「テーマパークではございません」京都・有名寺院が“着物禁止”なぜ? 畳に墨、ふすま破損…バズ狙う“異常な撮影”横行に苦渋の決断
観光客数が年々増加している京都。今年6月に京都市が発表した「京都観光総合調査結果」によれば、2025年度において観光客数及び外国人観光客数が過去最高を更新した。
観光消費額や経済波及効果もそれぞれ2兆円を越え、観光客様様かと思いきや……現地では今、観光客の増加に伴い、さまざまなトラブルが各所で起こっている。そのひとつが、寺社仏閣での参拝者のマナーだ。
京都市内の寺院「西来院(せいらいいん)」では、着物着用者の拝観・立ち入りを制限する掲示が出された。いったい今、京都で何が起きているのか。 (ライター・倉本菜生)
白砂に立ち入り、ふすまを破損…寺院を悩ませる「撮影客」京都市の祇園エリアにある西来院は、建仁寺境内の北東に位置する塔頭(たっちゅう)寺院(※)だ。今から約600年前に創建され、美しい枯山水庭園や本堂天井全面に描かれた「白龍図」で知られている。
※大寺院の敷地内にある小寺院や別坊のこと
そんな伝統ある寺院に掲示された「着物着用禁止」のルールが、今年7月にSNS上で話題となった。掲示には、着物や和装、コスチュームや仮装での入場を禁止する旨が記載されており、「着物やコスチューム自体を否定するものではない」としたうえで、「撮影目的の来訪により他の参拝者への迷惑が生じているための対応」と説明している。
寺院の周辺には八坂神社などの観光スポットが密集しているため、着物のレンタルショップもそこかしこにある。日本人か外国人かを問わず、レンタル着物を着て歩く観光客の姿は見ない日がないくらいだ。当然、着物姿で寺社仏閣を参拝する人も珍しくない。
そういった環境にあって、なぜこのようなルールを設けたのか。西来院の公式インスタグラムには、「このルールを設けるに至った背景には、過去に繰り返し発生した実害がございます。そしてそれらすべてが、個人的な撮影を目的とした訪問者によるものでした」(※投稿は現在削除済み)と記載されており、苦渋の決断だったことが伺える。
また投稿には具体例として、「庭の白砂への立ち入り」「撮影道具としてふすまを動かし破損させる」「許可なく本堂で書道パフォーマンスを始めて畳を墨で汚す」など、およそ常識では考えられない振る舞いが挙げられていた。また、本山の建仁寺も公式ホームページで、「当寺は撮影スタジオやテーマパークといった類の施設ではございません」と強く注意を呼びかけている。
こうした撮影をめぐるトラブルは、西来院に限った話ではない。京都市内の寺社仏閣では以前から、参拝客の撮影マナーに悩む寺社が規模を問わず存在している。
SNS映え目的で参拝か…現役僧侶が明かす実情京都の東山エリアにある寺で働く僧侶の竹内さん(仮名・30代)は、近年の参拝客のマナーについてこう語る。
「コロナ禍明け以降から、参拝者全体の民度が下がっていると感じています。とくに、SNSでのバズを狙った異常な撮影が増えました。立ち入り禁止の場所に入って撮る、触ってはいけないものを触ったり持ち上げたりして撮影するなど、うちも周りの寺社も対応に困っています。参拝の目的がお参りではなく、承認欲求を満たすための撮影になっているんですよね……」(竹内さん、以下同)
竹内さんによると、参道に長時間座り込む人や、敷地内で食べ歩きする人なども後を絶たないという。
「見つけたら注意していますが、イタチごっこに近い状況です。撮影や休憩のために場所を占拠して、本当にお参りしたい人の邪魔をしている。建仁寺さんが強い言葉で注意する気持ちも分かりますね。お寺や神社をテーマパークだと勘違いしている人たちが本当に多いんですよ。SNSでは『インバウンドが増え過ぎたせいだ』といわれていますが、実際には日本人のマナーも悪化しています」
さらに最近、寺院側を悩ませているのが、カメラマンを伴った撮影だ。
「参拝客同士で軽く撮り合うのではなく、機材を抱えたカメラマンを連れて来る人も増えました。うちは営利目的の撮影については事前申請をお願いしていますし、そもそも敷地内では三脚などの使用も禁止しています。なのに機材を広げて、ポーズ指示を出しながら撮る人がときどき現れるんです」
京都市内のレンタル着物店の中には、カメラマンによる撮影付きプランを提供している店舗もある。ただし竹内さんによれば、そうしたレンタル店の多くは、事前に寺社側に確認し、必要な許可を得たうえで撮影しているという。
「うちはそういった提携もしていないので、観光客が個人的に雇ったカメラマンを連れてきているのでしょう。無許可で勝手に撮るカメラマンのことを、私の周りでは『野良カメラマン』と呼んでいます」
観光地で相次ぐ無許可撮影竹内さんが「野良カメラマン」と呼ぶような無許可でのロケーション撮影は、寺社以外でも起きている。祇園や嵐山など、京都の主要観光スポットで働く複数の人たちから、「敷地内で勝手に撮影された」「店は利用しないのに、店先で長時間撮影している」などの証言が得られた。いずれも旅行客にカメラマンらしき人物が同行し、店内外の場所を占拠して撮影しているという。
清水寺付近でカフェを営む早川さん(仮名・40代)も、「撮影マナーが悪くなっている」と話す。
「カメラマン同行の観光客は昔からいましたが、周囲の迷惑になるような撮影をする人は少なかったです。それがここ数年、マナーやモラルのない撮影者が一気に増えました。どうやら、アマチュアやフリーランスのカメラマンが、SNSを使って格安で仕事を請け負っているようです。外国人向けに、観光案内と撮影をセットで提供している人もいると聞きました」(早川さん)
実際にSNSやスキルシェアサービスで検索すると、観光地への同行撮影を請け負う投稿や出品を複数確認できた。もちろん、個人で活動するカメラマン全員に問題があるわけではない。しかし、撮影場所の管理者に許可を得ないまま、迷惑な撮影行為をおこなう人がいるのも事実だ。
西来院の一件では「着物禁止」という言葉に注目が集まったが、問われているのは服装の是非ではない。お寺や神社は観光スポットである以前に、信仰の場である。撮影する側も、される側も、そのことを忘れずに足を運んでほしい。
■倉本 菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。
フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。
主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。
X:@0ElectricSheep0/Instagram:@0electricsheep0

