「わかりにくすぎるルール裁定」めぐり選手が舌戦、怒りのクラブ投げは2件…荒れた「ゴルフ全英OP」で心に「?」が残る理由
ハッピーエンドの陰で物議
男子ゴルフの今季最後のメジャー大会、全英オープンは、ニュージーランド出身の39歳、ライアン・フォックスが、英国のギャラリーから温かい拍手と声援を受けながら見事、メジャー初勝利を挙げ、「ドリーム・カム・トゥルーだ」と興奮しながら語るハッピーエンドで幕を閉じた。
【写真】宙に浮けばいいの? 2罰打の処分を皮肉ったデシャンボーの投稿
これまで出場したメジャー大会で、1度もトップ10入りしたことが無かったフォックスが、出場29試合目のメジャー大会で強豪選手たちに競り勝った。その戦いぶりは、ロイヤル・バークデールの大観衆を湧き返らせ、拍手と歓声はいつまでも鳴り止まなかった。
そんな素晴らしいドラマが繰り広げられた一方で、ルールにまつわる騒動もいろいろあった。中でも、米国のブライソン・デシャンボーが2罰打を科された出来事は、選手たちの間でも物議を醸した。

デシャンボーがライを改善?
大会2日目の5番(パー4)で、デシャンボーはフェスキューと呼ばれる背の高い草が生い茂るラフにティショットを打ち込み、ボギーを叩いた。
18ホールを「66」で回り終えたデシャンボーがスコアカードを提出しようとしていたとき、R&A(英国ゴルフ協会)のルール委員が近寄ってきて、「キミは5番でライを改善し、ルール8.1に違反したため、2罰打を科す」と告げられた。
ルール委員によると、デシャンボーはボール周辺のフェスキューを足で踏みつけ、ライを改善して、スイングしやすい環境を作り出したとのこと。納得がいかないデシャンボーは、数名のルール委員とともに、カートに乗って5番へ急行。「現場検証」を行った。
激しい論戦が続けられたものの、裁定は覆らず、デシャンボーの5番のスコアは「5」から「7」へ、2日目のスコアは「66」から「68」へと変更され、単独2位のはずだった彼のこの日の順位は5位タイになった。
怒りが収まらなかったデシャンボーは、取材を拒否して無言で練習場へ直行。あたりが真っ暗になった後も、ライトの下で球を打ち続け、大会スタッフは帰るに帰れず、夜10時半過ぎまで待機する羽目になった。
5番で「現場検証」した際、デシャンボーは怒りに任せて、「2ペナを科すのなら、僕は明日以降、プレーはしない」と棄権を示唆する発言をした。そのため、大会関係者は3日目の組み合わせとスタート時間の発表を遅らせざるを得ない事態にもなった。
SNSでは、そうしたデシャンボーの言動を「大人げない」「自分勝手」と批判する声が上がったが、選手たちの間では、デシャンボーに科された2罰打の妥当性に対する賛否両論が巻き起こった。
マキロイは痛烈批判
デシャンボーをいの一番に批判したのは、ローリー・マキロイだった。
「選手用ラウンジでテレビ中継を見ていた僕たち選手は、あの場面で、みな顔を見合わせた。デシャンボーがライを改善したことは明らかだ。ルール上は、不注意だったか意図的だったかにかかわらず、ライを改善すれば2ペナは当然だ」
さらにマキロイは、デシャンボーがすでにメジャー6試合で取材を拒否し続けていることや、深夜まで練習場に居続けた行動に対しても「注目を得るためのパフォーマンス」「良いことではない」と批判した。
一方で、デシャンボーを擁護する声は多くの選手から上がった。
ザンダー・シャウフェレは、「あの場面の判断は難しいけど、デシャンボーはショット前の必要な動作を行っただけのこと。ショットするために地面や草を踏むのは当たり前だ」と頷き、「上位でプレーしていると、一挙一動がテレビに映し出され、注目される。運もタイミングも悪かった」と同情的だった。
シェフラーは熱弁で擁護
マックス・ホーマも「デシャンボーを長年知っているけど、彼はチーター(不正行為をする人)ではない。2ペナの裁定は僕には頷けない。でも判断するのは僕ではなくR&Aだから仕方ないけど、意図的にライを改善することは、ブライソンのキャラではない」と断言した。
予選2日間をデシャンボーと同組で回った王者スコッティ・シェフラーは、この件については「試合終了後に話す」と答え、ノーコメントを通していた。そして、最終日に4位タイに終わったシェフラーは、自身の宣言通りに語り始め、数分間、熱弁を振るった。
「デシャンボーとは長い付き合いだ。彼はいろいろあるけど、チーターではない。遊びでチップやパットの競争をするときも、アマチュアと回るときも、彼が怪しい行動を取った姿を一度も見たことはない。デシャンボーのボールの周辺の歩き方は、少々不注意だったのかもしれないけど、テレビカメラのアングルによって、(ボールや選手の)動きが実際とは少し異なって見えることはある。いずれにしても、デシャンボーが意図的にライを改善したとは、僕は絶対に思わない」
「消えた」シェフラーのボール
デシャンボーを強く擁護したシェフラーだが、最終日の優勝争いの終盤では、そのシェフラー自身がルールの裁定を求める場面が見られた。そのときは、居合わせたギャラリーもテレビ中継の視聴者も、みな狐につままれたような感覚を覚えたに違いない。
首位に追いつき追い越すためには、シェフラーは終盤で猛チャージする必要があった。16番でバーディーを奪い、続く17番(パー5)では、最低でもバーディー、望むらくはイーグルを獲りたい状況だった。
ティショットは左ラフへ。傾斜地で足場は悪く、ボールは枯れ草の中に埋まり気味でライも良くはなかった。しかし、「ここでミラクルを起こさなければ」と考えたシェフラーは、3番ウッドで2オンを狙う賭けに出たのだが、打球は大きく左に曲がり、テレビ中継の解説者は「消えちゃいました」と口走った。
ルール委員から暫定球を打つよう促されたシェフラーは、言われた通り、暫定球を打った。しかし、初球とほぼ同じ方向へ飛び出し、「これも消えました」という結果になった。
どちらの打球も、このホールの左サイドにそびえていた大型のギャラリースタンド方向へ飛んでいき、その後、見えなくなった。
なぜフリードロップなのか
おそらくロストボール扱いだろうと想像されていた中で、ルール委員はシェフラーに無罰救済を告げ、シェフラーは指定された区域でフリードロップ後、そこから3打目を打ち、ピン3メートルに付けてバーディーを獲った。
その場に居合わせた米テレビのラウンドレポーターでさえ、「何がどうなったのか、私も100%確かではないですが……」と前置きしながら状況を伝えていたほどで、このルールの解釈と裁定は周囲にわかりにくかった。
結論としては、大会などで臨時に設置される人工物で、なおかつ動かせない障害物として介在する場合は、無罰で救済されるというローカルルール(F-23)が適用されたとのこと。
シェフラーのボールは、ギャラリースタンドという“臨時に設置された人工の動かせない障害物”の中に明らかに入ったとみなされたため、ボールが見つかったか否かにかかわらず、フリードロップが認められた。
そもそもゴルフは自己申告のゲーム
デシャンボーに2罰打が科されたことも、シェフラーに無罰救済が認められたことも、どちらもルールに基づいて下された裁定だったが、心のどこかに「?」が残る。
ゴルフルールは明文化されているものの、それを適用し、裁定を下すのはルール委員である。そこには主観や先入観が入りがちであり、またそう見られがちでもある。
裁定は本当にフェアだったのか、それともアンフェアだったのかという議論は、おそらく今後も続くのではないだろうか。
しかし、そもそもゴルフは自己申告のゲームだ。本来はルール委員がいなくても、ゴルファー自身の真摯な姿勢と正義によって成立するはずのスポーツである。
ルールのみならず、エチケットやマナーを重んじることもゴルファーに求められる最低限のたしなみのはずだ。だが、昨今はマナー違反が多々見られ、今年からメジャー大会ではマナー違反に2罰打や失格処分を科すという新ルールが採用されている。
6月の全米オープンでは、ホアキン・ニーマンがクラブを投げて2罰打を科された。今回の全英オープンでは、ジョン・ラームとロバート・マッキンタイアの2名が、どちらもクラブを投げて警告処分になった。
しかし、マッキンタイアいわく、「カッとなって行動に移すのは、僕のDNAだ。これからもやると思う。それで2ペナを食らったら、それは僕の自己責任だ」と開き直った。
今後、マッキンタイアがクラブを投げた場合は、フェアかアンフェアかの議論は無用ということ。彼が次にクラブを投げたら、ルール委員は容赦なく、問答無用で彼に2ペナを科していただきたい。
舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。
デイリー新潮編集部
