ハーゲンダッツで異例の日本生まれ…累計7億個を突破、「日本人の職人技」が生んだ"もなかに似た定番商品"
■「ハーゲンダッツ離れ」した人を呼び戻すヒット作
コンビニやスーパーでお馴染みのハーゲンダッツのクリスピーサンド。サクサクのウエハースとパリッとしたコーティング、濃厚なアイスクリームを三位一体で味わえる人気商品だ。現在は、定番商品として「ザ・リッチキャラメル」(373円 税込み)と「ザ・グリーンティー」(373円 税込み)が販売されており、季節ごとに期間限定のフレーバーが販売されている。
ブランドを代表するミニカップに並ぶ定番商品でもあり、2001年の発売開始以来、25年間で累計販売個数は約7億個を突破した。販売元であるハーゲンダッツ ジャパン(東京都目黒区)のマーケティング本部の平野泉さんは、クリスピーサンドは後続の商品ながら、今や売上を支える重要な柱になっていると話す。
「ハーゲンダッツ ジャパンは2024年度、2025年度と2年連続で過去最高売上を更新しました。クリスピーサンドは、その成長の一翼を間違いなく担っています。クリスピーサンドの強みは、ハーゲンダッツの商品を頻繁に食べない方にも手に取ってもらいやすいことです。当社の調査によれば、他の商品に比べて、休眠層による購買率が高いことが分かっています。久しぶりにハーゲンダッツの商品を喫食する消費者の方に『やっぱり美味しい』と感じていただき、再度、ブランドに惹きつける役割を果たしていると思います」

ハーゲンダッツという確立された強固なブランド。クリスピーサンドは、そこに新たな風を吹き込み、継続的な事業成長を後押しする起爆剤的な存在になっている。
そのクリスピーサンドが、日本で考案・開発されたことをご存じだろうか。ハーゲンダッツがアメリカ発祥のブランドであることは広く知られている。そのなかにあって、クリスピーサンドは、スタッフの熱意と日本独自の技術が生み出した、ハーゲンダッツ史上稀に見る商品なのだ。
■️「世の中にないもの」を作りたい
「ハーゲンダッツ史上稀に見る」とは、どういうことだろうか。まずは日本におけるハーゲンダッツの歴史を遡りたい。日本でのハーゲンダッツの販売開始は1984年。バニラ、ストロベリーなど、現在も定番商品に名を連ねるフレーバーがパイント(約473ml)で発売され、翌年には日本市場向けの食べきりサイズ「ミニカップ」が誕生する。
その後、コンビニでの販売開始や世界初のTVCMを日本で開始するなど、ハーゲンダッツのブランドは着実に日本市場へ根を下ろしていく。
しかし、日本上陸から10年以上が経った1990年代半ばになっても、販売される商品のほとんどが海外発のフレーバーだった。創業以来、原材料調達や製造は日本国内で実施していたものの、日本の消費者の嗜好に合う商品開発の壁は高かった。その一方で、ハーゲンダッツ ジャパンの社内では、日に日に「日本独自の商品を届けたい」という思いが湧き上がりつつあった。

そこに転機が訪れる。クリスピーサンドの開発のきっかけとなった、ある取り組みがスタートしたのだ。
「1994年に新商品開発を目指す『WOW!Project(ワオ プロジェクト)』が発足します。WOW!Projectは消費者が思わず『ワオ!』と驚くような商品を開発するための社内プロジェクトです。つまり、パイントやミニカップではなく、『世の中にないもの』を作りたいと。今、振り返ると、このネーミングはプロジェクトのその後を予見していたようにも思います。なぜなら、実際にそれまでにないクリスピーサンドという商品が生み出されるからです」
■️元ネタは「もなか」だと思ったが…
世界で絶大な知名度と人気を誇るハーゲンダッツ。その歴史に日本独自かつ斬新な商品を刻みたい。熱い思いに燃える開発チームがたどり着いたのがクリスピーサンドだった。
「日本独自」で「サンド」といえば、最初に想起されるのは「もなか」だろう。クリスピーサンドの形状も和菓子のもなかに類似している。和菓子とアイスクリームの融合。なるほど、これこそ日本が世界に送る新感覚デザートだ!と膝を打ちそうになるが、平野さんは苦笑いで否定する。クリスピーサンドの着想となったのは、もなかではなく「タコス」なのだという。

薄くてサクサクのトルティーヤにひき肉や野菜を挟んで食べる。その食感と濃厚なアイスクリームを手に持って食べる喫食体験を提供するのが、クリスピーサンドのコンセプトだった。アイスクリームの味や香りではなく、食感や喫食体験を起点にした商品開発は当時のハーゲンダッツでは異例中の異例。世界でも極めて稀なプロジェクトだった。
では、クリスピーサンドのどこに「日本独自」が潜んでいるのだろうか。それは日本の工芸品や精密部品を思わせる、繊細で丁寧な製法だ。
■️「1ミリのコーティング」開発に7年かかった
クリスピーサンドはまったく新しいコンセプトの商品だったために、開発には苦労が多かったと平野さんは語る。
「クリスピーサンドを開発するうえで、最大の難関が『水分』でした。アイスクリームには水分が多く含まれますから、単にウエハースにアイスクリームを挟んだだけでは、水分が浸み出してサクサク感が失われます。そこで考案されたのがチョコレートやキャラメルによる厚さ“1mmのコーティング”でした」
ウエハース、コーティング、アイスクリーム。三つの素材を最適な量と構造で組み合わせ、理想の食感を再現する。プロジェクトでは試行錯誤が続き、試作が重ねられた。また、コーティングの技術にも工夫が凝らされた。
「アイスクリームをコーティング(チョコレートコーティングやキャラメルコーティング)で包んで、ウエハースに挟めば、タコスのような食感を残したまま、三位一体の美味しさを味わえます。この味と食感にたどり着くまでに、7年かかりました」
水分を逃さないためには、アイスクリームを一定以上の密度と厚さでコーティングしなくてはならない。しかし、層が厚すぎるとコーティングの甘さが際立ってしまい、味の調和が乱れる。1ミリの単位で調整が続けられたコーティングの技術開発は、まさに「日本人の職人技」だといえる。
■発売当初は乾燥剤が入っていた
そのこだわりを象徴するエピソードがある。クリスピーサンドは当初、パッケージ内に乾燥剤が封入されて販売されていた。当時の技術では、コーティングによる密閉が十分には及ばず、発売時にはパッケージ内に乾燥剤を封入して水分を取り除く案が採用された。
しかし、それから25年を経た現在、クリスピーサンドのパッケージを開封すると、その中に乾燥剤はない。開発チームは発売後も地道に改良を重ね、ついに乾燥剤の封入を不要にしたのだった。
その技術の詳細について尋ねると、平野さんは「それは企業秘密でして」と口を濁す。長年にわたって密かに技術を磨き上げ、唯一無二の製法を築き上げる姿勢には、日本的な職人精神が浮かび上がる。
もちろん、こだわりは製法だけではない。それと同様に心血を注いでいるのがフレーバーの開発だ。
クリスピーサンドの第1号商品は2001年に発売された「キャラメル」。ミニカップで既に販売していたバニラなどのフレーバーでは、ウエハースと相性が合わず、消費者調査でも十分な評価が得られなかった。ウエハースやコーティングとマッチするフレーバーは何か。暗中模索の末に出した答えが、濃厚さとほろ苦さの同居するキャラメルのフレーバーだった。
■「50回以上の試食」を経て新商品が作られる
繊細なフレーバー開発は今なお健在だ。新フレーバーの開発時には今も50〜60回もの試食が実施されるほか、グリーンティー(抹茶味)のようにミニカップで提供しているフレーバーを移植する際には既存のアイスクリームの味をわずかに調整して変更している。ウエハースやコーティングとの調和を何よりも重視しているのだ。
さらに、試食の現場では、素人には及びもつかない緻密な議論が交わされると平野さんは語る。
「私も試食に参加するようになって驚いたのですが、R&Dのベテラン社員たちは『この味は作り立てよりも、1週間後にはもっと美味しいだろうね』といった会話をしています。それまで私は、アイスクリームの味に1週間後も1カ月後も大差はないはずだと考えていたので衝撃でした。そして、実際に1週間経った試作品を口にすると、ベテラン社員の言った通りに味の感じ方が変わっています。もちろん、これは試作段階の話であって、完成した商品に味の変化はないのですが、ハーゲンダッツを支えているのは、こうした味のエキスパートたちなのだと改めて実感した出来事です」
アメリカで生まれたアイスクリームを日本向けの新たな形へと作り変えるアイデア力。コンマ数ミリ単位で弛まぬ改良を重ねる技術力。味の調和や経年変化を感じ取る繊細な舌。クリスピーサンドは日本的な感性や特性が育て上げた、ハーゲンダッツ ジャパンが世界に誇る独自商品だった。
その完成度をグローバル市場も見逃さなかった。発売にあたり、ハーゲンダッツのブランドを保有しているジェネラル・ミルズからは視察団が派遣され、開発チームのメンバーは質問攻めに合った。「なぜウエハースのパリパリ感を保てるんだ?」「このフレーバーの原材料は何だ?」。極東から突如現れた、まったく新たな商品に親会社の社員たちも目を丸くしていた。
■アジア市場にも広がる
さらに現在では、アジア市場で高い人気を誇っている。その人気の要因も「日本」だ。
「海外ではあまり見られない独自の食感に加え、アジア市場では今なお『日本ブランド』は根強いです。スイーツにおいても品質の高さなどを背景に、日本製の商品を手に取るお客様が多くいらっしゃいます。私たちがゼロから開発した商品が、こうして海外で広く受け入れられていることに誇らしい思いです」

発売以来、25年間で約7億個を売り上げたクリスピーサンド。今やミニカップなどに次ぐ事業の柱として地位を確立しているが、今後の伸び代も十分だ。平野さんは「実はクリスピーサンドの市場における認知度は現状で5割程度なんです」と語る。
人気の定番商品とはいえ、主力商品であるミニカップには認知度で後れを取る。しかし、だからこそ、さらなるシェア拡大に期待が集まる。和菓子ではなくタコスからひらめいた発想力、コンマ数ミリのコーティングを磨き上げた技術力、そして1週間後の味まで見通す職人的な舌。
クリスピーサンドは、日本人的な感性と職人気質がゼロから育て上げたアイスクリームなのだ。
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島袋 龍太(しまぶくろ・りゅうた)
フリーライター
1986年生まれ。沖縄県出身。琉球大学卒業後、警視庁入庁。警視庁警察官として、地域部、警務部、刑事部を経験。警視庁時代には事件解決の功労が認められ、警視総監賞を受賞。警視庁退職後は求人広告代理店のコピーライターなどを経て、2019年にフリーライターとして独立。ビジネス、経済、社会、サブカルチャーなど取材。趣味は読書とブラジリアン柔術。妻は漫画家の意志強ナツ子。
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(フリーライター 島袋 龍太)
