〈奈良の国宝に油〉「感動したものにかけて祈祷」逮捕された台湾人気タレントに現地も騒然、教会は「そんなことは教えていない」薬師寺は「国宝と柵の距離を広げた」

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奈良・薬師寺の大講堂に安置されている国宝「仏足石」に液体をかけたとして、奈良県警は8月22日、台湾出身の自称司会業の蔡宜臻(ツァイ・イージェン)容疑者(39)を文化財保護法違反の疑いで逮捕した。

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事件が起きたのは今年4月。ツァイ容疑者は観光で薬師寺を訪れ、仏足石に液体をかけたとされる。事件翌日に台湾へ出国していたが、8月22日に再び日本へ入国したところを関西国際空港で逮捕された。ツァイ容疑者は調べに対し、「感動したものに油をかけて祈祷する」と、容疑を認めているという。

「祈祷のために油を」国宝を汚損か

奈良・薬師寺の大講堂に安置されている仏足石(ぶっそくせき)は、釈迦の足跡を石に刻んだもので、753年に制作された。日本に現存する仏足石のなかでは最古のものとされ、1952年に国宝に指定された。

ツァイ容疑者は、今年4月6日の午後1時20分ごろ、観光で薬師寺を訪れた際、仏足石に液体をかけて汚損した疑いが持たれている。

薬師寺の担当者は、事件発覚の経緯を明かす。

「汚損された数日後に、職員が今までなかったシミを発見しました。ただ、その時点では何が付着していたのか分かりませんでした。国宝なので、文化庁さんに依頼して成分を調べていただき、警察にも相談して、境内の防犯カメラ映像を提出しました」

 ツァイ容疑者は、液体をかけた翌日には台湾へ出国していたが、警察は防犯カメラの映像などからツァイ容疑者を特定。仏足石に付着した液体からは、グリセリンが検出された。

警察の調べに対し、「感動したものに油をかけて祈祷するので、仏足石にも油をかけたと思う」と供述。さらに、過去にも別の場所で祈りのために油をかけたことがあるという趣旨の話をしているという。8月に日本に再入国した際にも、祈祷に使うための液体を所持していたことが判明しており、警察は、他の場所でも同様の行為がなかったか調べている。

前出の薬師寺担当者によると、過去にも奈良県内の神社仏閣で同様の被害が確認されており、今回の汚損を受けて、国宝である仏足石と拝観者の距離を見直したそうだ。

「以前から直接触れられないようには配慮していましたが、(仏足石に彫られているお釈迦さまの足跡は)性質上、薄くて近くに行かないと見えにくいということで、できるだけ近くで見てもらえる位置に柵を設置していました。

ただ、今回のことがあったので、以前よりも仏足石を囲う柵の距離を広げました」(同)

台湾でも波紋…教会は「無断で油をかけることは教えていない」

事件は台湾でも大きな波紋を広げている。ツァイ容疑者は本名の蔡宜臻とは別に「蔡頤榛」の名で芸能活動を行い、「五熊(ウーション)」の名でも広く知られる台湾の人気タレントでもあるからだ。

8月24日には、ツァイ容疑者のマネージャーが声明を発表し、本人と直接連絡が取れず、家族と日本の弁護士を通じて状況を把握していると説明。一連の騒動が混乱を招いたことについて謝罪した。

台湾メディアでは、ツァイ容疑者の芸能活動から交友関係、宗教との関わりに至るまで連日報じられており、現地での関心の高さがうかがえる。

過去にツァイ容疑者が集会に参加していたキリスト教会「新生命小組教會」は、ツァイ容疑者が何年も前に教会を離れているとした上で、「聖書には油を用いた祈りの記述はあるものの、他人の所有物や宗教施設、文化財に無断で油をかけることを教えたり、推奨したことはない」との声明を発表した。

一方、奈良県庁の文化財課によると、ツァイ容疑者が汚損した仏足石は、東京文化財研究所が成分検査を行い、奈良市内の元興寺文化財研究所が数日間かけて除去処置を施したことで、現在は事件前と同様の状態に戻っているという。担当者は、文化財を守る立場としての見解を示した。

「(汚損行為を)やっている方は、独自の信仰の考え方でされてるんだと思います。それでも、こちらでは、文化財の汚損行為をしているというような把握の仕方になってしまうんです」

『祈祷のためだった』と供述する行為によって文化財が汚損された今回の事件は、同じく信仰の場である寺側に難しい問題を突きつけた。

「お寺さんでは、お参りに来られた拝観者さんに対して性善説に立つといいますか、信仰のつもりでお参りに来られているという認識でいます。拝観に来られた方を疑いの目で見るようなことはないと思うんです。

事件が起きたことは非常に残念だなというふうに思っています。お互いの思いの違いというのはあるのかもしれませんけども、日本国内においては国宝ということで、行政も協力して守っているものですから、ぜひともやめていただきたいです」(奈良県文化財課)

「性善説に立っている」と担当者が語るように、寺社にとって、拝観者を一律に警戒の対象とすることは難しい。今回の事件を受け、文化財を公開しながらどのように守っていくのかという課題も改めて浮かび上がった。警察は、他の場所でも同様の行為がなかったかを含め、詳しい経緯を調べている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班