20番を背負い、相手と激しくぶつかり合うリーチマイケル(左から3人目)【写真:アフロ】

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32-35で敗れたオーストラリア代表戦から日本代表強化の「いま」を検証

 ラグビー日本代表は8日に行われた「リポビタンDチャレンジカップ2026」でオーストラリア代表に32-35で敗れた。わずか3点差の惜敗ではあったが、テストマッチの連敗を3と伸ばす苦杯。対戦当時の世界ランキングは日本の10位に対して相手は8位と、上位国にも渡り合いながら勝ち切れない戦いが続く。昨秋の対戦は15-19。10か月で点差を1ポイントだけ詰めたスコアになったが、今回の「3点差」が意味するものは何か。37歳のベテランFLリーチマイケル(東芝ブレイブルーパス東京)の言葉から、日本代表強化の「いま」を検証する。

 ◇ ◇ ◇

 真夏の夜の夢は3点届かなかった。初めて西の聖地・花園にオーストラリア代表“ワラビーズ”を迎えての熱闘80分。闘将リーチは、試合後も汗が滲む顏を前へ向けた。

「アンダープレッシャーの中で、成功率をどれだけ上げられるかが次の課題」

 成功率と語ったが、意味するのは達成力でありプレーの遂行力。過去W杯を2度制した伝統国が、最大得点差9点という接戦の中で掛けてきた重圧の下で、どこまでミスなく、プレー精度を高められるかが勝負の分かれ目であり、連戦となる敵地での第2テスト(8月14日)への宿題になった。この惜敗の80分では、日本は基本プレー、スキルでのミスを重ねて、攻撃チャンス、スコアを伸ばすことが出来なかった。

 開始6分には、ミッドフィールドの密集から抜け出した切り込み隊長のFLベン・ガンター(埼玉パナソニックワイルドナイツ)がラックを形成したが、ノックオンでチャンスを潰している。11分にはLOジャック・コーネルセン(同)が敵陣22mラインを突破したが、孤立してノットリリースザボールの反則。前半終了直前も、同様にワーナー・ディアンズ主将(BL東京)がゴール前へ攻め込んだが、ここもサポートが間に合わず相手のジャッカルでチャンスを潰している。

 会見でエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)も「(敗因は)本当にファンダメンタルなスキルに尽きると思う」と指摘する。もちろん、ここには怪我から戻り今季初テストマッチだった矢崎由高(早稲田大4年)の簡単な捕球ミスなどのエラーも含まれるが、チャンスの起点となりそうな好ランから孤立してしまい攻撃権を失ったプレーの多さが目につく80分でもあった。ここは、選手個々の判断力や反応スピード、そしてチームが掲げるエフォートの優劣が影響するものだ。

 エディーも会見ではワーナーが抜け出したプレーに関して「周りの選手が緊急性を持って、そこについていかないといけない。例えば9番だったり近場の選手たちがです。そこに素早く寄らないといけないが、鋭さに欠けていたところがあったと思う。今回ラック周りでサイドを突いて、そこまで抜けるというのは想定していなかったことも影響していますが、そこは日々練習を繰り返すしかありません」と指摘。早急な対策は容易ではないが、ランキング上位チームに勝つには、克服していかなければならない課題なのは間違いない。

大塚、上ノ坊、植田…止まらない若手の躍進

 そんな課題を露呈しながらも3点差の接戦に持ち込めた理由の一つは、ワラビーズも驚く程のハンドリングミスなどでスコアチャンスを逸していたことだ。ここは、真冬の母国から来て、キックオフ時点でも30度近い暑さと湿気の影響は間違いなくあったはずだが、このスキルの不安定さが今週のホームゲームでどこまで修正できるかも、第2戦のキーポイントになる。

 今回の真夏の決戦は、ささやかだが“異変”が起きていた。開始12分。日本代表が、この試合初めて敵陣22mライン内に攻め込んだチャンスだった。ラックからボールを受けたSO伊藤龍之介(明治大4年)に迷いはなかった。

「この試合、すごく自分で仕掛けるということをテーマにしていたので、トライまでいけてすごく嬉しいです」

 相手のマークに立つのはNo8ハリー・ウィルソン。ワラビーズを率いるスキッパーと大学4年生の勝負だったが、そこはミスマッチとなるFWプレーヤー。鋭い切れ味のステップでウィルソンの内側を突いて、相手のウィークショルダー(タックルの強度が弱い側の肩とサイド)を抜き去り、左右からカバーしてきた防御も突破してインゴールへ飛び込んだ。

 代表4キャップ目の若武者にとっては、代表初トライを見事な個人技で決めたビッグプレーだが、それ以上に世界トップ10クラスのティア1チーム相手のテストマッチで、日本が先制得点を奪ったのは、今季はアイルランド戦以来2度目。昨季もティア1“ボーダークラス”のフィジー戦1試合のみだった。「超速ラグビー」を標榜するアタッキングチームとしては歯がゆいゲームが続く中で、この21歳が思い切りの良さで風穴を開けた。37歳のリーチが、こう振り返る。

「龍之介もまだ大学4年生だし、(大塚)壮二郎(関西学院大)も4年生。上ノ坊(駿介=コベルコ神戸スティーラーズ)だって去年4年生。よくやったと思います」

 リーチが指摘するように、若手の躍進は敗戦の中でも止まらない。後半23分にピッチに立ったテスト4戦目の大塚は、敵陣ゴール前の密集戦から縦に前進して、残り2分で3点差に迫るワーナー主将のトライに繋げた。178cm、110kgのサイズは、今の時代では決して大型PRではないが、その頑強な肉体はフロントロー勢の中でも目を見張るものがある。トライこそなかったが、2戦目の上ノ坊も相手を翻弄するようなトリッキーなパスでBKラインを加速させると、23歳の植田和磨(神戸S)はテスト6戦目で待望の初トライ。ラックからの攻撃で、深い位置に立った伊藤の背後に隠れるような相手防御から見えにくいポジショニングでパスを受けてのフィニッシュだった。

 そんな若手台頭の中で、リーチほどの大ベテランも自己変容に迫られている。

世界一の20番になりたい」

 そんな発言をしたのは、7月のフランス戦の後だった。2008年に東海大2年生で代表入りしてから今季で19シーズン。常に桜のジャージーの先頭に立ち、チームの中心選手として君臨し続けてきた男が、2桁の背番号を目指す――。そう発言した真意はさておき、今季開幕からワラビーズ戦まで4試合連続で、発言通り「20番」でプレーを続ける。これが現実だ。

1分間換算のタックル数値は両チーム1位の0.43回

 この“リザーブ宣言”と同時に、本人は「いまがベストの状態」と断言する。話を聞きながら個人的には「自分にそう言い聞かせている」と僭越ながら感じたが、その途中出場のパフォーマンスには、頷けるものもある。

 オーストラリア戦は後半20分からの出場。つまりプレー時間は20分。その時間でのタックル回数9は、日本選手の中では5位タイ。成功したタックルに限ればチーム4位タイだ。これだけでも貢献度は十分だが、プレー時間での1分換算によるタックル数値は、両チームトップの0.43回をマークしている。ここまでの今季3テストでも、リーチは両軍合わせて1位(イタリア戦)、4位(アイルランド戦)、1位(フランス戦)と驚くべき貢献を見せ続ける。勿論、途中出場の選手は、疲労する選手の中で高いワークレートでチームを後押しする役割があるのだが、リーチほど高いアベレージで相手をサックし続ける選手は多くはない。

 リーチをベンチに押しやった同ポジションの仲間たちを見ると、常に最前線に立ってタックル、ボールキャリーと体を張り続ける役割はFLガンター、高いワークレートで常にボールの近くを走り続ける仕事はLO/NO8コーネルセンが務める。この2人の存在があるからこそ、リーチが2桁背番号でもやりがいを感じるのは無理な話ではない。

 ワラビーズ戦の理想のシナリオとしては、慣れない猛暑と高湿度の中での試合で、相手を消耗させて後半ノックアウトするものだったはずだが、当事者のリーチはこんな思いで勝ち切れなかった終盤を振り返っている。

「本当だったら、もっとタックルいったりボールキャリーだったり(出来たはず)。出来なかったのは、準備のところを見直さないといけないかなと思います」

 先にも紹介したタックルなどで十分にインパクトプレーヤーとしての役割を果たした印象だったが、本人はその数字に甘んじていない。この姿勢は個人的な満足度や目指すもの以上に、今季チームが掲げる「ゴールドエフォート=最上級の労力」を、先発、控え関係なく、37歳の重鎮自らが体を張り続けることで、若手にもエフォートを求め、チームを引っ張ろうという思いに裏打ちされていると感じる。1つ1つの試合でのリーチの数値を、1人でも多くのメンバーが乗り越えていくことで、チーム全体のエフォートを底上げする。チームファーストの思いに溢れる元不動のスキッパーは、その肩書きを譲っても同じマインドと責任感でチームに向き合っている。

 そんなリーチが、冒頭の「アンダープレッシャー」というコメントとも絡んで語気を強めた発言があった。

「今夜は眠れないですね」

「俺のせいで試合が…」リーチが悔いを述べた残り15秒のワンプレー

 この発言は、ワラビーズ戦終了目前の出来事が理由だった。先に触れた後半38分のワーナーのトライ(ゴール)で3点差に追い上げ、逆転トライを信じて日本が自陣から連続攻撃を仕掛けたが、左展開でパスを受けたリーチが痛恨のノックオン。スコアボードの試合時間は79分45秒を刻んでいた。

「80分間の戦い方、最初にジャパンが取ったトライも良かった。いままで先制トライされていたし、今回自分たちがいいディフェンスしたり、いいトライ獲ったり、前半いい流れを作れて、後半の後半、最後の最後あと3点のところで…」

 こう悔し気に語ったコメントに続いて、冒頭の「アンダープレッシャー」という言葉が続いた。

「ノックオンしてしまったことは事実。俺のせいで試合が終わってしまったんですけれど、でもそこで本来試合を継続してトライをする能力をこれからつけないとだめだと思います」

 リーチがこう悔やむプレーは、客観的に見ればリーチのミスとは言い切れない。左展開のアタックラインで、余りにも相手防御ラインが近づいた位置とタイミングでリーチにパスが放られたため、ステップやパワー勝負で抜きにかかることも、ラックにすることも出来ず、相手との交錯の中でクリーンキャッチが出来なかったのが真相だろう。だが、責任感の強いリーチの“解釈”だと、自分自身の致命的なミスとなるのだ。

 今年10月には38歳になるリーチには、試合後のミックスゾーンでは「この暑さが年齢的には影響したか」という質問も飛んだが、ベテランは毅然とこう返答している。

「こういう悔しい結果のパフォーマンスをしてしまうと、やはり年齢をすぐ言い訳にしちゃう。自分の中で。でも、そこ考えちゃうといくらでも言い訳できるので、そこは言い訳しないで、もっと練習しなきゃと思うように切り替えて頑張ります。もう一回、ちょっと準備を見直して、改善するところを改善して、もっといいパフォ―マンスが出来るようにしたいです」

 メディアとのやり取りでは、昨秋の4点差からわずかながら3点と詰めたスコアへの質問もあった。リーチも「(試合結果は)悔しいです。昨シーズン4点差、今回3点差。でも、チームの状態はポジティブな方へ向かっているかなと思います。後は勝ち切るだけです」と前向きに語っている。結果的に、10日に更新された世界ランキングで日本は10位から12位へ後退。わずか3点が痛恨のステップダウンに直結したが、スコアを論じる上では、昨秋と今年の8月8日の両チームの構成を考えるべきだろう。

 去年と今年の対戦での先発メンバー15人の平均キャップ数を見てみると、下記のようになる。

     JPN/AUS
2025年 20.9/21.9
2026年 18.4/28.4

 昨秋の対戦では平均キャップ数では両チームに大きな差がない中で4点差の敗戦だったことが判る。だが今季は18.4キャップだった日本に対してワラビーズは28.4と経験値を上げた布陣を組んできた。ラグビーの試合はキャップ数で争うものではないのは当然のことだが、選手の経験値の“物差し”としては参考になる数字でもある。

新顔が増えるも「代表のレベルは落ちていない」

 この数字から読み取れるのは、昨季が経験値で似た者同士の試合で、試合当時のランキングで5位下の日本が4点差で敗れたのに対して、今季は1人当たりテストマッチ10試合経験が高い相手に3点差の試合を演じたことだ。この試合をスコアで評価するのなら「4点差から3点差に成長」ではなく「1人平均10キャップ経験のある相手に3点差まで接近」とするべきだろう。

 リーチにも、このキャップ数=経験値を踏まえた上での4点差→3点差という前進を聞くと、こんな指摘をしている。

「まだまだ僕らは若いチーム。成長したところを見ると、若手メンバーがどんどんトップレベルのテストマッチを経験して、それでも3点差にしている。新しい選手が入ってきたけれど、代表のレベルは落ちていないし、すぐフィット出来るのは練習が正しいということです」

 エディーは従来「W杯で優勝を争うレベルのチームは600〜800キャップが必要」と経験値の重要さを唱えてきた。この主張からすると、W杯開幕まで14か月の時点で、先発15人の総キャップ276はすこし心許ない数字ではあるが、エディーは「大学生3人を起用してここまで戦えたのは評価したい」ともコメントしている。W杯開幕時点でキャップ数を理想の領域まで高めるのは現実的ではないが、積極的に若手にチャンスを与える中で、どこまで経験値を伸ばしていくかという勝負になる。

 3点差惜敗の翌日に敵地へ移動した日本代表だが、週末に待つ対オーストラリア第2ラウンドこそ注目の試合になる。ワーナー主将は試合直後のフラッシュインタビューで「この試合より涼しいオーストラリアで勝てるよう頑張りたい」と語ったが、日本以上にワラビーズにとってホームタウンアドバンテージがあるのは明らかだ。加えてホストチームのメンバリングも興味深い。

 花園での第1ラウンドは、2日前のメンバー発表から気になる編成だと感じていた。先に触れたように先発15人のキャップ数(トータル426)も悪くない数字だが、控えの顔ぶれが充実していた。ワラビーズでは主力級のHOビリー・ポラード(21キャップ)、PRタニエラ・トゥポウ(70)、SHテイト・マクダーモット(53)らは、どのトップネイションズの強豪とも渡り合える実力を持ったメンバーだ。そんな主力クラスを敢えてベンチに置いた理由を、この試合が初采配だったレス・キスHCはこう説明してくれた。

「主だった理由はコンディションのところです。日本は脅威になる相手なので、それを考えて経験のある選手をベンチからスタートさせようと考えたのです。そこが奏功したこともあるし、いろいろなコンビネーションを試したかったこともあって、こういう組み合わせにしたんです」

 先発勢が消耗する中で、際どいスコア差でリードを守り切るには彼らのような実績も経験値も持つベンチメンバーを投入できたのは、最上のシナリオだった。指揮官は日本代表への脅威に触れたが、当然のことながら8月の大阪の猛暑を頭に入れた構成だったのは間違いない。この“日本対策”を、ホストゲームでどう変えて来るのか。もし第1戦のベンチ組がスターターになれば、日本はさらに破壊力のある布陣とキックオフから対峙することになる。

 いずれにせよ、酷暑の日本で苦しみながら3点差の勝利を遂げた相手と、暑さと湿気から解放された敵地での真剣勝負になる。胸を借りるアウエー側にとっては、気候も含めて8日のゲーム以上に戦闘力を高めた「8位」と、第1ラウンドのように渡り合い、勝利を奪うことが出来れば、14か月後への最良のシナリオになる。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。