「ドカーン!」爆発の3分前、彼女たちはビルの中にいた――イオンモール熊本・爆発事故、九死に一生の証言
「食べ物を買おうとしたことが、命を救ったかもしれない」――そう振り返る女性の声には、今も信じられないという響きが残っている。7月28日、熊本県内を震源とする地震で「イオンモール熊本」は一斉避難を余儀なくされた。ところがその後、「私物を取りに戻るなら入っても良い」というイオン側の案内を受け、勤務していた女性は同僚2人と再び館内へ。店舗で約10分を過ごし、建物を出てわずか3分後――館内の南側から「ドカーン!」という凄まじい爆発音が響く。彼女たちが普段使っている従業員通用口のすぐ近くだった。なぜ、避難した従業員が再び館内へ戻ることになったのか。現場では何が起きていたのか。九死に一生を得た女性の証言を、詳細に再現する。

「人命優先だから早く避難して」――地震発生から避難まで
地震が発生したのは16時27分。イオンモール1階のアパレル店に勤める女性は、レジ裏手のバックルームで商品整理中だった。揺れを感じた瞬間、後輩の頭を抱きかかえるようにしてしゃがみ、揺れが収まるのを待った。バックルームの棚は倒れず、段ボールも落下しなかった。しかし店頭に出ると、マネキンやラックがほぼ倒れ、天井からは白い埃が舞い落ちていた。
会社のマネージャーから「人命優先だから、みんなも早く避難して」と指示を受け、3人のスタッフはロッカールームで私物を手に取り、北側の指定避難場所へ。お客さんを送り出してから1〜2分、スムーズな避難だった。
避難場所には各店舗のスタッフが集まり、ごった返していた。女性は家族に連絡を取りながら、頭の片隅でこう考えていた。バックルームに電源が入れっぱなしのパソコンがある。レジのお金は店舗に残したまま。もし火事になったら――。
「お金は諦めて。でも私物を取りに戻るなら入っても良い」
避難から約40分後の17時10分ごろ、避難場所からちらほら館内へ戻る従業員の姿が見え始めた。「入れるの?」と思った女性は、イオンの事務所スタッフに声をかけた。
「お金とかどうしたら良いんですかね?」
「お金は諦めてください」
そう言われた上で、「貴重品などの私物を取りに戻るなら入っても良いですけど」と告げられた。ただし、1人ではなく店舗ごとにまとまって入るように、と。女性は同僚2人とともに、再入館を決めた。
17時20分ごろ、3人は店舗へ戻った。館内の電気はついていた。別の店舗スタッフの話し声も聞こえ、点検のためか、ヘルメットを被ったイオンの女性従業員が館内を歩いていた。すでにネットがかかっている店舗も多く、「みんな戻ってきたんだな」と感じたという。
会社の担当者に電話すると、「お金は良いから早く帰りな。でも店舗の被害状況だけ写真を撮って、後で送って」と言われた。女性たちは倒れたラックやマネキンを撮影し、パソコンの電源を落としてコンセントを抜き、閉店時と同様に店舗外側にネットをかけた。「明日の片付けダルいな」などと考えながら……。
「何かガス臭くなかった?」――出発直前の一言
10分ほどで作業を終え、17時30分すぎに3人は店を出発した。再び外へ向かおうとした時、一人のスタッフの準備が少し遅れ、待っていると、追いついてきた彼女がこう言った。
「何かガス臭くなかった?」
しかし、女性は臭いには全く気づいていなかったという。
外へ出る道すがら、廊下の天井の電球部分から水がポタポタ垂れて水浸しになっている箇所があった。壁が剥がれ落ち、エスカレーター乗降口付近の床タイルが砕けて散らばっていた。
3人は普段使っている南側の従業員通用口ではなく、やや東側の売場出入口に向かった。館内の食品売り場が近くにあり、「市内がパニックになっているかもしれないから、今のうちに食べ物を買っておこう」と思い立ったからだった。
しかし食品売り場に入ろうとすると、イオンのスタッフに「こっちの方は入らないでください。あっちから帰って」と東側出口を促された。買い物を諦め、そのまま東側の出入口から外へ出て、駐車場に向かって歩き始めた。
3分後、「ドカーン!」という凄まじい音が響いた。振り返ると、館内の南側から白い煙が立ち上っていた。
爆発の中心地点は南側の従業員通用口付近――女性たちが本来使うはずだった出口のすぐそこだった。「食欲という欲望を優先させたことが良かったのかな」と女性は話す。
***
イオン側は当初、従業員の再入館を「認めていなかった」と説明していた。事故翌日(7月29日)の記者会見では、吉田昭夫社長が「そういったことは一切ございません。明確に否定しておきます」と断言。「死亡した方がなぜ1時間館内にいたか、我々としては認識しておりません」とも述べていた。しかしその後、テナント従業員から「イオン側の許可を得て再入館した」とする証言が相次いだことを受け、イオンは「事実関係を確認する」と慎重な姿勢に転じる。8月11日には公式サイト上で一転して「現場の判断で一時入館を認めた事実があった」と認めた。
同社の説明によれば、避難解除のアナウンスはしていないものの、帰宅困難となった従業員から車の鍵・身分証・携帯電話などの回収を求める要望が寄せられ、現場のイオン社員が個別に対応していたという。
そして今回の女性は、災害時の再入館に関するルールを、「それまで一度も聞かされたことがなかった」と証言している。
新潮QUEで配信中の記事【地震後に再入館も爆発を逃れた「イオンモール熊本」従業員の戦慄体験と“マニュアル”への疑問】では、女性たちが再入館することになった経緯や、店舗で過ごした10分間での出来事についてより詳しく伝えている。九死に一生を得た従業員の証言から、我々が非常時に肝に銘ずるべき「教訓」とは――。
デイリー新潮編集部
