「ポスト・トランプ」で日米同盟はどう変わる?大統領選を左右するバンスとルビオ、日本に迫る防衛負担増のシナリオ

バンス副大統領(左)とルビオ国務長官(写真:ゲッティ=共同通信社)
今年(2026年)11月3日に実施される米中間選挙まで、3カ月を切った。連邦議会では下院の全435議席に加え、上院の35議席(通常改選33議席と補欠選挙2議席)が争われる。
2028年11月7日に一般投票が行われる次期米大統領選挙(2029年1月20日就任)は、「ポスト・トランプ」を決める選挙となる。その前哨戦でもある中間選挙への注目度は高い。
日本にとって気掛かりなのは、次期米大統領が描くインド太平洋の安全保障・外交戦略だ。とりわけ、海軍力を急拡大し、太平洋への進出をもくろむ中国を念頭に置いた日米同盟の行方である。
ここでは、下馬評に挙がる共和・民主両党の有力候補について、日本を軸に安全保障・外交戦略を俯瞰してみたい。
米軍をインド太平洋へ、バンス氏が描く「選択と集中」
共和党では、現職のバンス副大統領(42)とルビオ国務長官(55)が有力候補として浮上している。米エマーソン大(マサチューセッツ州ボストン)が今年7月23日に発表した、次期大統領選の共和党予備選を想定した世論調査では、バンス氏39%、ルビオ氏38%と、ほぼ互角だ。
バンス氏の安全保障戦略を端的に表すと、「選択と集中」だ。“世界の警察官”からの決別はもちろん、世界各地への米軍の派遣・展開にも慎重で、米国の国益とあまり関係のない地域での軍事展開は避けるべきだと説く。
安全保障上、最も重要なのは米本土と西半球(南北米大陸)であり、それに次いで世界の成長センターであるインド太平洋を安全保障の要として重視する。
一方、欧州や中東では、同盟国・友好国がさらに防衛力の強化に努め、米国の軍事的負担を軽減する。その分、浮いた軍事資源をインド太平洋に集中配備し、中国の軍事的拡大を阻止する――というスキームである。
NATO(北大西洋条約機構)加盟国に国防費などの対GDP比5%(中核的防衛支出「少なくとも3.5%」+防衛・安全保障関連支出「最大1.5%」)の負担を求める姿勢や、もともと中東への軍事介入に慎重だったバンス氏の主張にも、米国の軍事資源をより重要な地域に集中させようとする考え方が表れている。
「タダ乗り」は許さない、バンス氏が日本に求める負担
バンス氏は副大統領就任以前から「対中強硬派」として頭角を現しており、2023年4月20日のヘリテージ財団創立50周年記念リーダーシップ・サミットでの演説では、当時上院議員だったバンス氏が「何よりも防ぐ必要があるのは、中国の台湾侵攻だ。米経済を破壊し、大恐慌に陥る」と語気を強めた。
2024年7月15日、共和党の副大統領候補に指名された直後、米FOXニュースのインタビューでは、「ロシアとウクライナの和平を速やかに実現できれば、アメリカの真の問題、つまりわが国にとって最大の脅威である中国に集中できる」と言い放った。
中国の太平洋進出に関しては、「第1列島線」(日本列島~南西諸島~台湾~フィリピン)を阻止線と位置付け、日本や台湾、フィリピンといった同盟国・パートナーが、それぞれ防衛力をより一層増強し、抑止力を高めるべきだと強く要求する。

地図:共同通信社
最重要の防衛地域と位置付ける西半球、そしてそれに次ぐインド太平洋で米国の優位を確保し、中国を抑止する。そのために、日本をはじめとする同盟国・パートナーにも防衛力の強化と、より大きな役割を求める――。これがバンス氏の描く安全保障のシナリオだ。
日本は第1列島線の中心に位置し、同盟国・パートナーによる抑止力の中核を担う国として重視される。ただし、日本のために無制限に米軍が戦うべきだとは考えていない。
また、バンス氏はこれまで、日本の戦略的重要性について具体的に語った例が、実はそれほど多くない。
上院議員だった2024年1月19日、上院銀行・住宅・都市問題委員会の公聴会では、日本製鉄によるUSスチールの買収計画を巡り、日本を「重要な同盟国」と評価する一方、買収には反対する立場を明確にした。同盟国を重視しながらも、米国の国益を優先する姿勢がうかがえる。
米国単独で世界の安全保障を担うことは、もはや難しい。同盟国との関係は引き続き重視するものの、「タダ乗り」は許さず、相応の負担を要求する。
中国に対しては、「対立」そのものを目的とするのではなく、力による「抑止」で臨もうとしている。ただし、目的はあくまでも中国を打倒することではなく、米国や同盟国を中国が支配しようとすることを阻止することにある。
そのためには、米国内で疲弊した産業基盤、特に製造業の復活が不可欠であり、それによって軍需産業の復権も果たせると強調する。
バンス氏は日本を重視する一方、同盟国にはこれまで以上の負担と協力を求めてくることが想定される。「防衛費の対GDP比5%」を強硬に迫ってくる可能性も十分に考えられ、日本にとって、ある意味で手ごわい相手となるだろう。

バンス副大統領(2026年7月、写真:CNP/ABACA/共同通信イメージズ)
中国抑止は「チーム戦」、ルビオ氏が重視する同盟連携
一方、ルビオ氏の中国に対する強硬姿勢は、バンス氏以上に筋金入りだ。以前から、中国共産党政権による言論弾圧や人権抑圧政策への批判を繰り返してきた。
2025年1月15日、国務長官に指名された後に開かれた上院委員会の指名承認公聴会では、中国を「米国が直面した中で最強で危険な敵」と断じ、中国共産党は抑圧、ウソ、不正な手段を駆使して超大国の地位を獲得したと強調した。
台湾有事に関しても、「(中国が台湾に)侵攻した場合の代償が大き過ぎると認識させ、インド太平洋での軍事介入を防ぐ」と述べている。香港の民主化運動を支援したことなどから、2020年、中国政府はルビオ氏に対する中国への渡航規制を実施した。
その後、ルビオ氏は米国務長官に就任した。中国政府は2020年にルビオ氏へ科した制裁を正式に解除したとは発表していないものの、2026年5月にはトランプ氏に同行して中国を訪問。少なくとも国務長官としての訪中には、制裁を適用しなかった形だ。
「アメリカ・ファースト」「対中抑止」「インド太平洋重視」「同盟国の防衛負担増」など、根幹部分ではバンス氏と大差はない。ただし、「同盟ネットワーク重視」という点では両者にやや違いがある。ルビオ氏は、むしろ同盟国・パートナーとのネットワークこそが、米国の国力の源泉だと考えている。
もちろんバンス氏も、同盟国・パートナーとのネットワークそのものは重視する。ただ、どちらかといえば、同盟国・パートナーの防衛力を有効活用し、米軍の負担をできるだけ軽減するという、「同盟国への負担分担」の発想がより強いように思える。
これに対しルビオ氏は、日米同盟、日米韓、日米比に加え、クアッド(日米豪印戦略対話)、AUKUS(豪英米の安全保障協力)、ニュージーランド、さらにはNATOとの連携を重視する。いわば「チームワーク」で中国を抑止するという発想である。

記者団の取材に応じるルビオ国務長官(2026年6月、写真:ロイター=共同通信社)
日本は第1列島線の中核、ルビオ氏が重視する日米同盟
同盟国重視は共和党の伝統的な発想とも言える。ただし、かつてのように「圧倒的な米国の軍事力で同盟国を庇護する」というものではない。
同盟国・パートナーにも相応の負担増を求め、「アメリカ・ファースト」を強調しつつ、第1列島線で中国の太平洋進出を抑止する――。これがルビオ氏の安全保障戦略の概要だ。
日本を第1列島線の中核として重視する点はバンス氏と同じだが、ルビオ氏の方が、日本の戦略的重要性をより鮮明に打ち出している点が特徴と言える。
2025年7月10日、BSフジに出演した石破茂首相(当時)が、米国との関税交渉に関連して、安全保障やエネルギーなどの面で日本は対米依存から自立すべきだと発言すると、ルビオ氏は即座に反応した。
ロイターによれば、翌11日、記者団に対して「否定的にとらえるべきではない」「そこにドラマや分裂を求めている人は、そうすべきではない。日米関係は非常に強固だというのが真実だ」と強調した。
さらに、「日本の軍事力が高まるという考え方は、われわれが不快に思うものではなく、むしろ励みになる」と述べ、石破氏の発言を高く評価した。
ルビオ氏は伝統的な共和党の安全保障・外交スタンスに立ち、特に日本の戦略的重要性を熟知している。中国抑止に関しても、日本に対し防衛負担をさらに増やすよう要請する可能性はあるものの、バンス氏ほど“高圧的”ではない。
「米国とともに中国の太平洋進出を抑止しよう」という意思が感じられるなど、日本にとっては比較的好感を持ちやすい人物だろう。
民主党は候補乱立、対中・台湾戦略はいまだ見えず
民主党の次期大統領候補はどうか。前出のエマーソン大による、次期大統領選の民主党予備選を想定した世論調査では、ブティジェッジ前運輸長官19%、ニューサム・カリフォルニア州知事17%、オカシオ=コルテス下院議員(ニューヨーク州)13%、オソフ上院議員(ジョージア州)13%となっている。候補者はやや乱立気味で、まだ絞り込まれていない。

ブティジェッジ前運輸長官(2026年4月、©Nancy Kaszerman/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

カリフォルニア州のニューサム知事(2026年6月、©Charles Baus/CSM via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

オカシオ=コルテス下院議員(2026年7月、写真:ロイター=共同通信社)

ジョージア州選出のオソフ上院議員(2026年7月、写真:CQ Roll Call/ニューズコム/共同通信イメージズ)
政権与党・共和党の現職副大統領、国務長官であるバンス、ルビオ両氏とは異なり、野党・民主党の有力候補たちは、安全保障・外交戦略について具体的なスタンスをほとんど表明しておらず、現時点では未知数と言っていい。
このため、民主党についてはバイデン前政権時代の戦略がベースになると考えるのが無難だろう。
バイデン前政権の安全保障戦略では、インド太平洋では「中国」、欧州では「ロシア」を優先的な安全保障上の課題と認識していた。ロシアを「重大な脅威」、中国を「最重要の長期的競争相手」と位置付けた。
これをベースに、インド太平洋では、日本を中心にクアッド、AUKUS、日米韓、日米比などの多層的な同盟・協力ネットワークを構築し、同盟国・パートナーとともに中国を抑止する、という発想だった。ルビオ氏のスタンスに近い面がある。
ブティジェッジ氏は、元海軍情報将校というキャリアを持つ。同盟国と協調する一方、軍事介入には慎重な姿勢を取るとみられる。
ニューサム氏は、対中競争と経済安全保障の比重が大きくなると推測される。オソフ氏も対中競争を重視しつつ、民主主義国や同盟国との連携を重視するのではないかとみられる。
オカシオ=コルテス氏は、急進左派を代表する政治家の一人として近年、急速に支持を集めており、2026年2月のミュンヘン安全保障会議(MSC)にも登壇し、安全保障・外交に関する持論を披露した。
注目されたのは、「台湾が中国に侵攻された場合、米軍を派遣するか」との問いに対し、是か非かを明確にせず、「そもそも、そうなることがないようにすることを望む」と回答した点だ。
この回答だけでは、実際に中国が台湾に侵攻した場合にどう対応するのかは分からない。バイデン政権まで米国が維持してきた「曖昧戦略」、つまり台湾侵攻の際に米軍が介入するかもしれないし、しないかもしれない、という戦略的曖昧さを維持しながら、中国をどう抑止するのかという政策的な説明が十分ではなかった。
外交や話し合いで紛争を解決するという理想論だけでは、戦争がなくならないのが国際政治の現実である。仮に米大統領を目指す政治家だとすれば、安全保障・外交面ではまだ実力不足と言わざるを得ないだろう。
誰が次期大統領でも、日本に迫る防衛負担増の流れ
米大統領選挙は2028年11月に一般投票が実施されるが、それまでにトランプ氏が一波乱も二波乱も起こす可能性は十分に考えられる。
すでにトランプ氏は、民主党内外で民主社会主義を掲げる左派勢力が存在感を強めていることに対し、「共産主義だ」と猛烈に批判している。中間選挙で劣勢ともいわれる共和党の人気挽回に向け、悪戦苦闘している最中だ。

演説会場でのトランプ大統領(2026年5月、写真:ゲッティ=共同通信社)
ただ、誰が「ポスト・トランプ」を担うにせよ、日本にとって重要なのは、米国の大統領が代われば日米同盟が従来の姿に戻る、と単純には考えられないことだろう。
バンス氏とルビオ氏では同盟国との向き合い方に違いがあり、民主党候補が掲げる政策も今後変化していく可能性がある。それでも、米国が中国との長期的な競争を見据え、日本を含む同盟国・パートナーにこれまで以上の役割と負担を求める流れは、共和・民主のどちらが政権を担っても続く可能性が高い。
日本に問われるのは、米国がどこまで守ってくれるのかを見極めるだけではない。自らの防衛にどこまで責任を負い、日米同盟の中でどのような役割を担うのか。その姿勢が、これまで以上に問われることになる。

2025年10月、日米首脳会談において日米同盟の抑止力や対処力を一層強化する方針で一致し、署名した文書を手にする高市早苗首相(左)とトランプ大統領だが…(写真:ゲッティ=共同通信社)
象徴的なのが、米国防総省で政策を担当するコルビー次官が今年8月10日に語った言葉だ。同盟国に防衛力の強化と自国の安全への責任を求めた上で、「われわれが求めているのはパートナーであって、保護国ではない」と強調した。誰が次期大統領になろうとも、日本が一方的に米国に守られるのではなく、自ら抑止力を高め、米国とともに地域の安全保障を支えることを求められる流れは、今後さらに強まる可能性がある。

国防総省のコルビー政策担当次官(2026年8月、写真:共同通信社)
次期大統領候補を「対日穏健派か、強硬派か」という物差しだけで見るのは、あまり意味がない。重要なのは、米国の国益の中で日本をどのように位置付け、日本にどこまでの役割と負担を求めようとしているのかだ。
果たして民主党の巻き返しはあるのか、それとも共和党が政権基盤を死守するのか──。2028年大統領選に向けた米政治の動きは、日本の安全保障にも直結するだけに目が離せない。
筆者:深川 孝行
