握手を交わすマクロン仏大統領(左)とメルツ独首相(17日、ドイツのブリュールで)=ロイター

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[欧州の新常態]安全保障<下>

 東西冷戦下の1963年1月、フランスのシャルル・ドゴール大統領(当時)は、パリのエリゼ宮で記者団を前に米国への強烈な不信感を口にした。

 「米国の核戦力が、フランスでの不測の事態に対して即座に対応できるわけではない」

 フランスは60年に核保有国となっていたものの、軍事大国であるソ連との戦力差は大きい。米国が提供する「核の傘」や安全保障に依存する状況にドゴール氏は危機感を示し、米国からの「戦略的自立」を目指すことを唱えた。

 欧州は長く、米国との同盟関係を万能と信じ、戦略的自立論には冷ややかな目が向けられてきた。だが、「自国第一主義」を掲げるトランプ米大統領の登場で欧米関係は揺らいだ。ドゴール氏の発言から60年以上の歳月を経た今、欧州の各国首脳や主要メディアは自立論をもてはやしている。

 米国とは一線を画す「ドゴール主義」を継承するマクロン仏大統領は今年3月、自国だけを対象にしてきた「核の傘」を欧州規模に拡大する構想を表明し、実現に向けた協議を各国に呼びかけた。

 構想では、核兵器使用の判断は仏大統領が維持しつつ、有事の際に核ミサイルを搭載した仏戦闘機を同盟国に展開する。マクロン氏は、北大西洋条約機構(NATO)の枠組みで、現状の米国による核の傘を補完する考えも示した。

 マクロン氏はウクライナ侵略開始前の2020年にも、同様の構想を提唱したが、呼応する首脳はいなかった。今回の構想には、英独やオランダポーランドなど計9か国が、ロシアの脅威を前に即座に賛同した。

 構想の具体化は着々と進んでいる。

 ドイツのメルツ首相は今月17日、今秋に予定されるフランスの核演習に、独連邦軍の兵士を初めて参加させると表明した。

 仏軍の核演習は従来、国内外に「仏軍の技術力と任務遂行能力を示す」(パトリック・シャレックス仏戦略空軍元司令官)ことが目的だ。長年、フランスは単独で実施してきたが、昨年12月の核演習には、同じ核保有国の英国が初めて視察した。今回、非保有国のドイツを正式招待したことは、構想を実現させる真剣味の表れだ。

 「我々は新たな共同抑止の道を歩み始めている」

 メルツ氏は演習の意義をこう強調した。

 マクロン氏の構想への参加を念頭に、各国では非核政策を見直す動きも出始めた。

 バルト3国の一角リトアニアのギタナス・ナウセーダ大統領は今月2日朝、大統領府の一室で楕円(だえん)形の机を挟み、与野党の党首ら12人と向き合っていた。

 議題は、核兵器を含む大量破壊兵器の国内への持ち込みなどを禁じた憲法137条だ。「条文は削除されるべきではないか」。大統領が切り出した。異論はほとんどなく、「削除が必要だ」との認識でほぼ全ての党が一致した。

 23年にNATOに加盟したフィンランドも6月、核兵器の持ち込みを禁じる法律の修正案を議会で可決した。ペッテリ・オルポ首相は、マクロン氏にフランスの構想への強い関心を伝えた。

 自国と地域の安全を核に頼ろうとする動きは、長年核軍縮を熱心に訴えてきた北欧諸国にも及んでいる。

 フィンランドを含む北欧5か国は、今年4〜5月の米ニューヨークでの核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、初めてNATOの核共有を正当化する共同声明を出した。段階的な核軍縮を目指す「ストックホルム・イニシアティブ」にも言及せず、核軍縮推進からの方針転換を世界に印象づけた。

 フランスは核弾頭数の増強を表明した。ウクライナ戦線での戦術核使用を脅しに使うロシアに対し、欧州は核軍拡で対処しようとしている。まさに、欧州の新常態(ニューノーマル)である。

来春の仏大統領選、構想を左右…仏国際関係研究所のエロイーズ・ファイエ研究員

 欧州で起こる危機は、米国の国益に直接の影響を与えない。フランスには、欧州諸国に対する攻撃は、自国の国益を害するものという強い認識がある。フランスの「核の傘」構想が実現すれば、欧州は一貫性のある戦略的な態勢を築くことができる。

 構想では、欧州が戦争の危機に直面した際、核弾頭を搭載できる仏軍戦闘機が、仏軍基地から各国に迅速に展開する。仏軍基地がロシアに攻撃される事態に備え、戦闘機を欧州全域に分散配置する狙いもある。戦闘機の生存性を高め、ロシアに効率的な攻撃を仕掛けることができる。

 フランスは核使用の具体的な判断基準を伏せているが、ロシアにとっては戦略的なリスクが高まり、欧州の抑止力は向上するだろう。

 ただ、構想実現に向けた協議は、予想以上に時間がかかっている。各国の安全保障政策や関与への意欲、軍の能力は異なっており、構想は複雑な仕組みになるかもしれない。

 フランスでは来春に大統領選が控えており、その結果が構想の行方を左右する。急進的な右派候補は北大西洋条約機構(NATO)への協力に懐疑的で、構想が立ち往生する恐れもある。