【熊本地震】40度超の酷暑で深まる「トイレ危機」 水分控えで熱中症リスク増大――求められる「4日の壁」突破と「35個の備蓄」
最大震度7を観測した熊本地震の発災直後、被災地は40度を超える記録的な酷暑に見舞われた。水や電気などのインフラが途絶する中、現地で極めて深刻化していたのが「トイレ」の問題だ。
「トイレに行けない不安から水を飲むのを控えてしまう」…被災者の切実な声の裏には、熱中症リスクの増大という命の危険が潜んでいた。
過酷な現場の状況と、公助の遅れを埋めるために私たちが今すぐ取るべき備えを追った。(日本テレビ報道局社会部 三好日菜乃)
■ 40度超の酷暑と断水――排泄物が積み上がる避難所の惨状
発災翌日、最大震度7に見舞われた熊本県内の被災地に入ると、家屋は倒壊し、道路は深くひび割れていた。隣の福岡県出身の私にとって熊本県は部活動や旅行で毎年訪れてきた場所。10年前の震災からの復興が進むさまを見ていただけに、一変した街並みはとてもショックだった。
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さらに被災者を追い詰めたのが、40度を超える「酷暑日」の暑さと、断水による衛生環境の悪化だ。
八代市の避難所や氷川町役場では水が流せず、排泄物が入った袋が床にいくつも積み上げられていた。避難所で使われていたのは、便器に袋をセットし凝固剤で固める「携帯トイレ」だったが、その数が全く足りていなかった。
避難所に身を寄せる50代の女性は、「携帯トイレの数にも限りがあるので、なるべく水分を取らないようにしている」と明かしてくれた。
避難所職員も「長期化を想定した蓄えがなく、物資の配送をあちこちにあたってかき集めているのが現状」と言う。体を蝕む猛暑の中での「水分補給の控え」は、熱中症のリスクに直結する。命を守るための避難所で、二次的な健康被害の危機が目前に迫っていた。
■ 仮設トイレ設置の「バリア」――高齢者や介助者にのしかかる重荷
発生から数日で、これまでの「携帯トイレ」の他に、くみとり式の「仮設トイレ」を設置する避難所も出てきた。
発災から3日後に訪れた八代市鏡町の避難所にも、屋外に仮設トイレが設置されていた。しかし、これで問題が解決したわけではなかった。
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設置された仮設トイレの入り口には、30cmほどの大きな段差が存在していた。足が不自由な高齢女性が利用する際、車椅子から降ろして狭い個室へ移動させるには、職員1人の力では足りず、周囲のサポートが不可欠な状況だった。
これではトイレを使うたびに、介助される人も介助する人も、大きな負担となってしまう。それだけはない。狭い個室内では介助者が入ると扉を閉めることができず、プライバシーの確保すら困難な事態が生じていた。現場の市職員は「スロープとか障がい者に対応できるトイレがあると助かります」と訴える。
■ 「公助」が届くまでの4日間――問われる支援システムの効率化
なぜ、適切なトイレ環境がすぐに整わないのか。
「日本トイレ協会 災害トイレ研究会」砂岡豊彦事務局長によると、2011年の東日本大震災では全体の60%以上の避難所で、仮設トイレの設置までに「4日以上」を要したという。
遅れの背景にあるのが支援物資の輸送構造だ。現状では、国からの支援物資が一度各都道府県の集積所に集められるため、各避難所に届くまでにタイムラグが発生する。砂岡氏は「自治体があらかじめ想定される避難所数と人数を公表し、国から避難所へ直接輸送できる仕組みに整えれば、早ければ翌日か翌々日朝には届くようになる」と指摘する。
■ 今すぐできる「自助」――1人「35個」の備蓄と体験の重要性
制度やインフラの改善(公助)には一定の時間を要する。だからこそ、災害直後の数日間を生き抜くためには「自助」が不可欠となる。
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同協会と経済産業省によると、災害時に個人が必要とする携帯トイレの目安は「1人あたり1日5回×7日分=計35個」だ。しかし、「首都直下地震エリア」「南海トラフ地震エリア」における家庭での災害用トイレ備蓄率は、いまだ28.8%にとどまっている(2025年)。
さらに深刻なのは「備蓄していても一度も使ったことがない」人が大半である点だ。能登半島地震では、防臭仕様の袋の使い方を誤り、衛生環境が悪化するケースが相次いだ。いざという時のために「携帯トイレを実際に開けて使い方を学ぶ機会も大切だ」と砂岡氏は言う。
災害自体を止めることはできない。しかし、水も電気も止まった環境で、自分や家族の健康と尊厳を守る準備は今すぐできる。自宅の防災備蓄に「35個の携帯トイレ」はあるか。そして、その使い方を家族で確認しているか。今日から見直すことが求められている。