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VTuberグループ「にじさんじ」の夢月ロアさんが、「元所属ライバーをいじめて引退に追い込んだ」とする内容の配信で名誉を傷つけられたとして、配信者に損害賠償を求めた訴訟は、東京地裁で和解が成立した。和解は5月18日付。

運営会社のANYCOLORと、夢月さんの代理人をつとめる小沢一仁弁護士が8月13日、和解の内容を公表した。

和解によって決着したこの訴訟で、双方は実際にどのような主張を交わし、夢月さんは何を訴えていたのか。

弁護士ドットコムニュースは、東京地裁で訴訟記録を閲覧した。そこには、活動休止から長い年月を経てもなお、誹謗中傷に苦しみ続けたという夢月さん本人の陳述書も残されていた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●約2240万円を求めた訴訟

訴状によると、夢月さんが提訴したのは2024年11月。VTuber「鳴神裁」として活動する人物を相手取り、名誉権や名誉感情、営業権を侵害されたとして、慰謝料や逸失利益など約2240万円の損害賠償を求めた。

問題となったのは、鳴神さんが2020年10月から11月にかけて投稿した3本の動画だ。

「パクリじゃなかった?にじさんじ運営と夢月ロアが金魚坂めいろを辞めさせた真実」と題した動画のほか、「秘技!新人潰し!」という文字が夢月さんのキャラクターに重なるように表示された動画もあった。

訴状では、これらの動画について、夢月さんが新人VTuberの金魚坂めいろさんをいじめて引退に追い込もうとしていると解釈できるような内容だと主張。動画を契機に夢月さんへの非難や中傷が増え、炎上状態に発展したとしている。

一方、鳴神さん側は、夢月さんの「中の人」が誰なのかは公表されておらず、一般視聴者には特定できないとして「同定可能性」を争った。

また、動画には公益目的があり、金魚坂さん本人らから説明や証拠の開示を受けていたため、内容を真実と信じる相当の理由があったなどと主張していた。

●夢月さんの「いじめ行為」はなかったことを確認

和解は今年5月18日、第16回弁論準備手続で成立した。

和解条項の第1条には、こう記されている。

「被告は、原告に対し、他のライバーから提供された情報に基づき、結果的に事実に反する内容の動画配信をし、原告に多大な迷惑をかけたことを謝罪する」

さらに、夢月さんが「いじめ行為」をした事実は存在しないことも確認された。

和解条項ではこのほか、鳴神さんが動画配信にあたって得た情報について、金魚坂さん本人の証言や、金魚坂さんに情報を吹き込んだ一部VTuberとの会話内容、同社の内部情報として虚偽の事実を吹き込んだ一部VTuberとの会話内容、匿名の情報提供者から提供されたものだったことが確認された。

また、金魚坂さんに対する契約解除の理由が、夢月さんとは無関係だったことも確認されている。

●本人が書いた陳述書などの書面

訴訟記録には、夢月さん本人が書いた書面が複数含まれている。訴状には、「訴訟代理人による校正を一切加えていない」と記されている。

夢月さんは経済的な理由で大学進学を断念し、アルバイトで生計を立てていた。20歳になる直前には母親を亡くした。

そんな中、「藁にもすがる気持ちで」オーディションに応募したという。

2019年1月にデビューした夢月さんは、「魔界訛り」と呼ばれる独特の話し方などで支持を集め、2020年6月にはチャンネル登録者数が30万人に達した。

しかし、問題となった動画が投稿されると、SNSやネットの中傷が急増した。

夢月さんは2020年10月21日に活動を休止。その後、復帰できていない。訴状によると、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、社会不安障害と診断されたという。

●「私の時間はとまったままです」

活動休止後の生活は、孤独で苦しいものだったという。2024年11月に書かれた陳述書は、こんな言葉で始まる。

「私は今、先がまったく見えない生活をしています。4年前同じ位置に立っていた同僚たちは私の遥か先に行ってしまいました。私の時間はとまったままです。鳴神にデマを流されてから死にたくなるような酷い苦しい目に合ってきました」

VTuberに対する権利侵害が「中の人」に対する権利侵害にもなると認めた判例は、発信者情報開示の手続きに取り組み始めた当時には存在しなかったという。

相手を特定するまでに長い時間がかかった経緯も、書面には記されている。

仕事がキャンセルとなり、何万件もの誹謗中傷や脅し、殺害予告、人格を否定する言葉を浴び続けてきたとして、こうつづっている。

「無責任に流されたデマは一瞬で私の人生をめちゃくちゃにしてしまいました」

●150ページ以上、配信内容に一つずつ反論

中傷が続く中、夢月さんのもとには「やっていないなら説明すればいい」といった声が多数寄せられたという。

しかし、夢月さんがこの問題についてSNSや動画など多くの人に目につく場で反論することはなかった。反論できる場は、裁判しかなかったという。

裁判では私に何が起きたのか、裁判だけはすべてを話す権利が私にはあります。私に何が起こったのか知って欲しいです」

そこで夢月さんが書いたのが、150ページ以上にわたる書面だった。

鳴神さんの配信内容を書き起こし、その一つひとつについて、事実と異なる点を書き添えていく。それが全編にわたって続く。

「事実を誰かひとりにでも私は知ってもらいたいです」

●「私の人生に自慢できる事なんて何一つなかったけれど」

誤解されたまま年月を過ごす苦しさについては、こう書かれている。

「誤解されるという事がどれだけ苦しい事なのか、デマや冤罪で一生を台無しにされた人にしかわからないです。世界中が敵になります。批判している人、中傷している人の中には自分の事を正義だと思って、私に対して死にたくなるほどの仕打ちをしている人も多いです」

「私の人生に自慢できる事なんて何一つなかったけれど、それでも夢月ロアだけは大切に真面目にファンの方に恥じる所がないほど必死に取り組んできました」

苦しい状況は、その後も続いていたという。2025年7月の陳述書には、こうある。

「2025年になった今も、毎日100件くらい中傷を書き込まれるのです。こんな長い期間、私は悪意にさらされ続けているのです」

●「少しでも自分に起きたことを知ってもらうために和解を選びました」

活動休止から長い年月を経て、ようやく和解の内容が公表された。

鳴神さんも自身のXに投稿。得ていた情報について「主に当人、所属ライバー一名、また内部でしか知り得ない情報を持ち込んだ者」からのものだったとしたうえで、「得た情報には事実と異なる部分があり、それを認め謝罪した」と説明した。

「結果として、皆様に虚偽の情報を伝えてしまったことを謝罪します。申し訳ございませんでした」

夢月さんもまた、小沢弁護士の投稿を引用する形で、自身のXに思いをつづった。

「やっていない事をやっていないという証拠は出せないのでこれだけたくさんの時間を失ってしまいました

今は自分がどうしてこんな目に合ったのか裏で何が行われてたのか全部知って説明ができるようになりました

少しでも自分に起きたことを知ってもらうために和解を選びました」

2020年10月の活動休止から、まもなく6年になる。

裁判中には、長く表舞台から離れたことで、ファンが待ってくれるのか不安に思う気持ちも吐露していた。

和解の公表後、SNS上には夢月さんに「おかえり」と声をかける投稿が相次いでいる。