「高市vs麻生」の最終決戦が始まった…9月の内閣改造・党役員人事で「真の勝者」を左右する政治家の名前

■「最高権力者」との勝敗が明らかに
9月は政治決戦の1カ月になる。国際的に見れば、9月24日に予定される米中首脳会談だ。
アメリカのトランプ大統領(80)が、イランのみならず、イランと取引がある国にも制裁を加えると発表したのも、中国からの輸入品に7.5%の追加関税を課す検討に着手したのも、中国の習近平国家主席(73)との会談を有利に運ぶための手段にほかならない。
国内的に見れば、9月16日~18日、高市早苗首相(65)が実施する内閣改造と自民党役員人事である。
人事の日程に関しては、与党で飲食料品の消費税減税を含めた税制改正大綱をまとめ、減税で「踏み絵」を踏ませたあとの9月下旬になるとの見方もなくはない。
いずれにしても、今回の人事を見れば、高市氏が、今や自民党の最高権力者となっている麻生太郎副総裁(85)に「この先もすがる」のか、それとも「関係を断つ」のかが鮮明になる。もっと言えば、両者の勝ち負けが明確になるからである。
■悲願の憲法改正を実現するには…
「確かに麻生さんは、先の国会で事実上、皇室典範改正を主導し、一方で、高市氏と日本維新の会の吉村洋文大阪府知事(51)との間で握ってきた衆議院の議員定数削減法案を先送りさせるように動いたかもしれません。でもね……」
ある自民党麻生派の衆議院議員は、各メディアが報じている「高市vs麻生」の構図に否定的な見方を示す。
「麻生さんの政治家としての総仕上げは憲法改正なんですよ。それを実現させるには、保守派である高市さんのままのほうがいい。高市さんだって、来年秋の自民党総裁選挙で再選を目指すなら、麻生さんの力が絶対に必要」
つまり、高市氏と麻生氏は、私的な感情を曲げてでも「Win-Win」の関係を維持したほうが、それぞれの政治目標を達成するうえで得だと言うのだ。
確かにそうだ。ただ、それだけではない。
■「決別」しないと高市カラーは出せない
高市氏は、8月27日、読売新聞の単独インタビューで、「成長なくして財政の持続可能性は維持できない」と述べ、持論である「責任ある積極財政」を通じて国内投資を喚起し、「成長と財政規律」の両立を目指すと強調した。
消費税減税に慎重で財務省の意向を代弁してきた麻生氏にすがっていては、「サナエノミクス」は実現できない。
6月30日、経済財政運営に関する「骨太の方針」を発表して以降、ますます円安・債券安・長期金利上昇が進んでしまった後始末、さらには、飲食料品の消費税率引き下げに伴う財源確保といった課題も、高市氏主導で解決してこそ、支持率も回復するというものである。
その意味では、「X(旧twitter)で『寝てません』アピールをするよりも、麻生氏頼みから決別したことを人事で示したほうがいい」(自民党・旧安倍派衆議院議員)とも言えるのだ。
■義弟・鈴木氏が幹事長留任なら麻生勝利
高市氏が麻生氏に「すがる」か「関係を断つか」、あるいはどちらが勝者となるのかを見極めるポストがいくつか存在する。
現時点で、筆者が衆参両院の国会議員や東京・永田町で常駐取材をしているジャーナリストから聞き取りをした内容から列記してみる。
○自民党幹事長
麻生氏の義弟で財務相経験者の鈴木俊一幹事長(73)が留任なら麻生氏の勝利。現状ではその方向。高市氏が鈴木氏より信頼し、旧安倍派を束ねることもできる萩生田光一幹事長代行(63)が昇格なら引き分けだ。萩生田氏は麻生氏にも接近し、「国民民主党を与党に」との考えでも一致している。

一部に、幹事長経験者の茂木敏充外相(70)を起用するのではという見方もあるが、鈴木氏を副総理や財務相として閣内入りさせ、幹事長には、麻生氏と近い茂木氏や麻生派の有村治子総務会長(55)を抜擢するようなら麻生氏の勝利となる。
ほかに、「麻生氏と対立してきた武田良太元総務相(58)を抜擢するのでは?」との声もあるが、そうなれば麻生氏との全面戦争が避けられなくなる。
8月25日、高市氏と麻生氏が首相官邸でランチをしたことを考えると、現時点で高市氏に麻生氏と完全に決別する考えはなく、武田氏起用はないと見る。
■「2枚看板」片山さつきは留任か、交代か
○財務相
普通に考えれば、女性初の財務相で、「責任ある積極財政」の中核を担う片山さつき氏(67)は留任濃厚。ただ、先の財務事務次官人事をめぐり、片山氏が、高市氏が考えていた青木孝徳主税局長(60)ではなく宇波弘貴主計局長(61)を昇格させたことで亀裂が生じたとの話もある。

ただ、片山氏は高市氏と並ぶ政権の2枚看板。もし交代なら「官房長官か幹事長に横滑りさせちゃうんじゃないの?」(前述の旧安倍派衆議院議員)との声もある。片山氏留任、もしくは消費税減税で汗をかいてきた小野寺五典税調会長(66)あたりを起用するなら高市氏の勝利。鈴木氏の復帰や小林鷹之政調会長(51)のような財務省出身者が就くなら麻生氏の勝利。
○官房長官
これも常識で考えれば木原稔官房長官(57)の留任。しかし、木原氏では国民受けが芳しくない。注目度と発信力強化のため、一時は、前述したように片山氏横滑りに加え、「小泉進次郎防衛相(45)の抜擢も」という噂も流れた。
確率は低いが、近畿大学の理事長を務め、高市氏が落選中、教授に招聘した世耕弘成元参議院幹事長(63)が組閣時までに自民党に復党できれば、まさかの抜擢もあり得た。
そうなれば高市氏勝利だが、先々、世耕氏を重用すれば、旧安倍派で5人組と言われた萩生田氏や西村康稔選挙対策委員長(63)は反発し、麻生氏だけでなく旧安倍派の支持が得られにくくなるリスクが生じる。
■吉村洋文が入閣する「E難度」の技も
○総務相
地方自治や情報通信を所管する総務省。現在の林芳正総務相(65)は、来年秋の総裁選挙に備え閣外に去るとの見方が有力。
その場合、自民党と連立を組み、「大阪を副首都に」を目指す維新からの入閣が濃厚。政治キャリアから言えば、コックから政治家に転身した馬場信幸元代表(61)か藤田文武共同代表(45)あたりが最有力。
ただ、政治の世界には、体操で言えば「ウルトラC」どころか「E難度」の技も存在する。維新の協力が命綱の高市氏は、「心の友」でもある吉村氏に大阪府知事との兼務で入閣を要請する可能性もある。これが実現すれば高市氏の勝利ではあるが、自民党内はもとより維新の中でも、「大阪を二の次にする気か?」と反発が拡がるのは必至。

もっと高難度だが、先頃、再選不出馬を表明したばかりの福岡市長、高島宗一郎氏(51)が抜擢される、と言えば先走りすぎか。高島氏は麻生氏の支援を得て市長に就任した人物で、地元の評判も良い。電撃的な不出馬宣言が「次が見えているから」によるものだとすれば、国政への転身、あるいは麻生氏の強い押しで閣僚に、もゼロとは言えない。
■小泉進次郎は留任、話題の女性議員も…
これまで述べてきたポスト以外にも、現在の自民党役員や閣僚の中で去就が気になる人物が何人か存在する。
○小林鷹之政調会長(51)
“ポスト高市”を狙い、麻生氏への接近が顕著。ただ、高市氏と政策面で近く、「どの立場でも政権を支えたい」と語っていることから、前述した財務相ではないにせよ、重要閣僚に起用される可能性あり。城内実氏(61)が務めている成長戦略担当相を小林氏に代えるというのでは軽量すぎるため、政調会長留任の可能性もある。
○小泉進次郎防衛相(45)
「防衛相になって覚醒した。適任」(自衛隊関係者)との声があるほか、年末に安保3文書の改定を控えているため、基本線は留任。

○交代が濃厚な閣僚、入閣の可能性が高い女性議員
既婚女性と関係を持ち、議員会館でも面会していた松本洋平文部科学相(53)は、これまで更迭されなかったのが不思議。鈴木憲和農水相(44)も交代か。
女性閣僚候補としては、茂木氏の側近で鈴木宗男氏の長女、鈴木貴子広報本部長(40)が広報戦略の実績を買われ、また、かつて視察先のパリでエッフェル塔の写真が物議を醸した松川るい参議院議員(55)が、語学力や外務省時代の実績を買われ入閣するのでは、と見ている。
■「4冠」のため失脚できない麻生太郎
本稿ではここまで「高市vs麻生」という構図を軸に、迫る内閣改造と自民党役員人事について述べてきたが、高市氏に麻生氏と全面戦争するだけの力はない。
麻生氏もまた「自民党」「中央省庁」「皇室」の3つに加え、かつては古賀誠氏(86)や山崎拓氏(89)と三つ巴の政争を繰り広げ、近頃は前述の武田氏や福岡県議会のドンと呼ばれてきた藏内勇夫氏(72)と争ってきた福岡を「統一」するという4冠達成のために、万が一にも失脚は許されない立場にある。
人事と選挙は最後まで予断を許さないが、今のところ、「麻生氏やや勝ち」「高市氏やや負け」で終わるのではないかと筆者は見ている。
その麻生氏は9月20日、86歳の誕生日を迎える。人事が終わり、どんな表情でシャンパンを口にするのか、見てみたいものである。
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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。文化放送入社後、政治・外信記者。ベルリン特派員や米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。現在、TBSラジオ「BRAND-NEW MORNING」コメンテーターも務める。専門分野は現代政治と国際関係論。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『知って得する、すごい法則77』ほか多数。
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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水 克彦)
