半導体供給に停滞の恐れ…熊本地震、工場の稼働停止相次ぎ車産業への影響も
熊本県で発生した地震から一夜明けた29日、九州の多くの工場で稼働が停止するなど影響が広がっている。
熊本県は多くの工業製品に不可欠で「産業のコメ」とも呼ばれる半導体に関連した工場の集積地で、供給が滞れば国内の幅広い産業も打撃を受けかねない。(奈良橋大輔、高村真登、福原悠介)
企業集積
ルネサスエレクトロニクスは、車載半導体などを生産する熊本市の川尻工場や錦町の錦工場で、地震後に操業を停止した。工場で天井パネルの落下や漏水が確認されており、生産設備の調査を進めている。三菱電機も、パワー半導体を作る合志市と菊池市の工場の操業を停止した。
また、ソニーグループは菊陽町にある画像センサーの工場で、東京エレクトロンは合志市と大津町にある半導体製造装置の工場で稼働を停止している。
熊本県は、半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が2021年に進出することを発表した後、関連企業の集積が進んだ。16年に発生した「熊本地震」の時よりも、半導体産業の存在感と地元経済への影響は増している。周辺では人口増に合わせて、住宅や商業施設などの整備も進んでいる。
TSMCは29日、地震の影響を受けた菊陽町の工場について、「製造装置に関わる検査や調整作業を継続的に進めているが、一定の時間を要する」とのコメントを発表した。
肥後銀行傘下の調査機関が昨年12月に発表した試算では、26年度の熊本県の県内総生産(名目)は、前年度比2・5%増の7兆1231億円と、過去最高を更新すると見込んでいた。TSMCの第2工場の建設が進むことなどで、半導体産業が経済成長をけん引すると予測した。
第一ライフ資産運用経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、「熊本を含む九州は半導体工場が集まる『シリコンアイランド』で、供給網は全国に広がっている。稼働に支障が出れば、半導体を使う自動車産業などへの影響も避けられない」と指摘する。
11年の東日本大震災では、ルネサスの那珂工場(茨城県)などが被災。自動車の電子制御に使う半導体が不足し、世界の自動車メーカーが生産の一時停止や減産に追い込まれた。
液状化
半導体以外のメーカーでも、工場の稼働停止が相次いでいる。
ホンダは29日、国内で唯一のバイク生産拠点となっている大津町の熊本製作所について、31日まで稼働を停止すると決めた。工場内で発生した漏水や浸水の復旧作業が必要なことなどを考慮した。週明け8月3日以降の稼働は状況を見て判断する。16年の熊本地震で被災した際には、震災前の生産体制に戻るまで5か月近くかかった。
ヤマハ発動機も、熊本県に船外機などを作る子会社「ヤマハマリン」の工場が2か所あり、29日は共に操業を停止した。八代市の工場では液状化も確認された。ブリヂストンは、建設機械で使うゴム製品などを作る玉名市の工場の稼働を停止している。工場の煙突が倒れ、人的被害も出ている八代市の日本製紙の工場は、操業再開のめどがたっていない。
サントリーホールディングス(HD)は、ビールや清涼飲料を生産する九州熊本工場(嘉島町)の29日の操業を停止した。再開時期は未定で、同工場を中心に商品の出荷停止や遅延が発生しており、他の生産拠点からの供給を検討しているという。10年前の地震では、生産出荷の正常化まで約1年半かかった。
ダスキンは29日、建物や設備の一部に被害が出た熊本中央工場(御船町)の稼働を見送った。30日も再開できないといい、同工場で担っていたモップやマットを洗浄する作業は近隣の工場で代替する。
被害なくても
工場自体に被害は出ていないが、稼働停止に追い込まれるケースも出ている。トヨタ自動車は、29日夕から31日まで福岡県の3工場で操業を停止する。29日午前に一度は稼働を再開したが、物流状況などを踏まえて、再度生産を止める。8月3日以降の稼働は未定だ。日産自動車九州の同県苅田町にある工場の一部も、30日午後から31日まで稼働を止める。同様に生産設備に被害はないが、部品供給が滞っているためだ。
経済同友会の山口明夫代表幹事(日本IBM社長)は29日の定例記者会見で、供給網が途切れた場合「必要な部品や商品が届かないことによる(経済活動の)アウトプットが非常に停滞する」とした上で、「(地元企業などと)連絡を取り、支援できることがないか確認している」と述べた。

