「昔っぽく作られた店」に何度も騙されてきた私が、新橋の地下で出会った“令和のシェルター”のような本物の喫茶店/カツセマサヒコ
ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。今回の舞台は、ニュー新橋ビルの地下にある「喫茶フジ」。“昔っぽく”作られた最新の店が増えるなか、著者が迷い込んだのは、正真正銘くたびれた本物の喫茶店だった。願いは今日も「すこしドラマになってくれ」
◆疲れていてもいいよ【新橋駅・喫茶フジ】vol.41
街が壊され、新しくなる。既存の建物は新耐震基準を満たしていないとか、劣化や損傷が激しいとか、いろんな理由でビルが丸ごと生まれ変わる。せっかくぴかぴかの建物ができたのに、わざわざ古めかしい内装に化粧したり、昭和っぽい看板を掲げたりする。純喫茶を模した最新のカフェ、昭和創業の大衆酒場に似せた最新の飲み屋。なんだか「昔っぽく」見せようとしたものが、確かに増えた。
私は簡単に騙される。老舗と勘違いして店に入ると「祝☆オープン1周年」と書かれた祝い花が飾られてあり、軽く落ち込んだり、恥ずかしくなったりしたことがある。
そういう心配をしないで済む場所はないかと尋ねると、「ニュー新橋ビルはどうだろう」と友人は提案した。
「あそこは、最高に面白いよ」
楽しげで、自信に満ちた顔だった。
JR新橋駅から1分もかからない一等地に、「ニュー新橋ビル」はある。軽く調べると、地下1階から4階までに300のテナントがひしめいており、5階から先はオフィスと住居エリアになっている。
元々この街は、戦後の混乱に乗じて誕生した巨大な闇市だったという。そこに「ニュー新橋ビル」を建てて、闇市の人々を入居させた結果、一店舗あたりの面積が極小になった上に、実に多様な店が集まったのが始まりらしい。
じっくりと中を見たことはなかったので、行ってみることにした。
4階までの各フロアを散策する。地階と1階は窮屈ながら賑やかな飲食店街といった印象で楽しげだが、エスカレーターで2階に上がった途端、空気が変わった。大量のマッサージ店が並んでいて、どの店もアジア系の女性店員が店の前に立ち、客引きをしている。まともなマッサージ店ではない店も多そうだった。
東京でも有数の利用者数を誇る新橋駅の前に、こんなにも夜の気配を感じさせるエリアがあることに驚く。逃げるように3階に上がると、今度は小さな病院がいくつも入居しているほか、弁護士事務所や税理士事務所もあって、2階とのギャップが大きい。
