「キオクシアの投資の桁は一つ多くてもいい」時価総額が一時トヨタ超えの半導体大手に、元東芝CFOが苦言
6月12日、半導体大手キオクシアホールディングスの株価は8万円を突破し、時価総額は44兆円を超えてトヨタ自動車を抜き、日本一に躍り出た。2024年の上場時に1440円だった株価は最高値で11万2700円まで上昇し、78倍にもなった。
この熱狂の一方で、現経営陣の姿勢に「耳を疑った」と苦言を呈する人物がいる。東芝の元CFO(最高財務責任者)である久保誠氏だ。久保氏は、ジャーナリストの大西康之氏と月刊「文藝春秋」編集部の取材に応じた。

久保誠氏 ©共同通信社
そもそも、なぜキオクシア株はここまで高騰したのか。まず大きいのが、生成AI向けデータセンターの建設ラッシュだ。キオクシアの主力製品で、データを溜め込む「倉庫」の役割を果たすSSD(NANDフラッシュメモリを使った固体ドライブ)の需要が急伸したのである。大西氏が解説する。
「ライバルのSKハイニックスもサムスン電子もやろうと思えばSSDを増産できたが、彼らはより付加価値の高いHBM(広帯域メモリ)に投資を集中した。その結果、SSDの発注がキオクシアに集中する。キオクシアの経営陣が狙ってSSD市場を取ったのではなく、SKハイニックス、サムスン電子の都合で『たまたまそうなった』」
だが、この「棚ぼた的独占」は長くは続かないと大西氏は指摘する。
「7月2日、SKハイニックスが『80兆ウォン(約8兆8000億円)を投資して清州にNAND新工場を建設し29年頃にNANDを増産する』と発表した。NANDはGPUやHBMほど構造が複雑ではなく、生産規模を増やして歩留まりを上げた者が勝つ」
実際、キオクシア株は7月中旬に急落し、時価総額は一時30兆円を割り込んだ。その一方で、6月25日に開かれた定時株主総会で、太田(裕雄)社長はこう大見得を切っていた。
「我々はNANDの発明者でありながら1番ではない。何年かかるかわからないが、1番のポジションを取り返す」
「今のままではサムスン、SKにも置いてかれる」
この「1番」への道筋に異を唱えるのが、冒頭の久保氏だ。
「太田社長が『4000億円〜5000億円の投資を毎年コンスタントに続けていく』と話すのを聞いて、耳を疑った。株式市場から時価総額35兆円の評価を受けているのだから、投資の桁は一つ多くてもいい。エヌビディアやTSMCに勝てとは言わないが、今の調子ではサムスン、SKにも置いてかれる」
久保氏は、キオクシアが東芝から切り離された経緯についても明かした。発端は2015年に発覚した東芝の粉飾決算だ。債務超過に陥った当時の経営陣は2017年、6000億円の第三者割当増資の幹事を米ゴールドマン・サックス証券に任せた。久保氏はこう語る。
「絶対に頼ってはいけない証券会社に任せてしまった」
なぜ久保氏は今になって悔やむのか――。このほか、エヌビディアのCEOが東京・神田で開いた飲み会の様子や、NANDの生みの親・舛岡富士雄氏が東芝社内で冷遇された背景を綴った「キオクシア敗戦 東芝元CFOの告白」は、「文藝春秋」2026年9月号(8月10日発売)及び、電子版の「文藝春秋PLUS」(8月9日先行公開)に掲載されている。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2026年9月号)
