自分の老後の準備のためにやるべきこともはっきりした。
友人の中には、両親に十分な貯金があったためグレードの高い施設に入れることができたと話している人もいる。もちろん高ければいい、というものでもないだろうが、父が入った施設と同じ系列には、ロビーがホテルかと思うような豪華仕様のシリーズもある。パンフレットの入居費用や月額を見て、こんなに払える高齢者がいることにも驚く。資産によって老後は決まるということを実感している。
8月には日経新聞に「老人ホームに手が届かない 東京の入居時費用1000万円、月額も値上げ」という記事が掲載された。記事によると、東京都内の有料老人ホームの入居時費用(中央値)が地価高騰や物価高を背景に2026年1月時点で1000万円を超え、8年で4割増えたことがわかったという。そしてこの傾向は当分続くのではないか、という専門家の分析も掲載されていた。ますます「老後はお金次第」になってしまうのか。それでも有料老人ホームに入居できる高齢者は恵まれている人たちだ。
あるバーに1人で飲みに行った時に、偶然他にも1人で飲みにきていた女性が2人いて、なんとなく全員親の介護をしているという話になった。話の中心は施設をどう選んだのか、という話。偶然同じ系列の施設だったので、それぞれ名前を言うだけでグレードが1発でわかってしまうよねという話で笑い合ったが、きっと笑えない日が来るかもしれない、そんな予感もしている。
【次回の連載は10月5日(月)公開予定です】
