中国人観光客「半減」で吹き飛んだ5210億円 それでも全体消費額は前年超え、訪日客全体もほとんど減っていない
高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる国会答弁をきっかけに日中関係が冷え込み、中国本土から日本を訪れる旅行者が激減した。中国政府が日本への渡航を控えるよう呼び掛けたことで、観光業への大きな打撃が懸念され、2025年11月には中国本土と香港からの訪日客減による経済損失が1.79兆円に上るとの試算も出された。
それから約9か月。実際の数字を追ってみると、日本のインバウンド市場において大きな割合を占めていた中国人観光客は確かに減った。ところが、インバウンド全体に目を移すと、当初の懸念とは異なる状況となっている。
高市首相の「台湾有事」発言で消えた中国からの観光客
高市首相は25年11月7日の衆院予算委員会で、中国が台湾を攻撃した場合について、
「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得るケース」
と答弁し、自衛隊が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得るとの認識を示した。中国側は強く反発し、同月14日には国民に日本への渡航を当面控えるよう呼び掛けた。
その後、中国本土からの訪日客は大きく落ち込んだ。観光庁の「インバウンド消費動向調査」によると、2026年1〜3月期の中国からの訪日外国人旅行者数は前年同期比50.2%減、4〜6月期も52.5%減。ほぼ半減した形だ。
ただし、訪日外国人全体で見ると様相は異なる。
日本政府観光局(JNTO)によると、26年1月の訪日外客数は前年同月比4.9%減だったものの、2月は6.4%増、3月も3.5%増となり、それぞれ同月として過去最高を更新。4月は5.5%減、5月は3.6%減、6月は6.8%減と直近3か月は前年割れが続いた。
それでも上半期全体では、26年1〜6月の訪日外客数は2108万4800人。25年同期の2151万8575人と比べて、わずか約2%の減少幅にとどまった。中国本土からの旅行者が半減したが、台湾、韓国、米国をはじめ、幅広い国・地域からの観光客が増加し、中国の穴を埋めた格好だ。6月だけを見ても、台湾、韓国、米国、インドなど15市場で「6月として過去最高」を記録している。
台湾や韓国、米国、オーストラリアが「埋め合わせ」
そして、人数以上に興味深いのが旅行消費額だ。
観光庁の「インバウンド消費動向調査」によると、中国からの訪日客による旅行消費額は、25年1〜3月期の5478億円から26年同期は2740億円へ半減。4〜6月期も5064億円から2592億円とほぼ半減した。上半期だけで前年より計5210億円減少したことになる。
ところが、訪日外国人全体の旅行消費額は減っておらず、むしろ微増している。
全体では26年1〜3月期は2兆3373億円で前年同期比2.5%増。4〜6月期も2兆5096億円で0.2%増だった。中国人旅行者の消費額が5000億円以上吹き飛んだ一方で、全体では2四半期とも前年を上回っているのだ。
中国人旅行者の減少分を補ったのが、台湾や韓国、米国、オーストラリアなどからの旅行者だ。1〜3月期の旅行消費額は前年同期から、台湾が3171億円→3888億円、韓国が2823億円→3179億円、米国が2223億円→2600億円、オーストラリアが1151億円→1397億円に増加した。英国やドイツ、フランスなど欧州各国の伸びも目立った。
4〜6月期も台湾は2846億円→3639億円、韓国は2308億円→2589億円、米国は3546億円→3848億円、オーストラリアは1000億円→1059億円と伸びている。特定の一国が中国の穴を埋めたのではなく、複数の国・地域からの需要増が積み重なった結果といえる。
中国に頼りすぎない観光立国になれるか
全体の訪日外客数は前年同期比約2%減にとどまり、旅行消費額はむしろプラス。まだ1年間を通しての結果が出たわけではないが、少なくとも26年上半期のデータを見る限り、中国人観光客が激減しても、当初懸念されていたほどの落ち込みは見られない。
中国人観光客は、確かに日本に大きな恩恵をもたらしてきた。激減によって、日本の観光業への影響は小さくないだろう。しかし、国同士の関係が悪化すれば、政府の呼び掛け一つで旅行者が大きく減り得る中国に、過度に頼るのはリスクが大きい。
今回の上半期データは、幅広い国・地域から観光客を呼び込むことで、関係が不安定な中国に依存しなくとも「日本は観光立国としてやっていける」という希望を示した。

