司会を務めたナインティナイン(左から矢部浩之、岡村隆史)

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2015年スタート

 2015年のスタート以来、フジテレビを代表するネタ特番の1つとして定着してきた「ENGEIグランドスラム」が、大きな曲がり角を迎えている。【ラリー遠田/お笑い評論家】

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 8月1日に放送された「笑いの夏祭り! ENGEIグランドスラム」の個人視聴率が2.8%だったと報じられたのである。同時間帯の民放の中でも最下位となった。初回放送から高視聴率を記録し、その後も長く人気番組として定着していただけに、この数字は衝撃的である。

 今回に関しては、裏番組として放送された男子バレーボールの日本対アメリカ戦が高視聴率を獲得したことなど、不運な条件もあった。しかし、これほどまでの落ち込みを単に「裏番組が強かったから」だけで説明するのは無理がある。

司会を務めたナインティナイン(左から矢部浩之、岡村隆史)

 むしろ問うべきなのは、かつて「ENGEIグランドスラム」が持っていた強みが、なぜ現在では通用しなくなっているのかということだ。

 そもそも、この番組が登場した2015年当時の「豪華ネタ番組」には、今とは違う希少価値があった。「ENGEIグランドスラム」は、「M−1グランプリ」や「キングオブコント」などの賞レースで結果を残した芸人を一堂に集め、勝敗をつけることなく、ただ一流芸人のネタを次々と見せる王道のネタ番組だった。

 豪華な演芸場風のセットを組み、余分な企画を挟まず、漫才、コント、ピン芸を真正面から見せる。それはテレビの中に一夜限りの巨大な演芸場を作るような試みであり、「ここを見れば今の日本のお笑いの最高峰が一通り見られる」という明確なコンセプトがあった。それが多くの視聴者に受け入れられ、大人気番組となった。

 ところが、この11年間でお笑いを取り巻く環境は大きく変わった。現在では「M−1グランプリ」「キングオブコント」「R−1グランプリ」をはじめとして、新たな賞レースが次々に生まれている。

 芸人自身がYouTubeでネタを公開することも一般的になった。かつては「人気芸人のネタがまとめて見られる」こと自体がテレビ特番の価値だったのだが、その希少性が低下した。

「実力者が普通にネタをやる」

 今回の番組で視聴率低下の一因になったと思われるのが、コラボネタの連発である。サンドウィッチマンと狩野英孝、ロングコートダディと男性ブランコなど、複数の芸人のユニットによるコラボネタが6本も放送されていたのだ。

 もちろんコラボネタ自体が悪いわけではない。芸人同士の意外な組み合わせが見られることにはそれなりの価値はある。しかし、即席ユニットのネタということで、どうしてもそれぞれの芸人が普段やっている持ちネタに比べると全体的なクオリティは低くなりがちだ。そういうネタが少しぐらいあるのは構わないのだが、2時間10分の番組中に6本もあるのは多すぎた。

 もともとの「ENGEIグランドスラム」は、余計な仕掛けを必要とせず、「実力者が普通にネタをやる」というのが売りだった。そこにコラボネタを大量に投入するというのは、本来のコンセプトにそぐわない試みだったのではないか。

 今回は、「ツギクル芸人グランプリ2026」「爆笑レッドカーペット」「ENGEIグランドスラム」を立て続けに7時間以上にわたって放送する「ENGEI 8 笑いの夏祭り」という大型企画として編成されていた。

 フジテレビとしては「一日中お笑いを楽しめる祭典」として打ち出していたのだが、「お祭り」感を優先するのか、上質なネタを見せることを優先するのか、どっちつかずになっているように見えた。特別感を出すために規模を拡大したことで、一番の目玉であるはずの「ENGEIグランドスラム」の輪郭がぼやけてしまった。

 2015年の「ENGEIグランドスラム」には「テレビが選んだ日本最高峰の芸人たちを一堂に集めた巨大演芸場」というわかりやすい看板があった。しかし現在では、賞レースもネタ番組も配信も増えていて、一流芸人のネタを見ること自体は難しくない。だからこそ、おなじみの顔ぶれを集めて「日本一豪華」とうたうだけでは、視聴者にとって番組を見る理由にはなりにくい。

「ENGEIグランドスラム」を今の時代に復活させるために必要なのは、「なぜ今この番組をリアルタイムで見る必要があるのか」という理由を再設計することなのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部