大手IT企業を退職しプロ雀士として生きることを決めた才女・朝比奈ゆり 業界期待のヒロイン候補の“生き方”に迫る
大手IT企業のサイバーエージェントを在籍5年で退職し、麻雀プロの道を突き進むことを選んだ女流雀士がいる。日本プロ麻雀連盟に所属する朝比奈ゆりだ。
【写真】「Mリーグを見て麻雀を覚えました」と語る朝比奈ゆりさん
朝比奈はサイバーエージェントが手掛けるインターネットテレビ局・ABEMAの仕事を通じて麻雀にのめり込み、そこから麻雀プロとして活動。プロ歴1、2年目に日本プロ麻雀連盟の第16、17期WRCリーグを連覇、第9期桜蕾戦に優勝するなど結果を出し、注目の若手プロ雀士として活躍を続けている。
“麻雀界の次世代ヒロイン”として期待が集まる朝比奈は一体どんな人物なのか。これまでの歩みに迫った。(前後編の前編)
“ルールを覚えなきゃ” Mリーグを見ながら一生懸命勉強をしていました
朝比奈は1998年生まれの27歳。東京生まれ東京育ちで、「女子御三家」のひとつである桜蔭中学校・高等学校に通った才女だ。「小学校は公立校に通っていて、中学から桜蔭に入学しました。偏差値高めの学校でしたが、特に勉強が好きというわけではなかったです」(朝比奈、以下同)と笑った。
父は医者。ただ、朝比奈が生まれた頃はフリーターで、そこから勉強し医学部に進学したという。「私が小学生の頃、父は研修医でした。中学生の時にお医者さんになりました。30歳を超えてからお医者さんになるのは大変だったと思います。私も“頑張ろう”と思ったことは努力する方ですが、父の方が物事を突き詰める力はあると思います」。
慶應大学の文学部に進学。体育会ゴルフ部に入るなどで、4年間を謳歌した。就職を考える際、お笑いにハマっていたということもあり、「テレビ局に入りたい」と考え、キー局を受けるも縁に恵まれず。そんな中でインターネットテレビ局・ABEMAを手がけるサイバーエージェントの就職試験に合格し、2021年に入社した。
サイバーエージェントといえば、プロ麻雀リーグ「Mリーグ」を創設し、現在も同リーグのチェアマンを務める藤田晋氏が作った会社だ。ABEMAではMリーグを全試合生中継している。そんな中で、社会人2年目として働く朝比奈に、大きな転機が訪れた。ABEMAの麻雀分野を担当することになったのだ。
「当時の仕事のミッションは麻雀チャンネルを頻繁に見てくださる方たちに、よりABEMAにハマってもらうことでした。ただ、プランナーになるまで、まったく麻雀に触れたことがなかったので知識もなく、アイデアを出すのが難しかった。“ルールを覚えなきゃ”ということで、Mリーグを見ながら一生懸命勉強をしていました。気づいたら麻雀にハマっていましたね」。
“ここが勝負所”と考えて退職を決断
麻雀にハマってすぐ“プロになろう”と思ったわけではなく、純粋に“強くなりたい”と考え、日本プロ麻雀連盟が開催するアマチュア向けの女流勉強会に参加するようになった。会社近くにある競技麻雀店「オクタゴン」にも足繁く通い、研鑽を積んだ。「仕事終わり、部活動に参加するみたいな感じで走ってオクタゴンに行っていました(笑)。そういった中で麻雀を学んでいくうちに、“プロの世界っていいな”と考えるようになっていました」。
「お仕事で渋谷ABEMASの白鳥翔さんと関わる機会があったのですが、その時にお話をさせていただいて“麻雀ってめっちゃ熱い世界なんだな”と思いました。女流勉強会では、滝沢和典さんと藤島健二郎さんに教わり、“プロは見えている世界が違う”ということを肌で感じました。私も同じ土俵に立ち、いつかは追いつき追い越したいという気持ちがどんどん強くなりました」。
2024年の4月、会社員として働きながら麻雀プロの資格を取得。プロ1、2年目でJPML WRCリーグ連覇、桜蕾戦優勝と短期間で好成績を上げて業界の注目を集めた。「プロになったからには“最強になりたい”という思いは当初からあったんですけど、チャンスをいただく中で、ハイレベルな選手と戦う機会も多くなりました。それが刺激になっていました」。
2026年6月、新卒から5年ほど勤めたサイバーエージェントを退職した。大手IT企業を辞めるという思い切った決断を下したわけだが、朝比奈に迷いはなかったのだろうか?
「収入がなくなることへの不安はありましたが、プロ雀士として結果を出したことで、次のチャンスが一気に舞い込んできた時期でもありました。大きな舞台にもいっぱい呼んでいただける中、普段のお仕事もあって、向上心はあるけれど、体力がついてこない…そんな状態が続き、“このまま中途半端な状態を続けてしまっては後悔しそう…ここが勝負所だ”と考えて、退職することにしました」。
“なんとかなる”という気持ちが大きい人なのかもしれない
サイバーエージェントの上司に退職の意向を伝えると、「遅かれ早かれこうなるとは思っていたけど、意外と早かったね」と言われたそうだ。そのくらい、朝比奈の麻雀熱は同じ会社で働く人間に伝わっていた。「昔から何かにハマると、熱中しちゃう性格。他のことが見えなくなる性質があります(笑)」。
家族にも退職の相談はせずに事後報告。両親には、特に反対はされなかったそうだ。「私は事務作業に弱いタイプなので、税金のことを心配されました。『ちゃんと払えるの? 確定申告とかできないでしょ…? ちゃんとやるんだったらいいけど……』みたいな」とやり取りを振り返った。
「父は昔から祖父に『医者になれ』と言われてきたと思うんですけど、それに反発しながら生きていました。だからこそ自分の子供が選んだ生き方を反対することをしなかったんだと思います。自分がやられて嫌だったことは子供にはしないと決めているのかもしれないですね」。
朝比奈のサラリーマン時代の経験は麻雀に活きている。「対局の反省点をしっかりと修正して、次に繋げる思考は社会人を経験する中で根付いたと思います。この考え方は自分を成長させていくことにおいて必要なことだと思っています」と力を込める。
安定した生活に別れを告げて、飛び込んだ厳しいプロ雀士の世界。そんな中で、朝比奈を突き動かすのは“麻雀が楽しい”という気持ちだ。「麻雀って本当に面白いんです。結局のところ、麻雀界でお仕事される方は“一に麻雀が楽しい”という気持ちがあるんだと思います。私も同じ。新しく知った楽しい世界に素直に飛び込んで今があります」と目を輝かせる。
「“最終的にはなんとかなる”という気持ちが大きい人なのかもしれないです。ちょっとだけ貯金もあるし、仮にそれが尽きてしまって“麻雀一本だと無理”となったら、また何かで一生懸命働けば良いと思います。そこは楽観的に考えているかもしれないですね」。
取材・文/中山洋平 撮影/藤木裕之

