「定年ない」はずが突然65歳で解雇、73歳の同僚は勤務継続…私立校講師が学校を提訴
「65歳で急に定年と言われて、本当に驚いた」--。私立桜丘中学校・高等学校(東京都北区)で20年にわたり教壇に立ってきた非常勤講師の男性・Aさんは、都内で開かれた会見で語った。
定年など考えたこともなく、ずっと働き続けるつもりだった。それが突然の退職扱いとなり、いまは教員以外の仕事で食いつないでいるという。
Aさんを含む教員2人は7月30日、勤務先の学校法人桜丘を相手取り、教員としての地位確認と賃金の支払いを求めて東京地裁に提訴した。有期契約を重ねて無期労働契約に転換したのに、就業規則にも定めのない「65歳定年」を根拠に職を失った、というのが訴えの核心である。
この日会見には原告の2人と「桜丘中学校・高等学校兼務教員組合」のC執行委員長、原告側代理人の明石順平弁護士、栄田国良弁護士が出席。
原告の2人は、有期契約の更新を重ねて無期労働契約に転じた「兼務教員」である。兼務教員とは、文部科学省への届け出上の区分で、一般に非常勤講師と呼ばれる立場を指す。
Aさんは2005年から社会科の、そしてもう一人の原告Bさんは2008年から理科の教員として、それぞれ同校で長く勤めてきた。
原告らは2022年、有期契約が通算5年を超えると無期契約への転換を申し込める労働契約法18条の「無期転換権」を行使し、法人に対し申し込んだ。このとき、法人が発行した無期転換申込受理通知書には、定年についての記載は一切なかったという。
2人は2023年に無期労働契約へ転換。「ようやく雇用の安定が得られたと安堵した」と振り返った。
だが、2024年3月に風向きが変わる。法人側は労働条件通知書兼雇用契約書に突如「65歳定年」を明記し、原告らに通知。
原告は、「もともと定年という概念がわれわれにはなかった。単年度契約なので意味がないと考えていた」と、いずれもこの契約書に署名押印しなかった。
73歳の教員が働いているのに、65歳を理由に解雇原告側は、この解雇には3つの重大な問題があると主張する。
第一に、無期転換した兼務教員に適用される就業規則が存在しないこと。第二に、校内には65歳を超えて働く教員が現にいるのに、組合員であるAさんとBさんの2人だけが、65歳を理由に職を失ったこと。そして第三に、2人が担当していた教科の教員を新たに募集していることから、組合活動への報復ではないかと疑われることだ。
「人員削減の必要はなく、雇用契約を終了させる業務上の必要性も認められない」と原告側は指摘。とりわけ矛盾として挙げるのが、73歳の教員の存在である。この教員について、学校側は「人がいなかったから急遽採用した」と説明したという。
原告側の主張の柱は、就業規則の構造にある。非常勤講師には就業規則の「非常勤規定」が適用されるが、そこに定年の定めはない。65歳定年を記した規定は専任教員向けで、非常勤講師には及ばない--というのが原告側の理解だ。
一方、学校側は団体交渉で、周知していなかった就業規則にも「65歳」と記載があると説明しているという。もっとも学校法人桜丘は、労働条件の明示義務や周知義務を怠ったとして、王子労働基準監督署から是正勧告を受けている。
都労委でも係争中原告側は、65歳での定年扱いが不当労働行為に当たるとして、2025年2月に都労委へ救済を申し立てた。同年8月には、専任教員との賃金格差の是正を求める別訴(第1次訴訟)も東京地裁に起こしており、いずれも係争中だ。
そうした2つの手続きが進む最中の2026年3月31日、被告は原告らを65歳であることを理由に、定年退職扱いとした。
今回あらためて提訴に踏み切った理由について、明石弁護士は「都労委で争っているのは不当労働行為に当たるかどうか。学校に復職して元通り働くには、地位確認の訴訟が別に必要になる」と説明。
争点は、65歳定年扱いが有効かどうか、そして専任教員との待遇差が不合理といえるかどうかの2点になるという。
「教育の質の不安定さに直結」明石弁護士は、無期転換権を行使した労働者を法的根拠なく定年退職扱いにした例は「私が知る限り初ではないか」とみている。
会見でC執行委員長は、争いを2人だけの問題にとどめない考えを示した。
「教員の身分保障は教育の質に直結する大きな問題です。そうであるにもかかわらず、日々授業を行う教員に対して、雇用形態を理由とする大きな待遇格差が存在しています。
教員の身分の不安定さは、そのまま子どもたちが受ける教育の質の不安定さに直結します。
この裁判でわれわれは労働契約法に基づいて無期転換したにもかかわらず、就業規則すら整備されないまま職を失う事態が許されるのかを問うています。
この問題は学校法人桜丘だけでなく、非正規教員に依存する日本の教育現場全体の問題です。非正規教員をめぐる制度のあり方や、教育行政や労働法の研究者にも私たちはこの問題を広く問いかけたいと考えています」
なお学校法人桜丘は弁護士JPニュース編集部の取材に対し以下のようにコメントした。
「現時点で、当法人に訴状が送達されておらず内容について確認できておりません。訴状送達後、記載内容を精査の上、関係法令を遵守し、適切に対応いたします。
当法人といたしましては、裁判所において公正な判断がなされるものと考えております。 何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます」

