「相場より高いです」AIを武器にマイホームを620万円引きで購入した“IT音痴”サラリーマン
“IT弱者”の普通のサラリーマンでも…
いまやAI(人工知能)は日々の生活に欠かせないものとなった。相談事や旅行プラン、店探しなどについて尋ねれば即時に最適解が返ってくる。遂にはマイホーム購入にAIの「ChatGPT」(以下、チャッピー)と「Gemini」(同、ジェミニ)などを駆使して、年収並みの値下げを実現した猛者も現れた。
その経験を著書『AIを使って首都圏に「中古マイホーム」を買ったら620万円も安くなりました』(鉄人社)として出版し、さらに稼いだ横山祐太氏(38)とはどんな人物なのか?
「普段は事務職として働くごくフツーのサラリーマンで、不動産の専門知識もありません。ITも苦手で、ITパスポート試験に何とか合格できたレベル。スマホの設定は妻に任せっきりの“IT弱者”です。
ただ、不動産やITの専門家ではないからこそ、難しい専門用語や業界の不透明な慣習をAIに尋ねました。AIを活用したことで総額620万円も値切れましたが、AIを上手に使えば誰でもマイホームを安く手に入れられるはず」(横山氏、「」内のコメントは全て同様)
横山氏は神奈川県内で築40年、2LDK・62m²の家賃8万5000円の木造賃貸で妻と子ども2人の4人で暮らしていた。風呂には追い焚き機能もなく、小さな子どもたちが走り回ると隣家から苦情が来ないかとヒヤヒヤする日々。マイホーム購入を考えたが、今や首都圏の新築マンションはフツーのサラリーマンでは手が届かない額となっていたので、中古住宅を探す。すると、適正な価格があるようでないことに気がついた。
「同じ地区の似たような物件でも売り出し価格はまちまちです。売り出し価格は、売り主の希望と仲介会社の事情が乗った『希望小売価格』で、成約価格とは異なります。不動産は成約価格を公表したがらず、定価がない世界。専門知識がないと太刀打ちできないので、基本カモられると思って差し支えありません」
内見をすれば、日当たりの良いリビングや広いバルコニーに胸が躍る。すかさず歴戦の営業マンが、「この地域でこの価格はもう出ない」「他に検討しているお客様もいます」「今日購入を決めてくれたら、端数の80万円は売り主様と掛け合います」などと購入を促してくる。
実際、「営業マンの言葉に飛びつきたくなりました」という横山氏。言い値だらけの業界で、営業マンの巧みなセールストークに騙されないために「一回冷静になった」という。
「『明日までにお返事をします』と一旦、時間を稼ぎ、自宅でAIに相談しました。チャッピーは『警告します。急な値引きの提案は焦りの表れです』と我に返らせてくれました。
ジェミニは近隣の類似物件の周辺相場を調査し、『妥当な金額です』と教えてくれました。さらに『○年後には大規模修繕とお子様のお受験が重なりますが、資金は十分でしょうか』と将来のリスクまで明示してくれます。人間は感情に左右されますが、AIに感情はないので、理詰めで指摘され、その後も何度も救われました」
重要事項説明書などを読み込ませるだけで
横山氏は“IT音痴”ではあるが、高精度の架空の画像を生成できるAIをエロ目的でこっそり楽しんでいたこともあり、AI技術の日進月歩の発展については知っていた。人生において一度か二度しかない大きな買い物だ。失敗は許されない。
しかし、素人にはわからないことばかり。中古住宅を目にしても、壁のヒビはどの程度までなら許容範囲なのか。水回りは修繕が必要ないのか。リフォームがどの程度必要で、その工事費用の適正価格もわからない。営業マンは決して本音を語らないが、AIを駆使すればそれぞれの特殊能力であっという間に最適解が叩きだされる。
横山氏はチャッピー、ジェミニにはそれぞれ月額20ドル(3200円程度)の有料版を使用している。その他、アンソロピック社の「Claude(クロード)」に月額30ドル(4800円程度)、中国系のAIエージェント「Manus(マナス)」の無料版を駆使。『AI四天王』を矛と盾にし、海千山千の業者と対峙することにした。
試しに専門用語が頻出する重要事項説明書や建築確認済証、ホームインスペクション調査報告書などをAIに読み込ませてみると、気がつかなかった瑕疵、修繕費の概算など次々と指摘し始めたのだ。
「雨漏りによる壁のシミなどは目視できますが、素人には屋根や外壁の現状はわかりづらい。専門業者に頼めば、有料で時間もかかります。でもAIならばその建物の重要事項説明書などを丸ごと読み込ませるだけで、築年数と屋根材の種類から屋根や外壁の現状や工事費を論理的に推測してくれます。
データ分析に広く使われるプログラミング言語『Python(パイソン)』でデータを読み込ませれば、将来の日当たりの変化も予測できますし、長期金利の利上げを予測し、数年先までローンの推計もできます。営業マンのセールストークの真意も暴け、最適な情報を次々と打ち返してくれるのです。
また、リフォームの見積書を読み込ませると、『この項目は相場よりも高い可能性があります』と次々と指摘してきました。私の感想ですが、相場を知らない客はカモだ、と思っている業界で、平気でふっかけてきます。しかし、相場データを知っていれば防げます。その武器を持たせてくれたのはAIです」
賃貸でも活用できる
AI四天王にもそれぞれ個性がある。横山氏はその個性に応じた役割分担をさせているという。
「チャッピーはアイディア出しや整理に秀で、さらに文書作成が得意です。値引き交渉のメールの下書きや営業マンへの切り返しの相談役に適しています。ジェミニはグーグル検索との相性がよく、周辺環境の現状や変化も指摘してくれ、現地に行かなくても下調べを済ませてくれます。
クロードは長文読解と丁寧な文章構成ができるので専門的で分量のある文書の精査役に向いています。マナスは指示を出すと段取りを組んで作業を進める自立型で、物件情報の収集・整理を任せられます。
どれか一つのAIに偏るのではなく、大きな判断時ではいくつかのAIに同じ質問をぶつけ、セカンド、サードオピニオンとして判断材料を増やしました」
AIを駆使した結果、横山氏は物件価格を300万円値引きさせ、リフォーム費用を260万削減。さらに不動産登記のための司法書士への報酬を20万円、火災保険を32万円、引っ越し代も8万円の削減を果たし、合計620万円も浮かせた。
「子どもたちは広くなった室内を走り回り、妻は追い焚き機能のついた最新の湯船につかり、一軒家の暮らしを満喫しています。月々の支払いは、以前の家賃とほぼ一緒で、支払いが終われば資産となる。この先もAIで暮らしを豊かにしていきたい。例えば、近隣スーパーの領収書をジェミニに読み込ませ、どこのスーパーではどれが安いか、どのタイミングでセールをするかなど統計・分析をさせればインフレを乗り越えることもできます」
最後に、賃貸の人でも引っ越しや更新などの際、AIを使って値引きできますか、と尋ねると横山氏は大きく頷き、こう返した。
「賃貸は入り口から出口まですべてが交渉ですから『AI値引き』が活かされます。家賃や更新料は周辺の募集相場や物件の空室期間などのデータを添えれば値下げの交渉の材料となります。
退去時も原状回復費としてふっかけてくる業者はいまだに少なくありません。退去時の請求書や見積もりをAIに読み込ませ、『国土交通省の原状回復ガイドラインに照らして、借り主負担が妥当かどうか項目ごとに判定して』と指示すればOK。経年変化や通常損耗といった本来は貸し主負担のものが紛れ込んでいないか判定してくれます。理詰めの質問書を送れば請求額が見直され、数万円から数十万円が浮くかもしれません」
世の中には「言い値」がはびこっている。インフレも続く。カモられないためにも明日から、「ねえ、チャッピー」と尋ねてみるべきではないか。
取材・文:岩崎大輔
