誕生日の夜、恋人が消えた。口座の100万円、祖父の形見の時計もない…「完全に騙された」 女性を信じられなくなった僕が、それでも結婚を決めた相手とは
【前後編の前編/後編を読む】「パパ。私、結婚するから」20歳娘が突然宣言、選んだ相手はまさかの… 「おまえはオレの娘を女として見ていたのか」
人生、長く生きていると「信じられないようなできごと」や「あり得ないと思っていたこと」に遭遇するときがある。「人生にはまさかという坂がある」というスピーチの定番もある。
「僕だって、まさかということはいろいろ体験してきたつもりだった。合格判定Aの受験で失敗したり、信じていた彼女にお金を持ち逃げされたりしたこともあります。それでも今回のような衝撃は受けなかった。本当に人生、何が起こるかわからないですね」
梶慎太さん(49歳・仮名=以下同)はがっくりと肩を落としてそう言った。なかなか顔を上げようとしないのは、そのショックがまだ新しいせいだろう。

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結婚を考えた恋人に騙されて
慎太さんは地方都市の出身で、大学進学と同時に上京した。田舎では今も、かつて公務員だった両親が元気に仲よく暮らしているという。大学を卒業すると、就職氷河期ではあったが、なんとか中堅企業に潜り込んだそうだ。
「大学を出て就職して4年ほどたったとき、バーで知り合った女性とつきあうようになったんです。看護師だと言っていました。お互いに仕事が忙しかったけど、時間を見つけては会っていた。素敵な女性だったんですよ。僕は本当に彼女が好きで、最初から結婚を考えていました。でも彼女は『もうちょっと仕事で自信がついてから』って。その後、彼女が僕の部屋に来るようになって合鍵も渡しました」
つきあって半年ほどたった彼の誕生日、彼女は休暇をとって料理を作り、祝ってくれるはずだった。ところが帰宅すると誰もいない。彼女に連絡もつかない。何かあったのではないかと心配になったが、携帯電話以外、連絡方法がなかった。
「彼女が勤務していると聞いた病院に電話してみたんですが、夜だったから連絡がとれない。翌朝、病院にまた聞いたら、そういう人はいないと言われて。その日、たまたま銀行のATMでお金をおろそうとしたら、なんと残額が3桁。2日前にボーナスが入ったばかりだったんです。彼女、僕のお金を引き出して持って逃げたんですよ」
女性を信用しない…そんなとき、励ましてくれたのは
給料やボーナスが振り込まれる銀行のカードを、彼はふだん持ち歩いていなかった。そこから別の銀行に毎月、生活費だけを移し、そのカードを常用していた。だから盗まれたのは、ボーナスに加え、それまでの給料の残り数十万円も足して100万円ほど。さらに自宅を調べると、祖父の形見の懐中時計や引き出しに置いていた生活費10万円もなくなっていた。
「若かった僕にとっては大金でした。定期預金に移すか投資でもしてみるかと考えているところだった。がっくりきましたね。周りの勧めもあって、一応、警察に届けましたが、おそらく彼女は偽名だったんでしょう。完全に騙されました」
以来、女性を信用しないことにしたと彼は苦笑する。そんな彼の気持ちをほぐしてくれたのは、同じ部署で仕事をする2年先輩の紘絵さんだった。その“事件”で彼がしょげているとき、彼女は「飲みに行くぞ」と誘い、ベロベロになった彼をアパートに送り届けて「しっかりしろ」と笑ってくれた。
「何度もそういうことがありました。彼女は部内でもムードメーカーで仕事のできる先輩だった。男女問わず好かれていましたね。彼女のおかげで、少しずつ元気を取り戻していった記憶があります」
今度は紘絵さんに“危機”が…?
それから1年ほどたったころ、今度は紘絵さんに危機が訪れた。彼女には婚約者がいたのだが、その結婚がダメになったのだという。紘絵さんは自ら暴露して笑いをとり、気丈に振る舞っていたが、実はショックを受けているはずだと慎太さんは感じていた。
「今度は僕が励まさなければと、彼女を誘って食事に行きました。ただ、紘絵は破局の原因については何も言わなかったし、それほど落ち込んでいるようにも見えなくて。『どうしてそんなに強いの?』と思わず僕が尋ねてしまいました。すると彼女、『みんな私が振られたって決め込んでいるけどさ、振ったのは私だから』と笑い出したんです。なんだ、そうだったのかと僕も笑ったら、『どうして私が彼を振ったかわかる?』って。彼女の目が真剣そのもので、なんだか僕はドキッとしました。わからないと言ったら、『あんたはほんっと、鈍いよね』と。え、え、まさか……と思ったけど」
次の瞬間、「私があなたを好きだからよ」と驚くような言葉が返ってきた。そうだったのか、そんなことがあっていいのかと彼はびっくりして何も言えなかった。
「すると、『いいのいいの。気にしないで。私は今まで通りの同僚関係でいいから。ただ、こんな思いを抱えて、他の男と結婚したくなかったのよ』と。やっぱりかっこいい女だと思いました。そのままふたりで飲み続け、僕のアパートに一緒に帰って、翌朝、プロポーズしたんです。彼女は『同情だったらやめてよね』と言ったけど、僕自身、彼女のことが好きだという気持ちを自ら封印していたんだと気づいた。先輩だし婚約者がいるし、そういう人に惚れてはいけないと思っていたから。彼女にもそう言いました」
「めでたい」2連発
そこから結婚までは早かった。彼の28歳の誕生日の1週間後、そして紘絵さんの30歳の誕生日当日に、周りから盛大な祝福を浴びて結婚した。その2日前には妊娠も発覚、「めでたい」2連発となった。
「結婚は大人同士のことだから自分の意志で決めたけど、子どもは漠然ともっと先だと思っていたから、気持ちが少し混乱しました。大丈夫かな、オレ、父親になれるのかなと不安になった。でも紘絵は、『大丈夫大丈夫、ふたりでがんばればなんとかなる!』って。ああ、この人となら人生、大船に乗ったつもりでやっていけると思いました」
次の人事異動で慎太さんが別の部署に移り、紘絵さんは産休ギリギリまで仕事を続けた。無理させたくはなかったから、慎太さんは家事の多くをこなしたが、「私がやるから」と紘絵さんはいつも笑顔を見せた。
「自治体の父親学級みたいなところへ行って、疑似妊娠を体験したんですよ。お腹に4キロくらいの重りをつけたら、もうキツくて歩けない。腰が痛くなってどうにもならない。それなのに女性はお腹が大きくなってもがんばってるんですよね。すごいなと思ったし、日ごろ、あまり顔を見せていなかった実家の母にも思わず電話して、ありがとうと言ってしまいました。もちろん、紘絵には毎日、感謝を伝えていましたよ」
これが幸せなのかどうなのかはわからなかったが、「人生が豊かになっていく」ような気がしたと彼はいう。
出産直前の大トラブル
「予定日の1週間くらい前、幼なじみの雄二から連絡があったんですよ。高校までずっと一緒で、僕は東京の大学へ進学したけど、彼は地元の大学へ行って地元で就職したんです。東京に出張で来ているから会えないかって。雄二は忙しい中、結婚式にも駆けつけてくれたヤツ。出張に来るたび会っていました。その日も紘絵に話したら、『まだ大丈夫だから、会っておいでよ』と言ってくれて。何かあったらすぐ連絡してよと言い置いて、雄二に会ったんです」
そういうときに限って「何かある」ものだ。初産にもかかわらず、紘絵さんは突然、産気づいた。連絡を受けた慎太さんは、あわてて店を出ようとしたところつまずいて転倒してしまう。足首に激痛が走った。支払いをしてくれていた雄二さんが駆けつけ、起こしてくれたが歩けない。雄二さんはタクシーを拾い、紘絵さんが待つ産院へ付き添ってくれた。
「まだ出産には間があるということでしたが、そこは産院なので僕の足は診られない。すぐ近くにある別の病院に連絡してくれ、雄二がまた付き添ってくれました」
結果は靱帯損傷だった。断裂はしていないものの捻挫としては重症で、10日ほどギプスで固定しなければならなくなった。治療をしてもらって産院に戻ると、紘絵さんはすでに分娩室に入っていた。
「展開が早くて……。私、きっと安産だと思うと紘絵は根拠なく言っていたんですが、5時間後にはまん丸の女の子が生まれました。早かったわねーと助産師さんや看護師さんも驚いていました。無痛分娩を選択したこともあって、紘絵も『体力温存』と笑っていたくらい」
雄二さんが「ベビーシッター」に
赤ちゃんのいる生活は楽しかったと慎太さんは言う。娘は夜泣きもせず、手のかからない子だった。親友の雄二さんは、その後、たびたび慎太さんの家を訪れるようになった。
「実はあのとき、雄二の奥さんは子どもを連れて家を出て行っていたんです。離婚を考えていると言っていました。その後、離婚したとも聞いた。それを機に東京へ出てきて仕事をするようになった。優しくていいヤツなんですよ。だから大学時代の先輩が後押ししてくれて、そこそこの企業に転職したんです」
雄二さんにも子どもがいたが、離婚後は会えなくなっていた。その寂しさを紛らわすためか、よく子守を買って出てくれた。慎太さんには、2年後に息子も生まれたが、雄二さんは「ベビーシッターだと思っていいよ」と言ってくれた。
「雄二が子どもを見ててくれて、夫婦でデートに出かけたこともあります。帰りには雄二の好きなものを買って帰る。そうすると雄二は夕飯まで作ってくれるんですよ。悪いからいいと言っても『たまにでいいから、家庭の匂いをかがせてくれよ』と笑いながら言って」
そう頻繁ではなかった。どうしているかなと思うとやってくる。子どもたちもごく自然に「ゆうじー」と呼び捨てにして、懐くようになった。
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女性不信を乗り越え、また雄二さんという協力者も得て、幸せな家庭を築いた慎太さん。記事後編では、成長した娘の「結婚」をきっかけに、慎太さんが直面した“まさか”を紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部
