トランプ米大統領(右)は秋に中間選挙、ネタニヤフ首相は10月に国会選挙を迎える(AFP=時事)

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 アメリカとイスラエルによる攻撃で始まったイラン戦争。戦闘開始から半年が過ぎたが、終結は見通せないままだ。ホルムズ海峡の封鎖で世界経済が混乱に陥るなか、情勢はいつ安定化するのか。国際政治学者の舛添要一氏は、今秋にアメリカ・トランプ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相がそれぞれ戦う「選挙」がその行方を左右すると見る。舛添氏が解説する。

【写真】トランプ大統領が読み違えたイランの国内情勢ほか

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 アメリカのイラン攻撃が始まってから、8月28日で半年目である。戦争は長引き、ホルムズ海峡の封鎖によって原油価格は高騰し、世界経済を混乱に陥れている。そもそもトランプ大統領はなぜこの戦争を始めたのか。そして、戦争の目的は達成したのか。達成したのなら、なぜ停戦しないのか。様々な疑問が湧いてくる。一方、イランは対抗を続けているが、それはいつまで継続可能なのか。

 アメリカとイスラエルによるイランとの戦争の帰趨は私たちの生活に直結する大問題である。

トランプ政権の想定外だった「戦争の長期化」

 アメリカがイラン攻撃を始めたとき、トランプ政権は「戦争は4~5週間で終わる」と豪語していた。しかし、半年経ってもまだ終わらない。

 イスラエルとともにアメリカがイランを攻撃したのは、イランが核武装しようとしているという疑惑を持ったからだ。そこで昨年(2025年)6月、イスラエルとともにイランの核施設と軍事施設を爆撃した(12日間戦争)。そして今年(2026年)2月28日、アメリカとイスラエルはイランを奇襲攻撃したのである。

 アメリカの攻撃によってイランの軍事能力は大幅に減退したが、イランはまだ戦争を続けている。さらには、経済制裁によってイラン経済を痛めつけているが、それでもイランは降伏しない。

 それどころか、中間選挙までにトランプが戦争を終わらせたいという願望を持っていることを把握した上で、イランは少しでも有利な停戦条件を獲得しようとしている。

 したがって、イランが容易に停戦に応じるとは考えられない。

トランプの戦争目的はイランの「核武装阻止」「体制転換」だが…

 戦争目的の第一は、イランの核武装阻止であり、そのために核関連施設を破壊することである。施設がどこにあるかは軍事機密であり、アメリカが正確にその全ての場所を把握できたかどうかは不明である。また、施設が地下深い場所にあれば、破壊するのは容易ではない。

 攻撃開始からまもなく、トランプは「イランの軍事能力を100%殲滅した」と豪語したが、その後もイランは中東の米軍関連施設をミサイルや安価なドローンで攻撃し続けている。したがって、この第一の戦争目的が達成できたかどうかは不明である。

 第二の目的は体制転換である。今の宗教指導者による独裁から民主的な体制に移行させることである。昨年の暮れから新年にかけて、テヘランで商人による抗議集会やデモが行われた。物価高などの生活苦に対する不満からである。

 これを見たトランプは、「遂に大衆が立ち上がった。もう一押しすれば、体制の転覆は可能である」と判断したのである。

 そこでアメリカは攻撃初日(2月28日)にイランの最高指導者ハメネイ師を殺害した。CIAやモサドの諜報活動によって居場所を特定し、殺害することに成功したのだ。

 トランプは、ハメネイを殺害すればイラン国民が立ち上がって革命を起こし、民主的な体制に移行すると信じていたようだ。昨年末に生活苦から国民が街頭で抗議デモを行ったのを見て、好機到来と勘違いしたのだろう。

 確かにイラン国民の多くは、現体制に不満を抱いている。しかし、厳しい弾圧と監視の下で反体制組織を作ることは極めて困難であり、そのことをトランプは理解していなかった。アメリカの諜報機関はそのことを的確に指摘していたが、トランプは無視したのであろう。自分にとって不都合な情報は受け入れないという「裸の王様」状態になっている。

 ハメネイなど政権指導者の殺害を喜ぶイラン国民もいるが、一方でナショナリズムを高揚させ、国民を団結させることにもなっている。

イランによるホルムズ海峡封鎖とアメリカの「逆封鎖」

 対するイランはホルムズ海峡封鎖という手段で抵抗した。船舶の通航は止まり、原油価格は高騰して、世界経済は大混乱に陥った。

 イランが海峡封鎖することを、トランプは想定していなかったようだ。軍事力を破壊すれば直ちに降伏すると楽観視していたのである。

 ところが、ミサイルやドローンをはじめ、イランには様々な武器が温存されており、ホルムズ海峡を容易に封鎖した。さらには、米軍施設のある湾岸諸国などにも攻撃を加えた。イランはレバノン南部のヒズボラやイエメンのフーシ派を支援しており、これらの親イラン勢力が親米諸国を攻撃している。

 アメリカは艦隊を派遣してホルムズ海峡を「逆封鎖」したが、それによってホルムズ海峡を通航する船舶が増えたわけではない。

 原油価格高騰はアメリカのガソリン価格にも影響し、1ガロン(約3.78リットル)が4ドルを超える状況にまでなった。車社会のアメリカでは深刻な事態であり、トランプ政権への反発も強まった。

トランプ支持率の低下と中間選挙の行方

 歴史を振り返っても、戦争が勃発すると、アメリカでは大統領の支持率が上がるのが普通である。ところが、今回はそうはならなかった。

 直近の世論調査(8月24日、イプソス)によると、トランプ支持率は33%で、トランプ政権1期目と2期目を通して最低水準となった。また、アメリカによる対イラン軍事行動を支持するのは31%で、3月の37%、8月初めの34%から低下した。11月の中間選挙については、投票行動が注目される無党派層で民主党支持が33%と、共和党支持の19%を上回っている。

 このままでは、中間選挙で共和党は敗北する可能性が高いが、それを阻止するためにも、トランプとしては早く停戦を実現する必要がある。しかし、それが可能かどうかは不明であり、戦争を継続したまま中間選挙に突入するというシナリオもありうる。

トランプとネタニヤフの「思惑の違い」が中東情勢を左右する

 イスラエルは周囲を敵対する国々に囲まれており、安全保障が最大の課題である。イランを攻撃したのも、イランが核武装してしまえば、イスラエルが壊滅するという危機感を持ったからである。イランは核武装寸前まで進んでいたというのが、イスラエルの認識であった。

 そのイスラエルでは、国会(クネセット)の選挙が10月27日に行われる。

 最近の世論調査を見ると、次の選挙では、ネタニヤフ首相の率いる右派連立与党は50議席前後にとどまり、過半数の61議席を大きく割り込みそうである。野党勢力は58議席の予想であるが、過半数確保にはアラブ系政党などの弱小政党との連立が必要である。

 ヘブライ大学の世論調査では、ネタニヤフの支持率は、3月初旬には40.5%であったが、6月中旬には29.4%に下落した。

 イスラエルの公共放送KANが7月12日に公表した世論調査によれば、総選挙については、アイゼンコット元軍参謀総長が率いる中道政党「ヤシャル(「まっすぐ」の意味)」が24議席、ネタニヤフのリクードが23議席という結果であった。

 10月の総選挙に勝つためには、ネタニヤフは戦争を続ける必要がある。しかし、トランプは戦争を早く終わらせたい。そこで、イランとの停戦を実効的なものとするため、トランプは、ネタニヤフにレバノン攻撃を止めるように求めたのである。

 トランプとネタニヤフの思惑の違いが今後の中東情勢を左右するが、両者とも選挙を控えて、どのような政策パッケージを打ち出すかに苦慮している。イラン情勢の安定にはほど遠いのが現状である。

【プロフィール】舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。2001年に参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。