2億円超の港区タワマンで異変「住む前から含み損がほぼ確定」最高倍率139倍→3000万円超値下げ、“マンクラ”を信じた購入者の末路
価格上昇が続くマンション相場に変調の兆しが出てきた。金利上昇を受け、これまで強気一辺倒だった不動産デベロッパーの中でも新築マンション価格を引き下げる例が出始めたのだ。市場の変調は中古相場にも波及しつつあり、在庫がダブつく中で大幅な値下げに応じる例も出てきた。こうした状況下、危機的な状況を迎えているのが上昇を前提に新築タワマンを購入した人々だ。値上がりを期待して手付金を払ったものの逆に価格が下落し、売る前に「含み損」が生じている例も。物件の引き渡しというタイムリミットは刻々と近づいている。
【画像】価格上昇が続くマンション相場に変調の兆しが出てきた”ただひとつの理由”
シエリアタワー南麻布から「毎週のようにメールが届く」
「毎週のようにメールが届くが、よほど売れ行きが厳しいのだろうか。発売当初はあれだけ強気だったのに」
東京都港区で不動産事業を営むA氏がこう首を傾げるのは、南麻布で建設中のタワーマンション「シエリアタワー南麻布」だ。
低層住宅が立ち並ぶ高級住宅街、南麻布で企画されたタワマンという同物件は24年の発売開始時は大きな注目を集めた。
70平方メートル強の2LDKの部屋が2億8000万円を超える価格設定も、高騰が続く東京の不動産市場の象徴として大手メディアでも取り上げられた。
発売から2年。熱狂は消え「いまやメールで在庫を案内している状況」
しかし、発売から2年が経った今、当時の熱狂はない。
「最初にモデルルームを訪れた時、担当者は『これだけ希少性が高い物件は二度と出てこないし、抽選も高倍率になる』という態度だった」とA氏は振り返るが、前述の通り、いまやメールで在庫を案内している状況だ。73平方メートルの部屋は2億4900万円と、発売当初に比べると安くなっているという。
マンション価格が高騰する中、強気の売り出し方をしたにもかかわらず、後に価格設定を見直すという例はシエリアタワー南麻布に限った話ではない。
港区ではモリモトやアスコットといった中堅デベロッパーが高価格の新築物件を販売しているが、いずれも一部の部屋で価格の見直しがあったとされる。
A氏はこうした物件について「モデルルームで開口一番、値引きもあり得るという話を示唆された。売り手市場だったこれまでとは明らかに雰囲気が変わっている」と話す。
市場の変調の最大の要因は、金利上昇だ。日本銀行は6月、政策金利を0.75%から1%に引き上げた。24年にマイナス金利を解除して以来、5回目の利上げとなる。
「東京タワーが見える部屋ならともかく…」
過去10年以上、都心のマンション価格上昇が続いたのは、サラリーマンが低金利の住宅ローンを活用してレバレッジをかけて不動産を買っていたことが大きい。
金利上昇はこうした層を直撃した。仮に35年ローンで1億円を借りていた場合、金利が1%上がると月々のローンの返済額は5万円程度上がっている計算となる。
いくら大企業で賃上げが盛んだといっても、手取りで毎月の給料が5万円増えているという人はそこまで多くないだろう。また、銀行もかつてに比べて融資を絞るようになり、予算そのものが減るという負のサイクルは既に始まりつつある。
2億円を超えるような物件は富裕層にも訴求していく必要があるが、A氏はこれらの物件について、「市場のことがわかっていない」とバッサリ斬る。
例えば、シエリアタワーの開発は関西電力系の関電不動産開発。東京では実績が少なく、ブランド力が高いとはいえない。
また、南麻布といっても、立地するのは大通りと高速道路に面しており、最寄りのスーパーも業務系の店舗で高級感があるとはいえない。「東京タワーが見える部屋ならともかく、そうでない部屋に2億、3億円を出す人は少ないのでは」と話す。
「絶対に値上がりすると聞いていたのに、話が違う」
三井不動産や三菱地所のような富裕層に強い大手デベロッパーは別として、かつては「今なら高値で売れるから」と高値で土地を取得して強気の値付けをしたものの、市況の変化によって在庫となり、値下げ販売を余儀なくされているというのが都心の不動産の現状だ。
値下げラッシュが始まりつつある状況下、より深刻な問題を抱えているのが、上昇相場が続くことを前提にタワマンを購入した人々だ。
「絶対に値上がりする、庶民が港区にタワマンを買える最後のチャンスだと聞いていたのに、話が違う」
大手企業に勤める40代のB氏はこう憤る。同氏が怒りの矛先を向けるのは、「マンクラ(主にXなどでマンションの購入・売買や不動産市場について熱く語り合う人々の集まり。マンションクラスターの略称)」と呼ばれる人々だ。
B氏は25年、JR品川駅から徒歩圏内という触れ込みのタワーマンション「リビオタワー品川」を購入した。800戸を超える大規模タワーで、再開発が続く品川駅や高輪ゲートウェイ駅にも徒歩でアクセス可能。
1期1次には投資家たちが押し寄せ、平均倍率が12.3倍、最高倍率は139倍という超人気物件となった。
リビオタワー「これは絶対にお買い得」「庶民の最後のチャンス」
XやnoteなどのSNSでマンション情報を発信するマンクラの人々は「これは絶対にお買い得」「庶民の最後のチャンス」と煽った。
その後も、マンクラ界隈は異常な盛り上がりを見せた。1期1次こそ3LDKで1億5000万円以下の部屋もあったリビオタワー品川だが、その後は値上げを敢行、1期2次では1億6000万円からのスタートに。
似たような条件ながら2000万円以上高くなったケースもあり、「これからマンションが安くなることは二度とない。絶対に買っておくべき」という声が大勢を占めた。
しかし、宴は長くは続かなかった。前述の通り、利上げが続いたことでマーケットは冷え込み始めたのだ。象徴となったのが、26年5月の3期1次の住戸だ。
2億2900万円で売っていた物件が1億9600万円と、実に3000万円を超える値下げとなったのだ。
A氏は「確かに品川再開発はポテンシャルがあるが、徒歩10分以上かかるし、港区といっても周囲に食肉加工場や倉庫があるエリアで、2億円出してまで買う人はそこまで多くはないのでは。デベ側も冷静になって、在庫整理を始めたのだろう」とバッサリ切り捨てる。
抽選で100倍以上の倍率がついたことなど忘れたかのように、先着順で購入できる部屋も増えた。
住む前から「含み損」がほぼ確定している
リビオタワー品川を絶賛していたマンクラたちは手のひらを返したように、「今は時期が悪い」「焦って買う必要はない」と真逆のことを言っているという。
B氏は「将来値上がりするからと無理してローンを組んだのに、話が違う」と怒りがおさまらないが、後の祭りだ。住む前から「含み損」がほぼ確定している中での新生活となりそうだという。
もっとも、もっと悲惨な人々がいる。転売を見込んで購入した人々だ。リビオタワー品川の販売が始まった25年はタワマン価格にバブル的な勢いがあり、購入して竣工まで2年間寝かせておくだけで数千万円の利益が見込めたのだ。
実際、リビオタワー品川を購入した人の中には、転売目的で親族や友人の名義を使って複数の札を入れた人もいたという。しかし、価格が下落して逆回転するようになると、こうした戦略は裏目に出る。
引き渡しが27年4月となっているにもかかわらず、SUUMOなどのポータルサイトに転売目的とみられる物件が多数掲載されているが、A氏は「全然売れてないし、動いていない」と話す。
港区で起きている「値下げラッシュ」
中には価格改定を繰り返している部屋もあり、「1期1次で買っていなければ利益が出ていないのでは」と分析する。
転売目的で購入した人の多くは実際に購入するだけの現金を持っておらず、引き渡しというタイムリミットが近づくにつれ、手付金の放棄か損切りを迫られることになる。
「投資にリスクはつきもので、自業自得。これまでのようにすべてのエリアで値上がりしていたのが異常で、これからは立地やブランドなどの選別がますます強くなる」とA氏。港区で起きている「値下げラッシュ」は、何の後ろ盾もないサラリーマンが2億円近い物件を買え、不動産を転がすだけで巨額の富を得ることができた時代の終わりを告げている。
文/築地コンフィデンシャル
