「このままだと60歳で総入れ歯」かみ合わせが悪いだけと思っていたら、顎の骨を切る大手術に
厚生労働省が行った「歯科疾患実態調査(2016年)」によると、後期高齢者(75歳〜)の自分の歯の本数の平均は15.7本。約3割の人が総入れ歯を使用しているという結果に。人生には思いがけない出来事がつきもの。せっかく貯めた老後資金が目減りしていく――斉藤良枝さん(仮名・神奈川県・パート・47歳)は、かかりつけの歯科医院でかみ合わせについて話したところ……。
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医師の表情が険しくなって……
ここ数年でもっとも大きな出費といえば、顎の治療だろう。咬み合わせを正すための歯の矯正と、顎の骨切り手術。身体的な負担もさることながら、財布へのダメージはそれ以上だった。
ことの発端は6年ほど前。かかりつけの歯科医院で、咬み合わせについてポロッと口にしたことがあったのだ。「私、前歯で物を噛み切ることができないんですよ」。
当時、私の上下の前歯は、口を閉じても合わさることがなく、隙間が空いた状態。明らかに咬み合っていない自覚はあったが、食事は普通にできるので、治療が必要だとは思っていなかった。ところが、これを聞いた医師の表情が、わずかだが険しくなったのだ。
「もう一度、口の中を見せてもらえますか」と、あらためて覗き込む。そして考え込む素振りを見せた後、こう言った。「紹介状を書くので、大学病院で検査を受けてきてくれますか?」。
なんだか大袈裟なことになってきたぞ……と思いながらも指示に従い、後日、紹介先の病院を訪れた。そこで下された診断は、開口症。医師は「手術が必要ですね」とサラリと言ったが、予想外の言葉に思わず顔をしか顰(しか)めた。
私は痛みに弱い。ものすごく弱い。その私が手術なんて。憂鬱になるのは当然だろう。しかしこのときはまだ、事態を甘く見ていた。
「手術時間は4時間くらいかな。入院期間は1週間から10日ってとこですね」
ええっ? と声を上げそうになる。考えていたより、はるかに大がかりな手術だ。さらに続く医師の言葉に絶句した。「そりゃあ大変ですよ。顎の骨を切るんですから」。
私の顔面は、このとき蒼白になっていたと思う。だが彼は、怯える私にさらに恐ろしいことを言い放ったのだ。「手術の前に歯列矯正が必要ですね。あ、安心してください。保険が適用されるので、矯正も手術も込みで、30万円くらいで済みますから」。
30万円――。就職氷河期世代の非正規労働者には、大変な金額と言っていい。少しの沈黙のあと、私は言った。
「……あのぅ。この手術、やらなかったらどうなるんでしょうか?」「60歳前後で、総入れ歯になるでしょうね」
医師いわく、このままだと、使われている歯も使われていない歯も劣化が進むらしい。60歳で総入れ歯。それはそれでキツすぎる。
結局、この日は手術を受けるか否かの返事を保留にしてしまったが、この日以降、頭から手術のことが離れなくなった。手術は怖い。お金を出すのも嫌だ。けれど60歳で総入れ歯になったら、人生に大きな支障をきたすのではないか。
口内環境の劣化は、認知機能にも影響するといわれている。未婚・子なしの私としては、自分のことは自分でできる状態を可能なかぎり長く保ちたい。ならばこの手術、絶対に受けるべきではないか。
痛みはなくすべて順調だと思っていた
1年悩んで、私は手術を受けることにした。いろいろと覚悟していたのだが、矯正は聞かされていたような痛みはなく、装着した器具にもすぐに慣れた。拍子抜けしたくらいだ。
手術後は体力を削られて、2日間はICUで眠り続け、何日かはヘベレケ状態だったが、やはり痛みはなく、1週間で退院することに。
楽じゃなかったのは財布事情だ。わかってはいたが、手術前に毎月通った歯列矯正では、自分の給料の1割、あるいはそれ以上のお金が消えていく。
もともと節約はしていたが、さらに切り詰めて迎えた手術当日。入院費含めて7万円近い請求に魂が飛びかけたが、それが最後の試練のはずだった。
生活面でも、以前は食べにくかったものが楽に食べられるようになり、治療してよかったと思っていた。しかし、それでは終わらない。
「骨を留めているプレートですが、そろそろ取ってもいいころです。取りますか?」
手術で切ったところはプレートで留めて繋いでいる。時機が来たら、それを取り外さなければいけない。医師いわく、「付いたままで構わないなら、やらなくていいですよ。なんの支障もないし」とのこと。
前の手術と比べて簡単だとはいっても、やらずに済むならそうしたい。即座に断った。次の診察は半年後。治療のゴールも見えてきていたが、その診察のときである。
「プレートの除去手術は……しないんでしたっけ?」。医師の問いに頷く私。「そうですか。それでは、何かあったらすぐ受診してくださいね」と言われたので、今度は私が尋ねた。
「何か、というと?」「プレートが残ったままだと、その周辺、骨の周りが膿むことがあるんですよ。それから、プレート部分が体の表面に突出したりすることもあります。気をつけてくださいね」。
私はその場でプレートの除去を決めた。再び手術などまっぴらだったが、背に腹はかえられない。医師と手術の日程について話し合った後、費用のことを尋ねる。「それであの、今回の手術はおいくらくらいで?」「そうですね、5万〜6万ってところでしょうか」。
前回の手術のことを思い出す。あれが最後の出費だと思っていたが、大間違いだった。私の試練は、まだまだ続く。
健康な歯を残すために
斉藤さんはかみ合わせの問題から開口症の手術を行い、60歳での総入れ歯を回避することができました。
歯の喪失が少なく、よく噛めている人は生活の質および活動能力が高く、運動・視聴覚機能に優れていることが調査でも明らかになっています。
歯を失う二大原因はむし歯と歯周病です。歯の健康を守るため、毎日のブラッシングと定期的な歯科健診を心がけましょう。
●Let’s8020 https://www.8020zaidan.or.jp/
《80歳になっても20本以上自分の歯を保とう》という運動「8020運動」を推進する財団のサイト。歯の健康を守るさまざまな情報が掲載されています。
●全国の歯医者さん検索(歯科医師会) https://www.jda.or.jp/search/
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