「bikeがbaikuに」令和の小中学生の深刻な書く力の低下と難化する高校入試「受験が心配」な親の声に塾講師が解説
今、学校の授業が激変しています。「先生が説明して生徒がノートに書く」従来型の授業が減り、親世代からは「今の学校授業だけで学力は大丈夫?」と不安の声が聞こえてきます。実際、令和の小中学生はどう変わったのでしょうか。関東で広く展開する大手学習塾、湘南ゼミナールと栄光ゼミナールの講師陣に聞きました。
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「アクティブラーニング」で授業はどう変わった?
2020年度から、新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)が学校に導入され、タブレットなどのデジタルデバイスの「1人1台配布」が急速に進みました。今の小中学校では、調べ学習やグループワークが当たり前の光景です。
いっぽう、親世代が受けてきた授業は、先生の説明や板書を生徒がノートに書き写し、漢字や計算ドリルなどの反復学習を重ねるスタイルが中心でした。現在は主体的な学びや探究活動を重視する授業が増えたぶん、知識の定着や反復学習に充てる時間が相対的に減り「学校の授業だけで高校受験に必要な基礎学力を身につけられるのだろうか」と不安を感じる保護者もいます。
こうした学校授業の変化は「受験」という観点から見るとどう映るのでしょうか。高校受験に向けて小中学生を指導する塾に聞くと、学校だからこその学びを評価する声があがりました。
「アクティブラーニングの導入によって、発表や話し合いの時間が増えたのは、とても意義のあることだと思います。こうした、他者の考えに触れながら自分の考えを深める学びは、塾ではなかなかつくれません。まさに学校だからこそできる学びです」(湘南ゼミナール・神谷先生)
「対話型授業は、知識をただ覚えるだけでなく『なぜそうなるのか』まで考えるきっかけになる。理解を深める授業として優れていると思います」(湘南ゼミナール・中河内先生)
また、英語についても「タブレットを使うことで、ネイティブの発音を手軽に確認できるようになった。言語科目としては非常に歓迎」(湘南ゼミナール・神谷先生)などのメリットがあるようです。
いっぽうで「活発な話し合いが行われる反面、そこから重要なポイントを自ら整理して定着させるには、自分で学び進める力が必要です。そこは生徒によって差が出てしまう側面もあるのでは」(湘南ゼミナール・中河内先生)と、心配する声も上がりました。
親世代と今では「基礎知識」の中身がまったく違う
では、今の小中学生の学力はどうなっているのでしょうか。どちらの塾も「親世代と今の授業では、学習内容や求められる力がかなり変わったので、単純に比べられない」と話します。
「『今の子は浅い知識しか知らず、親世代よりも低学力』というのは粗い捉え方です。今は『基礎知識』の内容自体が変わっています。親世代が中3までに学んだ内容は、今の指導要領から外れているものも多いです」(栄光ゼミナール・松田先生)。
たとえば、国語では、三大和歌集(万葉集・古今和歌集・新古今和歌集)について、巻数や代表歌人を暗記していた時代もありましたが、いまでは歌集名にさらっと触れる程度。数学は高校単元だった「箱ひげ図」などを中学で学ぶように。英語に至っては、中3までに覚える単語数は親世代の約2倍に増えているといいます。
「さらに、今はプログラミング授業も必修。親世代が知らない知識を相当蓄えているんです」(栄光ゼミナール・松田先生)。
今の子たちは「文字を打つ」ことさえしない
もっとも、先生たちは今の子たちの顕著な変化も感じると言います。特に深刻なのが「書く力の低下」です。
「まず、学校の宿題の量は明らかに減りました。特に漢字練習帳やドリルのような反復練習をさせる宿題が減った結果、学力の土台といえる基礎の漢字や計算ができる子、できない子の差が激しくなっていると思います。加えて、スマホの予測変換などで漢字が出てきてしまうので、正しい漢字を正確に書けない子が多い。たとえば、中3でも 『制服』の『制』を左の上縦棒を突き出さずに書いて間違うといったこともあります。これは単なる勉強不足というより、デジタル環境に慣れきったことによる『視覚的な記憶』と『手書きの出力』のズレが起きている現象だと分析しています。
漢字の意味や使い方を理解せず、音だけで捉える子も増えています。なかには、テストでは自分の知っている漢字のパーツを適当に組み合わせて、世の中に存在しない漢字を生み出してしまうケースも」(湘南ゼミナール・中河内先生)。
影響は国語のみならず英語にも出ており、中学生になっても、英語をローマ字感覚で書いてしまう子も。たとえば『I want to(私は~したい)』を『I wont』、『bike(バイク)』を『baiku』、『summer』を『samar』と書いてしまう、『beautiful』が書けないなど、発音とスペルが違う単語に混乱する子が一定数いるといいます。
こういった状況は、今の子どもを取り巻く環境変化も大きいのではという見方もあります。「生まれたときからデジタル・SNSネイティブ世代なので、小学生から友達とLINEが当たり前。しかも『ありがとう』『ごめん』などの感情は、スタンプひとつで表現できます。親御さんは、手書きからキーで打つ手法に変わった世代だと思いますが、今の子どもはもう打つこともしない。インスタントなコミュニケーションが日常化しています。便利な反面、こういうことも『書く力の低下』の遠因かもしれません」(栄光ゼミナール・髙尾先生)。
いっぽうで、髙尾先生は「知識そのものの定義が変わってきている」と指摘します。「スマホがこれだけ普及した今、情報へのアクセスのしやすさは昔とは比べものにならず、人間が知識を頭に入れておく必要性そのものが薄れているともいえます。以前は学力をはかるひとつの目安が『どれだけ知識を頭の中に入れているか』でしたが、今は『必要なときに端末でいかに的確に調べて応用できるか』に変わりつつあります」(栄光ゼミナール・髙尾先生)。
高校受験は「昔より確実に難しくなっている」
とはいえ、現状の高校・大学受験では、デバイス持ち込みは禁止。求められるのは「自分の頭だけで考え、答えを導き、手書きで回答する力」です。今の学校教育で、受験に対応できるのでしょうか。
どちらの塾も、学校と塾は対立するものではないとしたうえで「高校受験は以前より難化している」と言います。
たとえば英語は、入試問題は長文化し、『Pollution(汚染)』『Drought(干ばつ)』など、英検2級~準1級レベルの単語が出ることも珍しくないといいます。国語も今の問題の文章量は親世代に比べ約1.5倍以上に増加しており、資料、グラフを読み比べたうえで解かせる複雑な問題も多いとか。数学では、以前は最難関校だけで見かけた難問が、今では公立の自校作成問題で出題されることもあるといい、こういったテスト対策までを学校の授業でフォローするのは難しい、というのが両塾の見解です。
塾に行かないと受験は失敗確定?
学校では主体的な学習スタイルが導入されているものの、受験は旧態依然とした知識を問う問題が中心。そのミスマッチにより、学校の学習だけでは受験は成功しないのでは…という不安から、昨今は学校と塾を併用する子が多数派を占めています。
とはいえ、「塾に行かなくても受かる子」が一定数いるのも事実です。そんな子の共通点として、両方の塾が挙げるキーワードは「自律心」。湘南ゼミナールの神谷先生は「学校の授業のあと、自分の理解度を客観視して『今日はここを復習しよう』などと的確に計画を立てられる子なら、家庭学習でもいい」と話します。栄光ゼミナールの松田先生は「実際には、勉強を継続する力だけでなく、SNSやゲームなどさまざまな誘惑を断つ必要がありますよね。自律心をしっかり持たないと難しい」と分析。
いっぽうで「ひとりだとやる気が起きない」「自分なりに勉強しているが効果が出ない」などが当てはまる子は、塾通いで学習ペースをつくるのもいち案だそう。「きっかけや声かけがあると力を発揮しやすいお子様の場合、学習習慣やリズムをつくる『ペースメーカー』として塾を活用するのも効果的な選択肢です」(湘南ゼミナール・神谷先生)。
一気にやる気をゼロにする「親のひと言」
塾に行く場合も行かない場合も、親は「自分に何ができるのか」と悩むもの。実際、どんなサポートをするのがよいのでしょうか。
「絶対に言ってはダメな言葉があります。それは『ほらね』『だから言ったでしょ』。いかにもわかっていたふうな言葉を、子どもは猛烈に嫌がります。多くの親御さんは無意識で言ってしまうので、本当に気をつけてほしい。たった一度の言葉が、子どものやる気をゼロにしてしまうので。親御さんにお願いしたいのは、子どもにとって家を安らげる場所にすることです。塾で一生懸命勉強して帰ってきた子どもに『がんばったね』と共感し、おいしいごはんを出してあげてください。受験を終えた子たちが口をそろえて言うのは『朝昼晩の食事が本当にありがたかった』なんです」(湘南ゼミナール・神谷先生)。
「子どもたちにとって『自分がどんな状態でも帰れる家がある、ここに戻れば大丈夫』と思える場所があることが、いちばん大切だと思います」(栄光ゼミナール・髙尾先生)。
今回お話を伺った方
湘南ゼミナール 教材開発部 英語科責任者・神谷漠先生、教材開発部 国語科責任者・中河内孝先生。
栄光ゼミナール 高校入試責任者・松田裕太郎先生、高校入試英語科責任者・髙尾隼次郎先生。
取材・文:前島環夏

