50歳を過ぎてようやく確信を持てた…「野村ブルー」を生んだ4代目花火師・野村陽一氏の半生
明治8年創業の野村花火工業は、澄んだ青色の花火「野村ブルー」が世界的評価を受けている花火会社だ。花火競技大会では、日本の頂点である内閣総理大臣賞を歴代最多23回も受賞している。同社を率いる4代目社長・野村陽一氏(66)が、生涯をかけて突き詰める、職人の矜持とは。
◆◆◆
業界の革命前夜と野村ブルー
私が花火を作り始めたちょうどその頃、業界は変革期を迎えていました。それまでの花火が木炭を原料にしていたのに対し、チタンやマグネシウムなど金属を燃やす時代へと変わりはじめていたのです。金属を使うとコストはかさむものの温度を高くできるため、それまで以上に鮮やかに明るく光らせることができるようになった。赤、青、緑の光の3原色だけでなく、黄色や紫など中間色、最も燃焼温度の高い高輝度の銀色、点滅する色なども表現できるようになり、組み合わせもどんどん複雑になっていった。各社が一斉に研究を始めて時代が変わりつつありました。
そして、来る日も来る日も色を研究するうち、高く評価されるようになったのが青色でした。青という色は、深い青から澄んだ青まで色に幅があり、他の色とも様々な組み合わせでマッチするハイカラな色。日本のわびさび精神にも通じるところがあるのか、ジャパンブルーとも呼ばれて国内外の多くの人に愛される色です。

地元の商工会議所・女性会主催の講演会では実物大の「五重芯変化菊」を片手に解説 ©文藝春秋
「野村ブルー」とも言っていただけるまでになった私たちの青色は、しっとりと落ち着いている、深く澄んだ独特の色味が特徴と言われます。水と緑に囲まれる、自然豊かな水戸だからこそ生まれた色なのかもしれません。だからというわけではありませんが、実は緑色にも自信があるんですよ(笑)。うちの工場に来て、綺麗な花が植えてあったり、防火水槽に金魚が飼われていたりすることに驚く方もいますが、火薬という危険物を取り扱う仕事だからこそ、掃除は常に気をつけていますし、コンクリートに囲まれる冷たい環境ではなく、自然の癒やしや安らぎにあふれた環境を作るようにしています。仕事場がいい環境でないと、いいものは生まれないのです。
こうして、研究を重ねる中で自分の理想とする色、形の花火を上げられるようになり、ようやく報われたのが、2002年にあげた土浦全国花火競技大会の10号玉花火でした。ここでようやく他の花火師に負けない、美しい色味・形の花火を打ち上げることができ、それを評価されて優勝できたことで「自分の歩いてきた道は間違ってないのだ」と確信を持てた気がします。全身全霊、全てを捧げて花火を作り続けるうち、私は50歳を過ぎていました。
とはいえ、今日まで50年以上作ってきても理想とする花火は数発も記憶にありません。今も毎年新作を開発し続けていますが、一生懸命に研究を重ねて10発試射しても、人様にお見せできそうな可能性を感じるものは一発あるかどうか。それだけ花火は本当に奥深くて難しいものです。
日本独特の「大きな丸い花火」
花火にはたくさんの種類がありますが、多くの方が想像されるのは、菊のように光が伸びて丸く大きく開く花火でしょう。これは、ジャパンスタイルと呼ばれるほど日本で独自に発達してきた花火です。
プレスして製造した火薬を筒に詰めて作る、柳のように光が吹き上がる海外の花火とは異なり、日本のこうした花火は割物(わりもの)花火と総称される、くす玉のように玉が割れて中から花火が飛び出す仕組み。丸い玉の中に「星(ほし)」と呼ばれる鮮やかに光り色を出す火薬や、「割薬(わりやく)」と呼ばれる玉を割るための火薬をバランス良く詰め、玉が均等に割れるようにクラフト紙を貼り付けて包みます。
星は、金平糖作りの要領で、菜種などの小さなかけらに、毎日少しずつ、火薬と水とのりを混ぜ合わせた薬品をかけては天日に干し……を繰り返し、薄い火薬の層を1日0.5ミリずつ積み重ねて大きくしていきます。青から赤に色を変化させたいなら、かける薬剤の調合を毎日徐々に変える必要もありますし、作業時の気温や湿度でも燃焼には計画とのわずかな狂いが生じますから、経験をもとにその都度、水分量も調整しなければいけません。もちろん、一度に大きく作る方がコストは安くなりますが、質が悪くなるので、雨天を避けつつコツコツ毎日作業します。大きな花火に使える2センチ程度のサイズになるまで3ヵ月程度はかかるので、もはや「育てる」感覚です。
※本記事の全文(約7000字)は、月刊「文藝春秋」9月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(野村陽一「この国でしか上げられない花火がある」)。 全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・「闇夜の烏(からす)だ」と揶揄されることも
・「光の起承転結」という美しい花火の条件
・日本の花火は輸出できない
・米国の弾切れは予想できた
※野村陽一さんが登場したグラビア「日本の顔」も合わせてご覧ください。
(野村 陽一/文藝春秋 2026年9月号)
