平日の白昼、海外客らでごった返す商業施設に、ガラスが叩き割られる音が響いた。黒ずくめの男2人が持ち去ったのは計2億300万円相当の高級腕時計。間もなく犯人は捕まったが、注目を集めたのは、大胆とも手荒とも言える手口だ。

【画像】「わずか6秒で…」2億3000万円相当の高級腕時計が窃盗された事件現場の中野ブロードウェイ

一言も言葉を発することなく、店にいたのは僅か6秒

 事件が起きたのは8月25日正午前、東京の「中野ブロードウェイ」1階にある腕時計専門店だった。


©Gengorou/イメージマート

「2人は脇目も振らずショーケースの一角に向かい、ハンマーで割って腕時計を持ち去った。一言も言葉を発することなく、店にいたのは僅か6秒。一流ブランドの『リシャール・ミル』など計4本が消え、店にはハンマーだけが残されたのです」(社会部記者)

 あっという間の犯行だったが、捕まるのも早かった。警視庁は店内や周辺の防犯カメラを調べ上げ、2日後には逃走先の大阪で身柄を確保。チリ人のマンサーノ・ケサダ・ボリス・アレクシスと、ピニャ・グスマン・ジェレミー・パオロ両容疑者を窃盗容疑で逮捕した。

 2人は盗みを認めたが、持っていた腕時計は1本だけ。それぞれ「他は途中で落とした」「盗んだのは1本。売って金を持って帰るつもりだった」などと供述。さらに、マンサーノ・ケサダは「娘に聞いて中野に来た。店を見たら、チリと違ってセキュリティーが非常に甘く、これなら盗めると思った」と話したという。

「このままでは日本は海外の犯罪組織の格好の“狩り場”のまま」

 まるで観光中に思い立って事件を起こしたような説明だが、ある捜査幹部は「デタラメ混じり」と指摘する。

「どちらもチリ国籍で、8月21日にシドニーから来日したばかり。浅草の民泊施設に泊まり、事件2日前には店の下見や逃走ルートの確認までしている。盗みのために来日したのは明らかだ。容疑者の1人は、欧州のある国でも窃盗事件に関与した疑いがあり、おそらく国際窃盗グループの“駒”のような存在だろう」

 サブカルの聖地として知られた中野ブロードウェイは、今や修理や買い取りも含め、腕時計を扱う20店以上が集まる“腕時計の聖地”だ。ただ、多くの店が3階にあるのに対し、被害に遭ったのは1階の店。犯行時、店内には従業員5人がいたが、入り口で警戒する警備員はいなかった。

「1階は客を呼び込みやすいが、強盗や泥棒に狙われやすい。ブロードウェイを巡回する警備員はいても、自店の警備を任せられる存在ではない」(施設関係者)

 ある捜査員は「容疑者の供述通り、日本の店の警備は緩い」と言う。

腕時計だけでなく、貴金属・宝飾品店も総じて警備は甘い。保険をかけていても、このままでは日本は海外の犯罪組織の格好の“狩り場”のままでしょう」

 今回盗まれた時計は1本3000万~7000万円。投資の対象と化した高級腕時計は、狙われ続ける危険を孕む。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2026年9月10日号)