“体験格差”で負けたくない――学童に預けっぱなしへの罪悪感から共働き夫婦が「夏休みの体験プログラム」に投じた15万円【FPが助言】
「子ども時代の体験の差が、将来の非認知能力、ひいては年収の差につながる」――。こうした情報に触れ、追い詰められているのが共働きの親たちだ。「夏休みの間、学童と家を往復するだけの毎日では、周りの子どもたちに後れをとってしまうのではないか」。そんな焦りと罪悪感から、我が子に「特別な体験」をさせようと動き出す親は多い。しかし、そこで待ち受けているのが各種体験プログラムの価格設定だ。「体験格差」という言葉のプレッシャーと、重くのしかかる教育費の現実。保護者たちはこの焦りとどう向き合えばよいのだろうか? 教育費問題に詳しいファイナンシャルプランナーの八木陽子さんに話を聞いた。
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【CASE】体験格差への焦りから大金を…
「小2の息子を夏休み中、毎日学童に預けっぱなしにしていていいものだろうか」

小学校の夏休みを前に、都内在住の会社員・杏奈さん(42歳、仮名)は悩んでいた。昨年は区立の学童クラブに毎日通わせて乗り切った。
「共働きの親としては、毎日、子どもを預かってくれる学童には感謝しかありません。ただ、やはり学童で体験できることには限界があって。夏休み中は“ドッジボール大会”“スイカ割り大会”“スライム作り”“夏祭り”などいろいろ企画を実施してくれてはいましたが、大自然とのふれあいとか、英語体験とか、本格的な理科実験とか…、さすがにそういうのは無理なんですよね」
親が積極的に動かなくては! そう思い立った杏奈さんは、6月頃から民間の企業や知育スクールが主催する「夏休み特別体験プログラム」を探し始めた。SNSの広告で流れてくる「STEAM教育」「サマーキャンプ」「ロボットプログラミング講座」などの華やかな写真に惹かれ、いくつか申し込みを進めたものの、最終的な請求額を見て言葉を失った。
「2泊3日のサマーキャンプで約6万円、ロボット教室の短期集中講座で約3万円、“英語で学ぶ”イマージョンプログラムで約4万円……。気づけば夏休みの体験費用だけで15万円を超えていました。子どもの将来のためとはいえ、夏休みのたびにここまでの課金が続くのかと思うと、不安になりますね」
【FPの助言】「課金の額」と「体験の質」は比例しない
教育費に関する家計相談を数多く手がけるファイナンシャルプランナーの八木陽子さんは、こうした焦りからくる課金に警鐘を鳴らす。
「家計相談にいらっしゃる共働きの保護者の方からは『夏休みの体験プログラムに課金しすぎて、終わってみたらすさまじい出費になっていた』という悲鳴をよく聞きます。非認知能力を育むうえで体験が大切なのは事実ですが、『お金をかけた分だけ比例して子どもが立派に育つ』わけではありません。例えば住宅であれば、お金をかければいい家が建つ。だけど費用と質が正比例しないのが教育費の難しさであり、面白さでもあります」
八木さんによると、民間企業が提供する数万円クラスの豪華なパッケージに頼らなくても、工夫次第で子どもの知的好奇心や自立心を刺激する「質の高い体験」はいくらでも作ることができるという。八木さんが紹介する、教育費を圧迫せずに夏休みの体験を充実させる具体的アプローチは以下の3点だ。
(1)公的機関や自治体の無料・格安イベントを使い倒す
博物館、図書館、美術館などでは、無料〜数百円の上質なワークショップや見学会が数多く開催されており、科学館の実験教室、工作イベント、地域の天文台での観望会などさまざまなものがある。アウトドア・スポーツ系の子ども向けに、「青少年育成地区委員会」といった名称のボランティア団体と連携してキャンプやスポーツ大会を実施している自治体も多い。施設や自治体の広報誌やウェブサイトをチェックする価値は大きい。「子ども自身が興味を持つ内容のものをリサーチするといいですね」
(2)「日常のお手伝い」を体験イベント化する
わざわざ遠出をしなくても、家庭内での「料理」「掃除」「近所の公園での植物・昆虫観察」「ベランダ栽培」なども立派な体験学習になる。例えば「一人でオムレツを上手に作る」といった目標を設定し、買い物から調理、片付けまで試行錯誤しながら取り組ませることは、生きる力や自己効力感を育むうえで最も効果的な実践だ。
(3)オンライン探究学習や「ぼーっとする時間」の活用
最近は自宅から低価格あるいは無料で参加できるオンライン探究講座やWebツールも充実している。「そもそもスケジュールを習い事やイベントで埋め尽くす必要はありません。『金魚の水槽を半日じっと観察する』といったような、子ども自身が興味を持った物事に心ゆくまで没頭する無駄な時間こそが、深い思考力や探究心の芽を育てるのではないでしょうか」
長い教育費の道のりを見据えた視点を
「子どもの『体験格差』実態調査」※によると、世帯年収300万円未満の家庭の子どもの約3人に1人が、1年間、スポーツや文化芸術、野外アクティビティなどの学校外での体験活動を「ゼロ」と回答。一方で、世帯年収600万円以上の家庭では体験活動への支出額が明確に高い傾向も報告されており、親の収入格差が子どもの体験の多寡に直結している現実がある。
こうしたデータを目にして「きちんと体験を積ませることは親の責任。わが子に後れを取らせるわけにはいかない」と、夏休みの体験プログラムに一時的な大金を投じる……。その結果、将来の高校・大学進学に向けた資金が枯渇しては本末転倒である。
「豪華なサマーキャンプや高額なプログラムと比較して『自分は親として十分な体験をさせてあげられていない』と引け目を感じる必要はまったくありません。教育は長い道のりです。過度な課金合戦に巻き込まれず、身近な地域のリソースや日常の小さな発見を活かしながら、親子で無理のない夏休みを過ごす視点を持ちましょう」
※2023年、チャンス・フォー・チルドレン調べ
※プライバシー保護のため、記事中の事例は、具体的な状況の一部を変更しています。
八木陽子(やぎ・ようこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)。キャリアカウンセラー。株式会社イー・カンパニー代表。2001年に独立。全国の小・中・高等学校での金銭教育や、教育費に悩む保護者へのコンサルティングを数多く手がける。著書に『10歳から知っておきたいお金の心得〜大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』など多数。
取材・文/鷺島鈴香
デイリー新潮編集部
