アスベスト訴訟で判決、原告ごとに“明暗”分かれる…同じ“被害者”でなぜ差が? 遺族は等しい救済訴え
建設現場でのアスベスト(石綿)ばく露によって健康被害を受けたとして、全国の元建設作業員と遺族らが国と建材メーカーを訴えている「建設アスベスト訴訟」。その「東京1陣訴訟」の差し戻し審が7月29日、東京高裁で開かれた。
高裁は、国と建材メーカーに対し、改修・解体作業者の原告32人のうち、新築工事に携わっていた8人に、総額約2100万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
判決後の会見で、家族をアスベストによる健康被害で亡くした原告は「被害者はみんな一緒だと思う」として、改修・解体作業者であってもアスベストばく露による被害は等しく救済されるべきだと改めて訴えた。原告側は上告する方針を示している。(ライター・榎園哲哉)
「建設アスベスト訴訟」の経緯天然の鉱物繊維である「アスベスト」は、ビル・住宅等の施工現場で防音材や断熱材として広く用いられてきた。髪の毛の5000分の1と言われるほど繊維が微細で、研磨や切断により飛散した繊維を吸い込むと、肺がんや中皮腫などを引き起こすことが長年指摘されてきた。
国は、1975年からアスベストの使用を規制し、2012年には完全に禁止した。しかし完全に禁止されるまでの間にアスベストのばく露を受けた建設作業者らが、健康被害を訴え、2005年度からの労災認定件数は累計で1万1000件を超えている。
国の規制の遅れや、建材メーカーの警告義務違反等によって健康被害を受けたとして、屋内作業者(鉄筋工、溶接工、大工、左官等)、屋外作業者(板金工等)、改修・解体作業者(解体工等)、作業者の遺族らが原告となって、全国14地域でおよそ40の「建設アスベスト訴訟」が提起されている。
今回、高裁判決が言い渡された「東京1陣訴訟」は、こうした一連の訴訟の皮切りとなった。
改修・解体作業者32人、和解から分離される同訴訟は2008年5月に東京地裁に提訴され、2012年12月の地裁判決、2018年3月の東京高裁(控訴審)判決を経て2021年5月に、大阪・京都・神奈川1陣の他の3訴訟とともに最高裁(上告審)で判決が出された。
このうち、原告が建材メーカーに対し全面敗訴していた東京1陣訴訟については、最高裁がその見直しを求め、東京高裁に差し戻した。
差し戻しを受けた東京高裁は、裁判の長期化による原告の高齢化も挙げ、「和解での解決が望ましい」と和解案を提示。2025年8月、原告と建材メーカーとの間で集団的和解が成立した。
しかし、神奈川2陣訴訟の最高裁判決(2022年6月)が、「解体工」に対する建材メーカーの責任を否定していたことから、原告のうち改修・解体に従事していた32人は和解に至らず、結論は今回の判決に委ねられていた。
新築工事の現場のみ「警告表示義務」認める今回の差し戻し審の判決は、「建設作業従事者の生命、身体、健康といった重要な法益への侵害を防止するために、その製造・販売する石綿含有建材に内在する危険性の内容及び回避手段について警告すべき義務(警告表示義務)を負う」と、建材メーカーの責任に言及。しかし、警告表示義務を負う「対象者」を限定した。
まず、新築等工事に従事する者については、建材メーカーに危険性や回避手段を知らせる警告表示の義務があったと認めた。
その理由は、「石綿含有建材が使用された際、更に同建材に加工等の後続作業が行われることは、当然に想定される」というものである。
これに対し、解体等工事に従事する者については、2022年6月の最高裁判決を踏襲し、建材メーカーによる警告表示義務はないとした。
その理由は以下のようなものである。
解体等工事を担う事業者等は法令上、安全配慮義務を尽くすことにより、石綿粉じんばく露を予防することが期待されている 建材メーカーに対し、解体等工事との関係で具体的な義務内容を定めた法令等はない 建材メーカーが負う警告表示義務は石綿含有建材を製造・販売することに伴う義務であり、解体等工事従事者は製造・販売される石綿含有建材の通常の利用者に当たらない原告側は17人が新築工事にも携わっていたと主張していたが、損害賠償の支払いが認められたのはそのうち8人(鉄骨工4人、とび3人、はつり工1人)のみだった。
同じ「新築工事に携わっていた」原告の中でも判断が分かれたことについて、東京弁護団の井橋毅弁護士は、以下3点が重要視されたとの見解を述べた。
①新築工事の現場で屋内作業をしていたか
②十分な現場数があったか
③建材の製造・販売の期間と就労期間が重なっていたか
判決後に開かれた会見で、大工だった夫と長男を亡くした原告の大坂春子さんは「被害者はみんな一緒だと思う」として、屋内・屋外作業者、改修・解体の作業者にかかわりなくアスベストばく露による被害が救済されるべきだと訴えた。
原告側は、今回の判決で損害賠償金の支払いが認められなかった9人だけでなく、新築工事に携わっていた分の賠償金のみ支払いが認められた8人についても上告、上告受理申し立てを行う予定だという。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。
