現職国会議員も関与した汚職疑惑が再燃…ウクライナで政治腐敗問題が続く深刻背景
8月5日付で【外務省元次官が2億円の横領で摘発!ゼレンスキー大統領政権下で横行する「汚職の深刻度」】を公表したばかりというのに、再びウクライナの腐敗状況について紹介しなければならない。8月20日、ウクライナ国家反腐敗局(NABU)と特別反腐敗検察(SAPないしSAPO)は、現職および元ウクライナ国会議員が主導し、ウクライナ大統領府の高官やその他の人物が関与していた犯罪組織を摘発した、と発表したからである。
ここでは、この事件の概要を説明しながら、汚職犯に取り囲まれながら大統領職にあるウォロディミル・ゼレンスキー(下の写真)こそ、「真っ黒な存在」であると論じたい(本稿で『現代ビジネス』での寄稿は最後となります)。
大統領を巡る数々の汚職事件
今回の事件を理解するためには、過去に起きたゼレンスキー大統領を取り巻く数々の汚職事件を思い出す必要がある。今回の事件と直接関係があるのは、いわゆる「ミンディッチ事件」である(詳しくは2025年11月19日付の拙稿【ついに暴かれたウクライナ政界の腐敗「一番真っ黒なのはゼレンスキー」】を参照)。
簡単に言えば、ゼレンスキー大統領にとってコメディアン時代からの盟友で、「金庫番」でもあるティムール・ミンディッチが主導して、彼らの支配下に置いた、ウクライナのすべての核発電所と複数の水力発電所を管理する国営企業「エネルゴアトム」を舞台に汚職事件を起こしたのだ。もちろん、そのためには、「ゼレンスキー・ファミリー」の言いなりになるよう、エネルゴアトムの企業統治制度を変更しなければならなかった(この手続きを推進したのが前の首相だったスヴィリデンコである(詳しくは拙稿【国防相と軍総司令官が大バトル!ウクライナ軍「内紛」の全真相】を参照])。
このため、NABU・SAPは捜査を開始した。捜査が進むにつれ、ゼレンスキー大統領は昨年7月、大統領が任命する検事総長の下にNABUを配置して、同局の独立性を奪うための法律改正まで行わせた。だが、抗議運動や西側諸国からの圧力を受け、同局の独立性は後に回復する。
この事件に関する最初の起訴は、昨年11月に発表された。先のミンディッチが政府高官数名の協力を得て、約1億ドルの予算資金を横領するスキームを仕組んでいたことが判明したのだ。首謀者とみなされたミンディッチは11月にイスラエルへ逃亡した。このスキームには、当時、エネルギー相だったヘルマン・ハルシェンコ(ゲルマン・ガルシェンコ)やその顧問なども関与していたため、逮捕・起訴された。
エネルゴアトム汚職事件に関与していた元副首相に対し、不正蓄財の容疑で告発状も出た。これはオレクシー・チェルニショフ前副首相のことである。彼は、このリベート計画で約143万ドルを受け取っていたという。NABUによると、エネルゴアトム事件の容疑者らは、同高級住宅団地の建設のために資金を提供したとされる。その相手は元副首相のチェルニショフであった。
ゼレンスキー大統領の当時の大統領府長官アンドリー・イェルマークは、エネルゴアトム事件の捜査の一環として家宅捜索を受けた後、昨年11月に辞任した。今年5月には、キエフ郊外の高級住宅団地の建設に関連するマネーロンダリングの容疑で起訴された。
問題の5・4億円
今回、犯罪容疑で告発されたのは、ウクライナ大統領府副長官だったイリーナ・ムドラ(下の写真)である。彼女は、犯罪的な手段で得た資金を合法化したとして告発されている。問題となったのは、別の汚職容疑者ハルシェンコの保釈金として支払われた1億5000万フリヴニャ(約5億4000万円)だ。
今年2月になって、先のハルシェンコが、「エネルゴアトム事件」の一環としてマネーロンダリングおよび組織犯罪の容疑で起訴された。裁判所は1億5000万フリヴニャの保釈金を設定したが、「ゼレンスキー・ファミリー」は仲間を救い出すための資金を調達するのに苦戦した。この結果、ハルシェンコは数カ月間勾留施設に収容され、保釈金が支払われたのは6月になってからだった。
やっと調達した金が不法な手続きで入手したものであるというのが、NABU・SAP側の主張である。具体的には、ムドラ、元国会議員マクシム・ミキタス、および国会議員のヴァディム・ストラーが、1億5000万フリヴニャをマネーロンダリングし、センス銀行を通じて資金を振り込み、ハルシェンコの保釈金を支払ったとして起訴されたのである。
乗っ取られた銀行
これからわかるように、「ゼレンスキー・ファミリー」は、彼らが「乗っ取った」別の企業である、センス銀行(ロシアのオリガルヒ、ミハイル・フリードマンと彼のビジネス・パートナー、ピョートル・アーヴェンらの所有する旧アルファ銀行ウクライナから改称)を利用した。実は、ムドラは、2022年にイェルマークが共同議長を務めるロシア制裁に関する影響力のある作業部会のメンバーだった。同部会は、フリードマンのクレムリンとのつながりを理由に制裁を推進し、アルファ銀行が政府によって国有化される道を開いたのだ。
センス銀行は、戦時特別法が可決された後、ロシアによる全面侵攻中に国有化された最初の銀行であった。センス銀行の国有化手続きは急がれ、透明性がほとんどなく、良好なコーポレート・ガバナンスや適切な経営陣の選任もほとんど考慮されなかったという(「キーウ・インディペンデント」を参照)。
これを利用して、国営企業の経営を管理・監督する監査役会を「ゼレンスキー・ファミリー」に近い人脈で牛耳ればいいことになる。エネルゴアトムの監査役会とまったく同じ手法である。これを主導したのがムドラであった。
ゼレンスキーの役割
ゼレンスキー大統領を取り巻く、これだけ多くの「ファミリー・メンバー」が犯罪容疑者として起訴されているにもかかわらず、ゼレンスキーはいずれも解任しただけで、自らの責任をまったく認めていない。8月22日の記者団とのやり取りのなかで、彼はムドラ解任について、こう述べた程度である。
「彼女を解任するには十分な詳細があった。実際、皆さんと同じく、ある行為--現実のものか潜在的なものかはともかく--に関するいくつかの話を耳にした。現時点でそれについて議論するのは適切ではない」
さらに、「腐敗防止機関の指導者たちからは、私に対して質問は一切ない。彼らは、私がそのようなことには一切関わっていないことを十分に理解している」と付け加えることをゼレンスキーは忘れなかった(「LB.ua」を参照)。
なお、ウクライナ憲法第105条は、ウクライナ大統領が在任期間中、免責特権を有すると規定している。だからこそ、ゼレンスキー大統領はこんな悠長なことを言っているのだろう。そして、何よりもテレビ局を支配下に置いているために、不都合な情報が国民に知れ渡ることはないとタカをくくっているに違いない。
公開された盗聴記録
しかし、状況証拠は「真っ黒だ」。たとえば、ウクライナの特別反腐敗検察 (SAP)の検察官は法廷で、容疑者たちの盗聴記録を引用した。そのなかで、ある容疑者が、ゼレンスキー大統領が国営銀行の監査役会会長に対し、イェルマークの保釈金として納められた出所不明の金銭の受け取りを拒否した同銀行の女性行員を解雇するよう「怒鳴りつけた」と主張している。「彼女はイェルマークの保釈を認めたくなかったが、大統領は彼女の解雇を求めて怒鳴った」と、SAPの検察官は、前述した元国会議員ミキタスの発言を引用してのべた(「ストラナー」を参照)
NABUが公開した盗聴記録によると、ミンディッチは表舞台から姿を消したわけではなく、ウクライナにいる共犯者たちと積極的に連絡を取り合い、ムドラを含む彼らと公金の横領に向けた今後の動きについて協議している、という情報もある。ムドラは出張でイスラエルを訪れ、ミンディッチと会っていた。「どうやら、ミンディッチと電話以外で直接会談する必要があったようだ」という。
先に紹介した「キーウ・インディペンデント」も、今年6月時点で、「ムドラや国営のセンス銀行に影響力を行使できていたことが示唆されている」と指摘している。これが意味しているのは、「ゼレンスキー・ファミリー」は何の反省もないまま、国際手配中のミンディッチと連絡を取り合い、カネの捻出などの謀議を繰り返したということだ。
さらに、「NABUとSAPが、ゼレンスキーが犯罪組織を指揮していることを直接ほのめかすのは、今回が初めてではない」と有力なロシア誌「モノクル」は書いている。昨年11月には、SAPの職員が法廷で、汚職犯たちは「ゼレンスキーとのつながりのおかげで」行動していたと証言したという。また、今年5月にはNABUが新たな盗聴記録を公開した。
そこでは、関係者が重要な問題を解決するために電話で連絡を取る必要があるという「ヴォヴァ」(Вова)という人物の名前が頻繁に言及されている。このヴォヴァとは、「ウォロディミル」(Володимир)の愛称であり、ウォロディミル・ゼレンスキーを指していると、ウクライナ人ならだれでもそう考えるはずだ。
激変する情勢
これだけ「真っ黒なゼレンスキー」を西側の主要な政治家は非難していない。西側の主要マスメディアも同じだ。なかにはノルウェー政府のように、8月23日の段階で、2027年のウクライナ支援として、2026年と同水準となる850億ノルウェークローネ(約1兆4700億円)を追加で拠出する計画を発表したところまである。
ノルウェーのヨナス・ガール・ストーレ首相が、キーウでの会談において、ゼレンスキー大統領にこの提案を直接伝えたというのだが、これでは「盗人に追い銭」そのものではないか。
英国のアンディ・バーナム首相はキーウを訪問し、8月24日にウクライナの独立記念日の祝賀行事に参加した。彼は、他の欧州諸国の指導者たちとともに、ドナルド・トランプ米大統領に対し、ウクライナに「パトリオット」迎撃ミサイルを供与するよう要請する意向を表明した。
ただ、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領には、訪問を見送った。やむを得ない事情があったらしい。前者は迫る州議会選挙に関連して多忙を極めており、後者は24日にサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子をパリで歓迎していたからだ。
日本時間24日午後8時に開催された「ウクライナに関する有志連合オンライン首脳会合」に出席した高市早苗首相も、Xにこう投稿した。
「我が国は、これまでも、官民一体となった復旧・復興支援を含め、ウクライナの社会・経済強靱化の取組に貢献してきました。 国際社会と連携しつつ、我が国にできるウクライナ支援及び対露制裁にしっかり取り組んでいきます。 我が国は、ウクライナと共にあり、その方針に揺るぎはありません」
だが、「真っ黒なゼレンスキー」を支援する理由を、彼女は説明できるのだろうか。
報じるべきことは報じるべき
おそらく西側先進国の政治指導者は、「代理戦争」を戦わせているゼレンスキー大統領の不正には目を瞑り、彼を支援することで、ついでに自国の国防費を増やし、あわよくばロシアの弱体化をはかろうとしているのだろう。しかし、こんなやり方を4年半もつづけていては、各国国民の血税が盗まれるだけであり、ウクライナやロシアの人々の生命や財産が毀損(きそん)されるだけだ。
さすがに、ゼレンスキー政権の「厚かましさ」に怒りの声も報道されるようになっている。8月24日付のThe Economistの記事「ウクライナが攻撃にさらされるなか、腐敗や政治的混乱が蔓延している」は、つぎのような出だしではじまっている。
「8月19日、ウクライナの腐敗防止捜査当局が、高官たちの盗聴録音の最新分を公開したが、もっとも衝撃を与えたのはその厚かましさだった」
ここで「厚かましさ」と訳したのは“chutzpah”だ(it was the chutzpah that shocked most)。この「厚かましさ」には、カネがついて回っているのが特徴だ。この表現はなかなか気が利いている、あるいは、皮肉っぽい。
そう感じるのは、「フツパー」と発音される言葉がヘブライ語の「חוצפה」に由来し、イディッシュ語の「khutspe」からも影響を受け、とくにユダヤ文化において使われることが多いからだ。なぜなら、「厚かましさ」を感じさせたのは、ここで紹介した、ユダヤ系のムドラだからである。ついでに、彼女のボス、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領もユダヤ系だ。碩学(せきがく)であれば、The Economistの記事の「本意」ないし「いやらしさ」がわかるだろう。少なくとも、裏では、The Economistの記者も相当に怒っていると推測できる。何しろ、彼らは「フツパー」なのだから。
他方で、露骨なほど親ウクライナに偏向したかに思える報道をしてきたCNNでさえ、8月20日に「活動家は、「ゼレンスキー氏はウクライナ国内で信頼を失いつつある」を放送した。そのなかで、腐敗対策センターの共同創設者であるダリア・カレンユクは、「ゼレンスキー大統領の側近の間でこれほど多くの大規模な汚職事件が発生しているにもかかわらず、大統領はこれらの事件を単に無視し、依然として法遵守を確保する人物ではなく、自分に忠実な人物だけを要職に任命し続けている」と語った。
それにもかかわらず、日本のマスメディアは相変わらず、「真っ黒なゼレンスキー」を「正義の味方」として扱っている。とくに、テレビ局がひどい。だが、放送法第四条では、「放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない」としたうえで、「一 公安及び善良な風俗を害しないこと」、「二 政治的に公平であること」、「三 報道は事実をまげないですること」、「四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」とされている。
つまり、日本のテレビ局は放送法に露骨に違反している。これって、「厚かましくないか」と書いておきたい。
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