世界ではスタンダードになりつつある「不登校35万人時代」に学校を変えた「新しい教育アプローチ」
いま、全国の不登校の小中学生は35万3970人と言われ、12年連続で過去最多を更新している。また、日本全体の自殺者数が減少傾向にある中、小中高生を含む若者の自殺者数だけは538人と統計開始以来最多となっている。こうした中、「SEL」という教育アプローチが注目されている。ある小学校では、前年度は0だった不登校からの登校復帰者が、SEL導入後の1年間で15人になったそうだ。教育ライターの佐藤智氏が、学校や自治体と協働してSELに取り組む株式会社roku youの下向依梨さんに話を聞いた。
「学力という単一の物差しだけで本当によいのか」
「コロナ禍を経験した子どもたちは人と関わり合う時間が大幅に減少し、関係性の中で自分の価値観や気持ちに目を向けていく機会が乏しくなっていきました。自身の心の不安や恐れ、痛みなどを感じ取ったり、他者に『助けて』と伝えたりする力を育む機会がなかった子どもが増えています」

そう語るのは、学校や自治体と協働してSELに取り組む株式会社roku youの下向依梨さんだ。
SELとは、Social Emotional Learningの略で、直訳すると「社会性と情動の学び」となる。北米で生まれ、1990年代のアメリカでの研究を皮切りに世界へ広がった。シカゴ市内の全校導入、シンガポールでの必修化、スタンフォード大学のオンラインハイスクールでの採用と、近年大きな広がりを見せている。
そこに、急速なAIの進化が重なる。
「学力という単一の物差しだけで本当によいのか」
「人間にしかできないことを大切にすべきではないか」
そんな問いを、多くの保護者やビジネスパーソンも抱え始めているが、SELはそうした問題意識にも呼応する教育アプローチだという。
自分を「家電製品」に見立てて
SELが目指すのは、「自己理解力」、「自己管理力」、「共感力」、「対人関係力」、「意思決定力」という5つの力を統合的に育むことだ。自分がどんなときに、どんな感情を持つかに気づき、それとうまく付き合いながら、他者の内面を想像し、傾聴し、自分の頭で責任ある選択をしていく。これらは互いに独立したものではなく、相互に作用し合いながら高まっていく、というのがSELの考え方だ。
重要なのは、SELが「認知能力(学力や偏差値)と対立するもの」ではないという点だ。2011年にアメリカで213校・幼稚園から高校生を対象に行われた調査では、SELプログラムへの参加者において「学力の向上」と「問題行動・心理的ストレスの減少」が同時に確認されている。非認知能力と学力は、相乗効果をもたらすのだ。
数字以上に気になるのが、現場はどう変わったのか、ということ。具体的にはどんなワークが行われ、子どもたちや先生たち、そして保護者はどう反応したのだろうか。
例えば、人間関係のトラブルが多かったクラスでは、自己理解を深め、多様な他者がいることを実感していくために、自分を「家電製品」に見立て「トリセツ(取扱説明書)」を書き、共有し合うワークなどを行うことがあるという。ただ、SELの実践は、教室の中だけで完結しない。
「授業のなかで『自分の気持ちを大事に扱いましょう』と伝えられているのに、家庭で『みんなに合わせることが大事』と教育されていたら、子どもは混乱してしまいます」(下向さん)
「ノンジャッジメンタル」であること
下向さんが強調するのは、大人が先に体現することの重要性だ。2021年のオーストラリアの研究では、大人の社会スキル・エモーショナルスキルが高まると、子どもへの関わり方の質が向上し、結果として子どもの学力にまでよい影響が波及することが示されている。保護者がSELを知り、実践することには、「学校任せにしない」ということ以上の意味がある。
「SELの実践で最も重要なのは、ノンジャッジメンタルであることです」(下向さん)
湧き起こる気持ちを「良い・悪い」で判定せず、ありのままに受け止めること。それが、自分の気持ちを捉え、他者の気持ちに向き合っていく第一歩となる。
もちろん、SELは一度きりの取り組みで劇的な変化が起こる「魔法のメソッド」ではない。日々の小さな積み重ねによって、変化の激しい時代を生き抜く「学びの土台」を着実に育てていくアプローチだ。
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では実際に、学校・教師・保護者はそれぞれどのようにSELを取り入れていけばよいのだろうか。新潮QUEで配信中の記事【「不登校児童が復帰」「保護者からのクレームも激減」という教育アプローチ「SEL」――その実践方法と効果とは】では、実際の学校現場で実施されているワークの詳細や、保護者が家庭で実践するための具体的なステップなどを、より詳しく伝えている。
デイリー新潮編集部
