(※写真はイメージです/PIXTA)

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「私が死んだあと、子どもたちが遺産の分け方で揉めないよう、今のうちに決めてあげたい」──。そう話すのは、長男、次男、海外で暮らす長女の3人の子どもを持つOさんです。きょうだいの関係は良好でも、過去の資金援助や土地と建物の名義の違いなど、相続後のトラブルにつながりかねない火種がいくつもありました。子どもたちに争いを残さず、財産を公平に引き継ぐにはどうすればいいのでしょうか。相続実務士・曽根惠子氏が、実例をもとに解説します。

今回の相談者であるOさんは、子ども思いのご高齢の女性です。お子さんは長男、次男、そしてアメリカに住む長女の3人です。

「私が死んだあと、子どもたちが遺産の分け方で揉めないよう、今のうちに決めてあげたい」

Oさんが私たちのもとを訪れたのは、そんな強い危機感からでした。年齢の近いきょうだいは、それぞれしっかりとした考えを持っている一方、いざ意見がぶつかると、互いに譲らない頑固な一面もあります。

そのなかで、Oさんが最も信頼しているのが長女です。長女は「きょうだいで平等に分けるから私に任せて」と言ってくれていますが、現在は医師として海外で暮らしており、帰国は年に1回あるかないかという状況です。

「いくら信頼していても、海外にいる娘にすべて任せてしまっては、日本にいる息子たちとの手続きがスムーズに進むとは限りません。それに、今はうまくいっていても、私がいなくなれば、それぞれのお嫁さんの考えも絡んで、関係がどう変わるかわかりません」

親だからこそ感じ取れる、家族関係の微妙な変化があります。Oさんは、自分が元気なうちに、子どもたちが納得できる明確な道筋をつけておく必要があると考えていました。

敷地内に4つの建物 自宅・次男の家・アパート・テラスハウス

Oさんが所有する土地には、4棟の建物が建っています。

1.自宅 夫婦2人暮らし
2.次男の家 Oさんの土地に、次男が自宅を建てて暮らしています
3.アパート 6世帯のアパートが建っており、連帯保証人は長男です
4.テラスハウス 3世帯のテラスハウスで、建物は次男名義です

一見すると、十分な資産があり、生活に困るような状況ではありません。しかし、この「不動産の持ち方」と「これまでの経緯」のなかに、将来の相続トラブルにつながりかねない問題が潜んでいました。

10年前の税理士の助言と、浮き彫りになった「3つの課題」

Oさんの資産状況と家族関係を整理したところ、大きく3つの課題が見えてきました。

課題①:10年前の助言をそのまま信じ続けていたこと

Oさんは10年前、地元の税理士から「地価が高いから、今売ると譲渡所得税がものすごくかかる。絶対に売らないほうがいい」と言われていました。

そのため、不動産を売却せずに保有し続けてきましたが、その後、相続税の基礎控除が引き下げられ、さらに路線価も上昇しました。その結果、当時とは状況が変わり、気がつけば多額の相続税がかかる可能性のある資産構成になっていたのです。

課題②:次男への「3,000万円超の資金援助」が不公平感の火種になる可能性

Oさんは過去に、次男へ3,000万円以上の資金援助をしていました。

次男本人は「土地はいらない」と話していますが、現時点では口約束に過ぎません。

長男夫婦からすれば、「次男はすでに多額の援助を受け、親の土地に家を建てて暮らしている。そのうえ、相続でも同じように財産を受け取るのか」と不公平感を抱く可能性があります。

今は問題になっていなくても、相続が発生したときに、過去の援助がきょうだい間の対立の火種になることが懸念されました。

課題③:「土地と建物の名義が異なる」ことで将来トラブルになる可能性

次男の自宅が建っている土地はOさん名義ですが、建物は次男名義です。

このまま土地を長男や長女が相続すると、次男は他のきょうだいが所有する土地の上に自宅を持つことになります。現在は地代を払わない「使用貸借」の状態ですが、将来、相続が重なって次の世代、つまりいとこ同士の関係になったときには、土地の返還や利用方法を巡って揉める可能性があります。

土地と建物の所有者が異なる状態をそのまま次の世代へ持ち越すことは、不動産を動かしにくくする大きなリスクになります。

「公正証書遺言」と「資産の組み換え」を軸にした相続対策

そこで、ご家族の心理的な負担やコストも考慮し、大がかりな家族信託ではなく、「公正証書遺言」と「資産の組み換え」を中心とした対策を提案しました。

提案①:「公正証書遺言」+「使用貸借の合意書」を作成

まず、生前に財産の名義を移す家族信託ではなく、Oさんにとって心理的な抵抗の少ない公正証書遺言を作成します。

基本的には、全財産をきょうだい3人に3分の1ずつ相続させる内容とし、公平性を保つことにしました。

一方、次男の自宅が建っている土地については、生前のうちに次男との間で、「将来、建物を取り壊すことになった場合には、土地を更地にして無償で所有者へ返還する」という内容の使用貸借に関する合意書を作成します。

口約束ではなく書面にしておくことで、将来、土地を相続した人との間でトラブルになるリスクを減らす狙いです。

提案②:アパートと土地を売却し、相続しやすい資産へ組み換える

もう1つの提案が、不動産の組み換えです。

10年前には「売らないほうがいい」と言われていた不動産についても、現在の時価や税負担を改めて比較し、売却を検討することにしました。

時価が上昇しているアパートと土地を独自のオークション形式で一括売却し、7,000万円以上での現金化を目指します。

ただし、売却代金をそのまま現金で保有すると、相続時にはその金額がそのまま評価されます。

そこで、売却代金を「都心の区分所有マンション」や「不動産小口化商品」などへ組み換えることを提案しました。

こうした不動産は、条件によっては相続税評価額を時価より低く抑えられる可能性があります。また、資産を小口化しておけば、子ども3人にそれぞれ分けやすくなります。

「節税」と「分けやすさ」の両方を考えた資産構成へ変えていくことが目的です。

「10年間の霧が晴れたよう」 子どもたちに説明できる相続プランが完成

相続税や不動産売却時の税負担について具体的なシミュレーションを確認したOさんは、「10年間の霧が晴れたようです」と安心した表情を見せました。

・遺言執行者には長男を指定

海外に住む長女の負担を減らすため、実務を担いやすい長男を「遺言執行者」に指定し、公正証書遺言の原案を作成しました。

過去の資金援助も踏まえて財産の分け方を整理

次男への過去の資金援助も含めて家族内の状況を整理し、長男・次男夫婦にも説明できる相続プランを組み立てました。

また、万が一、相続時に金銭での調整が必要になった場合にも対応できるよう、組み換え後の資産や現金の配置も検討しました。

不動産の売却に向けた実務を開始

建物や土地の価値を適切に評価してくれる買い手を探すため、当社の専門ネットワークを活用し、売却に向けた実務もスタートしました。

Oさんは、「これなら、近いうちに子どもたち全員を集めて、胸を張って話すことができるわ」と話し、安心して手続きを進めることができました。

相続実務士の視点

今回の事例で重要なのは、10年前には適切だったかもしれない「売らないほうがいい」という助言が、その後の税制や不動産価格の変化によって、現在では必ずしも最適な選択とはいえなくなっていたことです。

税理士は税務、司法書士は登記など、それぞれの専門分野があります。一方、相続対策では、1つの手続きだけを考えるのではなく、家族関係や不動産の時価、税負担、財産の分けやすさまで含めて考える必要があります。

今回のように、まとまった不動産をそのまま残すと分けにくい場合には、現在の時価を見ながら売却し、相続税評価を抑えやすく、かつ分けやすい資産へ組み換えるという方法もあります。

大切なのは、「今ある財産をそのまま残すこと」ではなく、「子どもたちが将来、無理なく受け継げる形にしておくこと」です。

「子どもたちは仲が良いから、相続が起きても話し合って決めてくれるだろう」と考える親御さんは少なくありません。

しかし、相続が発生したあとに一から財産の分け方を話し合うこと自体が、子どもたちにとって大きな負担になることがあります。さらに、過去の援助やそれぞれの配偶者の意見などが加われば、それまで良好だったきょうだい関係が変わることもあります。

だからこそ、親が元気で判断能力があるうちに、「誰に、何を、どのように残すのか」を整理し、遺言として形にしておくことが重要です。

それは財産を残すことだけではなく、子どもたちに余計な争いや負担を残さないための準備でもあるのです。

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。