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「加害者が亡くなっていたと聞いたとき、鳥肌が立ちました」

ネット上で誹謗中傷を受け続けた横浜市の男性(56)は、相手を特定し、裁判を起こした。1人とは和解し、もう1人には賠償を命じる判決が出た。

それでも、男性は「勝っても被害者が赤字になる」とうったえる。

被害が始まってから7年。弁護士費用などに100万円以上を費やし、心身にも不調をきたした。さらに、ようやく特定した加害者の1人が、すでに亡くなっていたこともわかった。

匿名の相手による誹謗中傷とたたかうには、どれほどの時間と費用がかかるのか。男性の経験を聞いた。

●カジノ反対の投稿から始まった誹謗中傷

始まりは2019年。当時、横浜市で大きな政治問題となっていたIR(カジノ)誘致をめぐるSNS上のやりとりだった。

男性がツイッター(当時)で誘致反対の立場を表明したところ、それまで交流のあった匿名アカウントから猛反発を受けた。

「最初は議論みたいな感じでしたが、徐々に口論になり、グループから追い出され、私の個人アカウントへの誹謗中傷や暴言が始まりました」

ネット上だけでは終わらなかった。

男性がIR誘致に反対する署名運動をしていた場所に、攻撃的な投稿をしていた人物が実際に現れたのだ。

身の危険を感じた。家族にも危害が及ぶかもしれない。男性は法的手段を取ることを決めた。

相談しても「相手を特定できていないなら難しい」

すぐに道が開けたわけではなかった。

男性がまず頼ったのは法テラスだった。最初に対応した弁護士はインターネット上のトラブルに詳しくなく、被害の深刻さを理解してもらえなかった。

警察や横浜市の人権課にも足を運んだ。しかし、「相手を特定できていないなら難しい」「ネット中傷は扱っていない」などと言われ、取り合ってもらえなかったという。

転機となったのは、法テラスの無料相談の最後の枠だった。

そこで出会った弁護士が被害に理解を示し、男性は2021年ごろ、正式に代理人を依頼した。

弁護士からは『辛いかもしれないが、絶対に感情的にならず、問題の投稿をスクショして証拠を残し、印刷してファイルに残しておくように』と言われました」

男性は助言に従い、誹謗中傷の証拠をひたすら集めた。そして、特に悪質だと考えた3つのアカウントについて、発信者情報開示請求などの手続きを始めた。

●特定した加害者は亡くなっていた

そんな中、思いもよらない事実が判明した。

ようやく名前を特定した加害者の1人が、2021年10月に死亡していたのだ。

裁判を起こして、相手側に意見照会のお知らせが送られたタイミングのことでした。刑事告訴したときに警察が調べてくれて、自死のようでした。山梨県甲府市に住んでいた方で、その後、遺族から相続放棄の通知が届きました」

男性は「鳥肌が立った」と振り返る。

「ネットで誹謗中傷を受けた被害者が命を絶つことはありますが、加害者が死ぬなんて…」

●賠償判決を勝ち取っても「100万円以上の出費」

別の1人とは和解が成立し、解決金50万円の支払いと謝罪を受けた。

残る1人については、裁判所が66万円の損害賠償を命じた。しかし、相手側が控訴し、現在も裁判が続いているという。

法廷では結果を出してきた。それでも、男性の表情は晴れない。

「被害が始まってから7年が経ちました。それに、弁護士費用や発信者情報開示の手続きのために、すでに100万円以上かかっています。裁判で勝っても被害者が赤字になるなんて、明らかに制度がおかしい」

●「捜査機関もネット中傷を軽く見ている」

男性が疑問を抱いているのは、民事の仕組みだけではない。捜査機関の対応についても問題を感じているという。

「2024年4月に刑事告訴したのに、強制捜査がおこなわれたのは1年以上経ってからで、すでに相手の投稿のログなどが消えています。

結局、証拠がないということで不起訴にされましたが、神奈川県警の捜査の仕方はおかしいと疑問を感じました。警察もネットの誹謗中傷問題を軽く見ているのではないでしょうか」

長期にわたる誹謗中傷は、男性の心身にも影響を及ぼした。2022年には、うつ病や睡眠障害と診断されたという。

「ネットで誹謗中傷を受けて悩んでいる人に伝えたいのは、『絶対に命は絶たないでほしい』ということです。必ず助けてくれる人はいるので、身近な人などに相談して、司法の手続きをとってほしい」

●「匿名は自分の身を守らない」

男性は現在、神奈川県議会や横浜市議会に、誹謗中傷の被害者を支援する条例の制定を求める活動を続けているという。

「匿名をいいことにネット上で好き勝手に書き込む人に対しては、『その向こうには相手の人間がいることをちゃんと理解したうえで投稿していますか?』と強く言いたいです。

匿名で投稿しても、決して自分を守ってくれるわけではありません。SNSなどを利用する方は、名前などを特定されるということをしっかり頭に入れて投稿するようにしないと、ネット誹謗中傷の問題はいつまでも終わらないのではないかと思います」

*この記事は読者からの情報提供をもとに取材・作成しました