「つるおか献便ルーム」を案内する石沢成美ルーム長=2026年7月2日、山形県鶴岡市

 トイレで普段、何げなく水に流す「便」。山形県鶴岡市の「つるおか献便ルーム」は健康な人から便を集め、腸内細菌を使った難病治療薬の開発につなげる日本唯一の専用施設だ。2025年4月の開設から1800回超の便提供があり、石沢成美ルーム長(30)は「新しい社会貢献の文化になってほしい」と話す。(共同通信=井上昂星)

 運営する医薬品開発会社「メタジェンセラピューティクス」は鶴岡市のベンチャー企業。「献便ルーム」の名称は献血にちなんだ。便の提供で誰かの健康を支えるとの思いを込めたという。

 健康な人の便には人工的に再現しにくい腸内細菌が多く含まれる。これらは患者の腸内環境を整える医薬品の開発に欠かせない。ルームでは腸内細菌の多様さを保ったまま取り出し、川崎市にある同社の施設に送る。

 同社はこれを基に指定難病の「潰瘍性大腸炎」向けの薬を開発しており、実用化を前に2026年5月、経口薬の治験も日米で始まった。胃と食道のがんやパーキンソン病の治療の研究を進めている。

 ルームには専用便器を置き、献便ドナーが出勤前の朝に提供していくことが多い。ただドナーになれるのは応募者の約1割。感染症の有無や健康状態など厳しい基準をクリアした人だけだ。3カ月ごとに更新検査を受ける必要があり、体調次第では資格を失う。

 それでも2026年7月1日時点で鶴岡市や周辺を中心に延べ70人以上が認定されている。石沢さんは「『うんちください』とお願いして、これだけ協力をもらえるとは思っていなかった。地域の皆さんのおかげ」と感謝する。

 ドナーで鶴岡市の会社員五十嵐真理子さん(42)は「自分の健康が誰かの役に立つ。そんな経験は初めて」と話す。献便を始めてからは食生活に気を配るようになり「以前より疲れにくくなった」と笑顔を見せた。

 メタジェンセラピューティクス社は2032年の医薬品実用化を目指す。実現には継続的に便を提供してもらうことが欠かせず、今後もドナー確保が課題となる。石沢さんは「若い世代にも協力の輪を広げたい」と話している。

「つるおか献便ルーム」の個室=2026年7月2日、山形県鶴岡市

献便ドナーを募集するポスター